TTP(血栓性血小板減少性紫斑病)の症状
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TTP(血栓性血小板減少性紫斑病)の症状
主な臨床所見、症状
急性TTPの症状は多様であり、神経系・腎機能系・発熱・循環器系・消化器系に症状が認められる(図1)。
図1:急性TTPの症状1,2)

1) Scully M, et al. Br J Haematol. 2012; 158(3): 323-335.より作成
2) NIH National Heart, Lung, and Blood Institute. Thrombotic Thrombocytopenic Purpura (TTP)
https://www.nhlbi.nih.gov/health/thrombotic-thrombocytopenic-purpura 2023年11月06日閲覧より作成

1) Scully M, et al. Br J Haematol. 2012; 158(3): 323-335.より作成
2) NIH National Heart, Lung, and Blood Institute. Thrombotic Thrombocytopenic Purpura (TTP)
https://www.nhlbi.nih.gov/health/thrombotic-thrombocytopenic-purpura 2023年11月06日閲覧より作成
なかでも、血小板減少、溶血性貧血、腎機能障害、発熱、動揺性精神神経症状の5項目(古典的5徴候)が臨床的に意義のある所見とされてきた(図2)3)。
図2:TTPの古典的5徴候3)

3) 酒井和哉, 松本雅則. 日本内科学会雑誌 2020; 109(7): 1355-1362.より改変

3) 酒井和哉, 松本雅則. 日本内科学会雑誌 2020; 109(7): 1355-1362.より改変
先天性TTPはいずれの年代でも発症する可能性がある(図3)1,4)。
図3:先天性TTPの発症時期とその特徴1,4)

1) Scully M, et al. Br J Haematol. 2012; 158(3): 323-335. より作成
4) Scully M, et al. Blood. 2014; 124(2); 211-219. より作成

1) Scully M, et al. Br J Haematol. 2012; 158(3): 323-335. より作成
4) Scully M, et al. Blood. 2014; 124(2); 211-219. より作成
また、発症した時期によって早期発症型と成人発症型に分類され(図4)、新生児期(生後4週間まで)に重症黄疸で発症する場合が全体の25~40%でみられる5)。また、乳幼児期・小児期の発症では、血小板減少症、微小血管障害性溶血性貧血(MAHA)、黄疸、LDH高値、神経症状などがみられるため1)、これらの症状を見落とさないことが、先天性TTP患者を早期に診断し適切に治療するために重要である。
図4:先天性TTPの分類5)

5) 厚生労働科学研究費補助金 難治性疾患政策研究事業 「血液凝固異常症等に関する研究班」 TTPグループ. 臨床血液. 2023; 64(6): 445-460.

5) 厚生労働科学研究費補助金 難治性疾患政策研究事業 「血液凝固異常症等に関する研究班」 TTPグループ. 臨床血液. 2023; 64(6): 445-460.
予後、合併症
TTPの長期的影響は多岐にわたり、先天性TTPでは脳梗塞、一過性脳虚血発作(TIA)、急性・慢性腎障害などの致死的な合併症の頻度が高いことが報告されている(図5)6)。その他にも、合併症として認知機能障害、自己免疫疾患、うつ病、不定愁訴の症状があらわれることがある(図6)7,8)。
また、急性エピソードを発症した患者は再発リスクが高いこと9)やQOLの低下10)、生存率の低下9)といった長期的影響がみられることがある。
図5:先天性TTPの合併症6 )

6) 日笠 聡 : 血栓止血誌. 2022; 33(4): 408-413より作成

6) 日笠 聡 : 血栓止血誌. 2022; 33(4): 408-413より作成
図6:TTPの長期的影響(海外データ)7,8)

SLE:全身性エリテマトーデス
7) George JN. Hematology Am Soc Hematol Educ Program. 2018; 2018(1): 548-552.より作成
8) Alwan F, et al. Blood. 2019; 133(15): 1644-1651.より作成
著者にShire社(現:Takeda)より研究資金等を受領している者が含まれる。

SLE:全身性エリテマトーデス
7) George JN. Hematology Am Soc Hematol Educ Program. 2018; 2018(1): 548-552.より作成
8) Alwan F, et al. Blood. 2019; 133(15): 1644-1651.より作成
著者にShire社(現:Takeda)より研究資金等を受領している者が含まれる。
TTPの予後は、治療法が確立する以前は無治療となり致死率90%以上の予後不良な疾患であったが11)、血漿交換療法導入により致死率は20%程度となった(図7)12,13)。
図7:TTPの予後11-13)

11) Amorosi EL, et al. Medicine. 1966; 45: 139-160. より作成
12) Rock GA, et al. N Engl J Med. 1991; 325: 393-397.より作成
13) Matsumoto M, et al. PLoS ONE. 2012; 7: e33029. より作成

11) Amorosi EL, et al. Medicine. 1966; 45: 139-160. より作成
12) Rock GA, et al. N Engl J Med. 1991; 325: 393-397.より作成
13) Matsumoto M, et al. PLoS ONE. 2012; 7: e33029. より作成
先天性TTPでは、診断前の主な合併症として脳卒中又はTIA、流産又は死産などが報告されている(表1)8)。
表1:先天性TTP診断前の主な合併症8)
- 顔面麻痺
- 流産/死産
- 肺出血
- 網膜静脈血栓症
- 痙攣
- 脳卒中/TIA
- 妊娠後期合併症(分娩前出血、胎児発育困難、胎盤剥離、子癇前症)
- 視覚障害
8) Alwan F, et al. Blood. 2019; 133(15): 1644-1651.より作成 著者にShire社(現:Takeda)より研究資金等を受領している者が含まれる。
妊婦とTTP
妊娠中又は産後のTTPの発生頻度は全TTP症例の10~25%を占め、その発症率/発生頻度は妊娠女性1,000~10,000人中1人(血小板減少症を伴う全妊娠の3%)である14)。
妊婦のTTPでは、血中フォン・ヴィレブランド因子が増加することにより、TTP症状が生じやすくなる15)。とくに、妊娠25週以前に妊娠高血圧腎症がみられる場合は先天性TTPの可能性が考えられる15)。重症妊娠高血圧腎症では、けいれん発作(子癇)、脳出血、肝臓や腎臓の機能障害、溶血と血小板減少などを引き起こすこともある16)。
TTPの既往歴がある女性は、妊娠によりTTP再発リスクが高くなると考えられている(図8)17)。一方、先天性TTP診断後の妊娠の場合や新鮮凍結血漿(FFP)投与を行った場合には、胎児生存率が高くなることが報告されており、早期に診断すること及び妊娠期間を通して5mL/kg以上のFFP定期輸注を毎週行うことが妊娠管理に不可欠と考えられる(図9) 18)。
図8:将来の妊娠でTTPが再発するリスク(海外データ)17)

17) Fyfe-Brown A, et al. AJP Rep. 2013; 3(1): 45-50.より作成

17) Fyfe-Brown A, et al. AJP Rep. 2013; 3(1): 45-50.より作成
図9:先天性TTP患者における妊娠と治療18)

18) Sakai K, et al. J Thromb Haemost.2020;18(11):2929-2941.改変 著者にアドバイザリーボードのメンバー1名が含まれる。

18) Sakai K, et al. J Thromb Haemost.2020;18(11):2929-2941.改変 著者にアドバイザリーボードのメンバー1名が含まれる。
TTP患者のQOL
TTPは患者のQOLにも長期的に影響する疾患である。米国の報告では、TTP回復後6~24ヵ月群のHRQoLスコアは、すべてのドメイン及びサマリースコアにおいて、米国の一般集団よりも有意に低いスコアであったことが示されている(すべての95%CI<50点、Independent t tests)10)。
図10:TTPエピソードとHRQoL(海外データ)10)

10) Lewis QF, et al. Transfusion. 2009; 49(1): 118-124.

10) Lewis QF, et al. Transfusion. 2009; 49(1): 118-124.
参考文献
1) Scully M, et al. Br J Haematol. 2012; 158(3): 323-335.
2) NIH National Heart, Lung, and Blood Institute. Thrombotic Thrombocytopenic Purpura (TTP)
https://www.nhlbi.nih.gov/health/thrombotic-thrombocytopenic-purpura 2023年11月6日閲覧
3) 酒井 和哉, 他: 日内会誌. 2020; 109(7): 1335-1362.
4) Scully M, et al. Blood. 2014; 124(2): 211-219.
5) 厚生労働科学研究費補助金 難治性疾患政策研究事業 「血液凝固異常症等に関する研究班」 TTPグループ. 臨床血液. 2023; 64(6): 445-460.
6)日笠 聡 : 血栓止血誌. 2022; 33(4): 408-413.
7) George JN. Hematology Am Soc Hematol Educ Program. 2018; 2018(1): 548-552.
8) Alwan F, et al. Blood. 2019; 133(15): 1644-1651. 著者にShire社(現:Takeda)より研究資金等を受領している者が含まれる。
9) Kremer Hovinga JA, et al. Nat Rev Dis Primers. 2017; 3: 17020.
10) Lewis QF, et al. Transfusion. 2009; 49(1): 118-124.
11) Amorosi EL, et al. Medicine. 1966; 45: 139-160.
12) Rock GA, et al. N Engl J Med. 1991; 325: 393-397.
13) Matsumoto M, et al. PLoS ONE. 2012; 7: e33029.
14) Al-Husban N, et al. J Med Case Rep 2018;12(1):147.
15) Kremer Hovinga JA, George JN. N Engl J Med. 2019; 381(17): 1653-1662.
16) 日本産科婦人科学会 妊娠高血圧症候群
https://www.jsog.or.jp/modules/diseases/index.php?content_id=6 2023年11月6日閲覧
17) Fyfe-Brown A, et al. AJP Rep. 2013; 3(1): 45-50.
18) Sakai K, et al. J Thromb Haemost. 2020; 18(11): 2929-2941. 著者にアドバイザリーボードのメンバー1名が含まれる。