TTP(血栓性血小板減少性紫斑病)とは
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TTP(血栓性血小板減少性紫斑病)とは
TTPの疫学
TTP(血栓性血小板減少性紫斑病)は、先天性TTP及び後天性TTPに大別される。
先天性TTPはADAMTS13遺伝子の遺伝的変異により発症する1)。遺伝性TTPは、アップショー・シュールマン症候群とも呼ばれ2)、小児期発症のTTPに比較的多くみられる疾患である1)。後天性TTPはADAMTS13に対する自己抗体(インヒビター)が原因で発症する疾患で、免疫性TTPとも呼ばれる2)。
両者の比率は先天性TTPが5.5%、後天性94.5%と後天性TTPが多く認められたことが報告されている(図1)1)。また、TTPの初回急性エピソードの91.0%は成人期に発症するが、小児や思春期に発症する症例も存在する(図1)1)。
図1:患者100例中のTTPの頻度分布1) (海外データ)
1) Joly BS, et al. Blood. 2017; 129(21): 2836-2846.より改変
1) Joly BS, et al. Blood. 2017; 129(21): 2836-2846.より改変
先天性TTP及び後天性TTPの人口統計2)、発症率3)、年齢2)の比較は表1に示すとおりである。
先天性TTPは、罹患率には男女差がなく2)、発症率は100万人あたり約0.5~2人とされている3)。患者の半数は2~5歳までに、残りの半数は成人期初期(しばしば妊娠中)に初発症状を呈する2)。
後天性TTPでは、女性及び黒人の方が男性及び非黒人より発症率が高いという報告がある2)。年間発症率は100万人あたり約1.5〜6人で3)、主に成人で発症し、欧米では30~50歳台、日本では70歳台が発症率のピークとなっている2)。
表1:先天性TTP及び後天性TTPの疫学(海外データ)
2) Kremer H, et al. Nat Rev Dis Prim. 2017; 3: 17020.より作成
3) Sukumar S, et al. J Clin Med. 2021; 10(3): 536. より作成
2) Kremer H, et al. Nat Rev Dis Prim. 2017; 3: 17020.より作成
3) Sukumar S, et al. J Clin Med. 2021; 10(3): 536. より作成
TTPはADAMTS13活性が著減し、全身の微小血管に血小板血栓が形成されることによって発症する疾患である4)。ADAMTS13酵素活性の著減は、図2に示すように先天性TTP及び後天性TTPでそれぞれ異なるメカニズムに起因して生じる。先天性TTPでは遺伝子変異によるADAMTS13の血中分泌阻害、又は活性低下2,5)、後天性TTPでは抗体を介したADAMTS13活性阻害2,6)が原因となると考えられている。
図2:ADAMTS13酵素活性が著減するメカニズム
2) Kremer Hovinga JA, et al. Nat Rev Dis Primers. 2017; 3: 17020. より作成
5) Lotta LA, et al. Hum Mutat. 2010; 31(1): 11-19. より作成
6) Tsai H-M, et al. N Engl J Med. 1998; 339(22): 1585-1594. より作成
2) Kremer Hovinga JA, et al. Nat Rev Dis Primers. 2017; 3: 17020. より作成
5) Lotta LA, et al. Hum Mutat. 2010; 31(1): 11-19. より作成
6) Tsai H-M, et al. N Engl J Med. 1998; 339(22): 1585-1594. より作成
欧州における先天性TTP患者の推計頻度は100万人あたり0.5~4人とされる7)。本邦での推計頻度は110万人あたり1人と報告されおり(図3左)8)、2022年末までに、70例(男性が29例、女性が41例)が先天性TTPと診断されている(図3右)4)。本疾患は常染色体潜性遺伝であるため、男女は同数となるはずであるが、女性にやや多くみられる理由は妊娠時に先天性TTPと診断される症例が多いためと考えられている4)。
図3:本邦における先天性TTP
4) 厚生労働科学研究費補助金 難治性疾患政策研究事業 「血液凝固異常症等に関する研究班」
TTPグループ. 臨床血液. 2023; 64(6): 445-460.より作成
7) Taleghani MM, et al. Hamostaseologie. 2013; 33(02): 138-143.
8) Kokame K, et al. J Thromb Haemost. 2011; 9(8): 1654-1656.より作成
4) 厚生労働科学研究費補助金 難治性疾患政策研究事業 「血液凝固異常症等に関する研究班」
TTPグループ. 臨床血液. 2023; 64(6): 445-460.より作成
7) Taleghani MM, et al. Hamostaseologie. 2013; 33(02): 138-143.
8) Kokame K, et al. J Thromb Haemost. 2011; 9(8): 1654-1656.より作成
後天性TTPに関しては、診断基準が定められる以前には、TTPの推計頻度は海外では100万人あたり 4 〜 11 人と報告され9,10)、ADAMTS13活性が5%未満まで低下した患者は100万人あたり1.74人で認められた9)。本邦においても診断基準が定められる以前には100万人あたり毎年4人(0.0004%)がTTPを発症するとされており、このうち95%程度を後天性TTPが占めていたことが考えられる(図4左)11)。また、ADAMTS13活性が5%未満まで低下した日本人患者では、年齢の中央値が54歳とやや高齢で、女性の比率が55%であった(図4右)12)。
図4:本邦における後天性TTP
9)Terrell DR, et al. J Thromb Haemost 2005; 3: 1432-1436.
10)Scully M, et al. Br J Haematol 2008; 142: 819-826.
11) 難病情報センター 血栓性血小板減少性紫斑病(TTP)(指定難病64)https://www.nanbyou.or.jp/entry/87 2026年1月7日閲覧より作成
12) Matsumoto M, et al. PLoS One 2012; 7: e33029.より作成
9)Terrell DR, et al. J Thromb Haemost 2005; 3: 1432-1436.
10)Scully M, et al. Br J Haematol 2008; 142: 819-826.
11) 難病情報センター 血栓性血小板減少性紫斑病(TTP)(指定難病64)https://www.nanbyou.or.jp/entry/87 2026年1月7日閲覧より作成
12) Matsumoto M, et al. PLoS One 2012; 7: e33029.より作成
TTPの発症機序
ADAMTS13の基質であるフォン・ヴィレブランド因子(von Willebrand factor:VWF)は、血管内皮細胞と血小板あるいは血小板同士を結合させる「分子糊(ぶんしのり)」としての役割を有する11,13)。血漿中のVWFは主に血管内皮細胞で産生され、分泌直後は超高分子量VWF多重体(UL-VWFM)として存在する11,13)。VWFの血小板との結合能は、その分子量の大きさに応じて強くなるため、UL-VWFMは非常に強い活性を有する。
正常な血漿では、UL-VWFMはADAMTS13によって分解される11,13)。一方、TTPではADAMTS13活性が著減するため、UL-VWFMが切断されず血中に蓄積する11,13)。VWFの血小板血栓形成能は、物体を歪ませる力である“ずり応力”にも関連している。血流が速く、血管径の小さい末梢細動脈等では、高いずり応力によってUL-VWFMが引き延ばされて活性化し、過剰な血小板凝集が引き起こされて血栓を生じやすくなる11,13)。この血小板血栓により、腎臓や脳などの臓器の障害が発生すると考えられている13)。
先天性TTPでは、遺伝子変異によるADAMTS13の血中分泌阻害、又は活性低下が原因とされ(図5)、200超の変異が先天性TTPに関連するとされている14)。また、先天性TTP患者の多くは複合ヘテロ接合体変異であり、ホモ接合体変異の報告は少ない15)。
図5:先天性TTPの発症機序
13) 松本雅則. 日本臨床免疫学会会誌 2013; 36 (2): 95-103.より作成
13) 松本雅則. 日本臨床免疫学会会誌 2013; 36 (2): 95-103.より作成
後天性TTPでは、抗体を介したADAMTS13活性阻害2,6)が原因とされ(図6)、後天性TTP患者の多くが抗ADAMTS13自己抗体を有しており、患者の10~25%は、ADAMTS13のクリアランスを促進すると考えられている非阻害性の自己抗体を有している2)。また、ほぼすべての自己抗体が、ADAMTS13のスペーサードメインを対象としていることが示唆されている2)。
図6:後天性TTPの発症機序
13) 松本雅則. 日本臨床免疫学会会誌 2013; 36 (2): 95-103.より作成
13) 松本雅則. 日本臨床免疫学会会誌 2013; 36 (2): 95-103.より作成
先天性TTPと遺伝
先天性TTPの原因となるADAMTS13遺伝子変異の遺伝形式は常染色体潜性遺伝である11)。常染色体潜性遺伝では、一方の染色体に変異のある遺伝子が存在していても、もう一方の染色体に正常遺伝子が存在すれば、明らかな症状は出現しないことが多い(保因者)。TTP患者の両親は保因者であることが多く、先天性TTP患者の子どもも、保因者であることが多いといわれている(図7)11)。
図7:ADAMTS13遺伝子の遺伝形式
一方、後天性TTPの遺伝性は今のところ認められていない11)。後天性TTPは自己免疫疾患のひとつであると考えられており13)、後天性TTP患者での他の自己免疫疾患の存在も報告されている2)。
一方、後天性TTPの遺伝性は今のところ認められていない11)。後天性TTPは自己免疫疾患のひとつであると考えられており13)、後天性TTP患者での他の自己免疫疾患の存在も報告されている2)。
参考文献
1) Joly BS, et al. Blood. 2017; 129(21): 2836-2846.
2) Kremer Hovinga JA, et al. Nat Rev Dis Prim. 2017; 3: 17020.
3) Sukumar S, et al. J Clin Med. 2021; 10(3): 536.
4)厚生労働科学研究費補助金 難治性疾患政策研究事業 「血液凝固異常症等に関する研究班」 TTPグループ. 臨床血液. 2023; 64(6): 445-460.
5) Lotta LA, et al. Hum Mutat. 2010; 31(1): 11-19.
6) Tsai H-M, et al. N Engl J Med. 1998; 339(22): 1585-1594.
7) Taleghani MM, et al. Hamostaseologie. 2013; 33(02): 138-143.
8) Kokame K, et al. J Thromb Haemost. 2011; 9(8): 1654-1656.
9)Terrell DR, et al. J Thromb Haemost 2005; 3: 1432-1436.
10)Scully M, et al. Br J Haematol 2008; 142: 819-826.
11) 難病情報センター 血栓性血小板減少性紫斑病(TTP)(指定難病64)
https://www.nanbyou.or.jp/entry/87 2026年1月7日閲覧
12) Matsumoto M, et al. PLoS One 2012; 7: e33029.
13) 松本雅則. 日本臨床免疫学会会誌 2013; 36 (2): 95-103.
14) van Dorland HA, et al. Haematologica. 2019; 104(10): 2107-2115.
本研究はBaxalta US社(Takedaグループ)の資金助成を受けている。著者に武田科学振興財団より資金援助を受けている者が含まれる。
15) Galbusera M, et al. Haematologica. 2009; 94(2): 166-170.