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おさえておきたい肺癌診療の最新トピックス〜COVID-19流行下の肺癌診療〜

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COVID-19の流行による肺癌診療への影響とその変遷

 いわゆる第1波(2020年3月~5月)、第2波(2020年6月~8月)にあたる感染拡大初期の頃は、外出や医療機関の受診によるCOVID-19への罹患を恐れた患者さんの受診控えが目立ちました。実際に、「今はがん治療を受けている場合ではない」と、2~3ヵ月来院されない患者さんもいらっしゃいました。初期の混乱を一定程度乗り越えた後も、やはり通常の診療体制には戻らず、特にCOVID-19診療を行う医療施設では、感染患者の受け入れによる病棟の圧迫で肺癌患者さんの入院治療および外来治療が制限されたところも多かったと思います。また、入院できないからと、外来化学療法室で治療を行う比重が増えたりもしました。

 2021年12月下旬からの第6波の頃には、多くの一般病院がCOVID-19診療を行うようになりました。これにより、どこの病院もコロナ病棟として一定数の病床を占有し、かつ、医療スタッフを重点配備した結果、今度はそれまで問題となっていなかった終末期の肺癌患者さんの緩和ケアに影響が生じました。この第6波でみられた影響は、社会的には大きな問題として取り上げられていませんが、短期間であったから何とかしのげたものの、終末期の患者さんの受け入れ態勢が整っていないというのは非常に深刻な問題であったと考えています。


国内の調査結果からみるCOVID-19が肺癌診療に及ぼした影響

 日本肺癌学会では、COVID-19が肺癌診療に及ぼす影響について2度にわたる調査が実施され、これらの調査結果から肺癌治療の新規患者数の減少が明らかとなりました1,2)。初回調査では、全国118施設における2020年1月~10月の肺癌治療の新規患者数は、2019年1月~10月と比較して6.6%減少しました(表1)。この初回調査で患者数に影響が表れたのは2020年4月からであったため、追加調査では2020年度1年間の肺癌患者数への影響を検討しました。その結果、全国27施設における2020年度の肺癌治療の新規患者数は、2019年度に比べて14.0%減少しています(表2)。また、追加調査では、ステージ別の患者数の増減も示されており、IA期とIV期で患者数の減少幅が大きくなっています(表3)。

表1

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ALB_国内の調査結果からみるCOVID-19が肺癌診療に及ぼした影響_表1
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ALB_国内の調査結果からみるCOVID-19が肺癌診療に及ぼした影響_表1

表2

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ALB_国内の調査結果からみるCOVID-19が肺癌診療に及ぼした影響_表2
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ALB_国内の調査結果からみるCOVID-19が肺癌診療に及ぼした影響_表2

表3

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ALB_国内の調査結果からみるCOVID-19が肺癌診療に及ぼした影響_表3
本文

 こうした新規患者数の減少要因のひとつは、検診の受診控えにあると考えられます。日本肺癌学会の追加調査では、発見経緯別の患者数の増減として、検診で10.6%の減少を認めました(表4)。本調査は27施設という限られた施設数からの回答によるデータであり、あくまで参考値です。しかし、院内がん登録2020年全国集計においても、2020年通年で過去4ヵ月との増減をみたとき、肺癌の検診発見例は90.3%(1,587件減)と報告されており3)、肺癌学会の調査と類似した結果が示されています。

 重要なのは、2020年と比較して、どれだけ検診受診者数が戻っているかだと思います。日本対がん協会の調査結果では、肺がん検診の受診者数は2021年にある程度増加しているものの、2019年の検診者数には至っておりません(図1)。この時期に検診の受診を控えたために発見されなかった肺癌患者さんが、2~3年後に症状が出現し、進行期で発見されるというケースが今後出てくると予想され、そのような方が増えてしまうのが懸念されるところです。

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ALB_国内の調査結果からみるCOVID-19が肺癌診療に及ぼした影響_表3
本文

 こうした新規患者数の減少要因のひとつは、検診の受診控えにあると考えられます。日本肺癌学会の追加調査では、発見経緯別の患者数の増減として、検診で10.6%の減少を認めました(表4)。本調査は27施設という限られた施設数からの回答によるデータであり、あくまで参考値です。しかし、院内がん登録2020年全国集計においても、2020年通年で過去4ヵ月との増減をみたとき、肺癌の検診発見例は90.3%(1,587件減)と報告されており3)、肺癌学会の調査と類似した結果が示されています。

 重要なのは、2020年と比較して、どれだけ検診受診者数が戻っているかだと思います。日本対がん協会の調査結果では、肺がん検診の受診者数は2021年にある程度増加しているものの、2019年の検診者数には至っておりません(図1)。この時期に検診の受診を控えたために発見されなかった肺癌患者さんが、2~3年後に症状が出現し、進行期で発見されるというケースが今後出てくると予想され、そのような方が増えてしまうのが懸念されるところです。

表4

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ALB_国内の調査結果からみるCOVID-19が肺癌診療に及ぼした影響_表4
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ALB_国内の調査結果からみるCOVID-19が肺癌診療に及ぼした影響_表4

図1

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ALB_国内の調査結果からみるCOVID-19が肺癌診療に及ぼした影響_図1
本文

1)特定非営利活動法人 日本肺癌学会 新型コロナ感染症(COVID-19)が肺癌診療に及ぼす影響調査結果(https://www.haigan.gr.jp/uploads/files/報告事項%E3%80%80COVID-19調査.pdf)
2)特定非営利活動法人 日本肺癌学会 新型コロナ感染症(COVID-19)が肺癌診療に及ぼす影響調査結果(追加調査)(https://www.haigan.gr.jp/uploads/files/新型コロナ感染症(COVID-19)追加調査%281%29.pdf)
3)院内がん登録 2020年全国集計:国立がん研究センターがん情報サービス「がん統計」(全国がん登録)(https://ganjoho.jp/public/qa_links/report/hosp_c/pdf/2020_report.pdf)

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ALB_国内の調査結果からみるCOVID-19が肺癌診療に及ぼした影響_図1
本文

1)特定非営利活動法人 日本肺癌学会 新型コロナ感染症(COVID-19)が肺癌診療に及ぼす影響調査結果(https://www.haigan.gr.jp/uploads/files/報告事項%E3%80%80COVID-19調査.pdf)
2)特定非営利活動法人 日本肺癌学会 新型コロナ感染症(COVID-19)が肺癌診療に及ぼす影響調査結果(追加調査)(https://www.haigan.gr.jp/uploads/files/新型コロナ感染症(COVID-19)追加調査%281%29.pdf)
3)院内がん登録 2020年全国集計:国立がん研究センターがん情報サービス「がん統計」(全国がん登録)(https://ganjoho.jp/public/qa_links/report/hosp_c/pdf/2020_report.pdf)


肺癌患者におけるCOVID-19リスクに関するアップデート

 2022年5月に、胸部腫瘍を有するCOVID-19感染患者を登録する28ヵ国共同研究(Thoracic Cancers International COVID-19 Collaboration:TERAVOLT)からオミクロン株流行下における胸部悪性腫瘍患者の死亡率が報告されました4)。本報告では、2022年1月~2022年2月に登録された346例の胸部悪性腫瘍患者における全死亡率は3.2%で、感染拡大初期に同じグループにより報告された約30%という死亡率5)に比べて低下していました。

 それ以外で特筆すべき新たなデータは、現状、報告されていませんが、そろそろ高齢者や喫煙者が多いといったバイアスを排除した肺癌患者の重症化・死亡リスクに関する精密な解析結果が出てくるのではないかと期待しています。これまでに、肺癌は血液腫瘍に次いで重症化リスクの高い癌種であることや6)、日本呼吸器学会のCOVID-19診療実態では全体死亡率に比べて肺癌患者の死亡率が高いことが示されていますが7)、年齢や喫煙歴を含む生活習慣などの交絡因子を補正したうえで、肺癌患者と一般集団のリスクを比較した研究はまだありません。こうした研究のデータは、日本に比べて患者数が桁違いに多い欧米でないとなかなか出せないので、データをみる際は日本と他国における診療体制やCOVID-19への対応が大きく異なることを念頭におく必要がありますが、COVID-19リスクに対する肺癌の影響を知るうえでは、注目すべきデータのひとつであり、今後の報告が待たれます。

4)Bestvina CM, et al. JTO Clin Res Rep. 2022 May 20; 100335.
5)Garassino MC, et al. Lancet Oncol. 2020; 21(7): 914-922.
6)Dai M, et al. Cancer Discov. 2020; 10(6): 783-791.
7)一般社団法人 日本呼吸器学会 わが国の呼吸器内科における併存呼吸器疾患別にみたCOVID-19の診療実態(https://www.jrs.or.jp/covid19/file/20200713_aii.pdf)


最後に

 COVID-19の新規感染者数は依然として多い状況が続いており、第7波においては過去最多の感染者数を更新しました。世界的にもまだまだ流行が続いていることを考えると、病原性の高い変異株が出現してくるリスクもあると考えられ、引き続き注意を要する状況だと思います。また、変異株の出現以上に注意すべきなのは、やはり院内クラスターの発生でしょう。例えば、オンサイト(現地開催)で学会に出席する機会や、海外出張の機会も増えてきました。そうしたきっかけで職員間でのCOVID-19への集団感染や院内感染へと発展してしまうと病棟を閉鎖するといった事態を招きかねないので、この点についても引き続き十分な警戒が必要だと思います。

 COVID-19の蔓延により、私たちは多くの混乱を経験しました。大切なのは、今回の経験から学び、次に同じようなことが起こったときどうすべきかを考えることです。特に、冒頭にお話しした、第6波の際に行われた一般病院を含むすべての病院で感染症病棟を設置するような事態は、かえって医療の非効率化を招きかねないので、それぞれの医療施設の役割分担について改めて考える必要があるといえるのではないでしょうか。