筋力低下と伝導ブロック


CIDPの筋力低下が起こる理由
慢性炎症性脱髄性多発根ニューロパチー(chronic inflammatory demyelinating polyradiculoneuropathy)は、脱髄と伝導ブロックを主徴とする疾患です。
CIDPで筋力低下が起こる理由としては、次の2つが挙げられます。
ひとつは、軸索が正常のまま伝導していない、つまり伝導ブロックを起こしている状態です。
この場合、筋力低下のわりに筋萎縮が軽いことが特徴です。
もうひとつは、軸索変性です。軸索変性は直接筋力低下につながります。臨床的には程なく筋萎縮を起こします。
CIDPでは両者が混在しますが、通常、病初期は伝導ブロックが優位です。しかし進行期には軸索変性が高度となり、治療効果が望めなくなっていくケースもあります。そうならないように早めに十分な治療を行っていく必要があります。
伝導ブロック
伝導ブロックという言葉には2つの意味があり、これは意識して使ってほしいと思います。
まずは生理学的な伝導ブロック、つまり本来の意味の伝導ブロックです。軸索は正常なまま神経伝導が停止している状態です。もうひとつは、電気生理学的な伝導ブロック所見です。これは伝導ブロックの電気生理学的基準を満たす電気生理所見を指します。電気生理学的な伝導ブロック所見があれば生理学的な伝導ブロックが含まれている可能性が高いですが、そうではない可能性もあるので注意が必要です。
リチャード・ルイス先生の総説では、伝導ブロックを「伝導は停止しているが、軸索は正常に保たれている状態」と定義しています1)。ただし、ここでは「伝導所見が臨床像と合致していることを確認することが重要」ということも断っています。つまり、「ブロックがあれば、その先に信号が伝わらないので筋力低下があるはずである」ということを意識しながら診るということです。
1)Lewis RA. Curr Opin Neurol, 2007;20(5):525-530.
MADSAMの尺骨神経伝導障害
実際の症例を動画とともにご紹介します。
【動画】作成:国分 則人
本症例は重症の多巣性脱髄性感覚運動型(multifocal acquired demyelinating sensory and motor:MADSAM)で、小指外転筋筋力は2レベルです。しかしCMAPは非常に伝導は遅いものの9mVを超えています。力が出ないのにCMAPが大きい、これが伝導ブロックを疑う最も大切な所見です。この症例では、CMAPが遠位で9.6mV、肘上部刺激まで正常振幅ですが、腋窩で急に2mV以下となっています。腋窩と肘上部の間で強い伝導ブロックがあると考えられます。
伝導ブロックの程度と筋力はよく見合うと考えられます。
また、CMAPが落ちていないところでも伝導速度は遅くなっています。伝導速度が落ちる部位と筋力低下の原因となる伝導ブロックが起きている部位は別なところにあるということが分かります。
MMNの膝窩部腓骨神経伝導ブロック
続いての症例は、多巣性運動ニューロパチー(multifocal motor neuropathy:MMN)で前脛骨筋筋力が右で4レベル、一方、左は自分の足首を全く持ち上げることができない状態です。
【動画】作成:国分 則人
動画では前脛骨筋に電極を置いて腓骨神経を刺激しています。腓骨頭部刺激では、前脛骨筋がよく収縮することを確認できます。これを2cmずつ近位にずらしていくと、動かなくなる場所があります。CMAP波形はここで大きく減高し、伝導ブロック所見がみられました。MMNでは生理的絞扼部の伝導ブロックを採用しない決まりなので、この所見でMMNと診断することは出来ませんが、この症例では正中神経前腕部にも伝導ブロックがあったため、MMNと診断しました。筋力低下がある場合は、その原因となる伝導ブロックがどこにあるのか、あるいは筋力低下の原因が軸索変性なのかを意識することが大切です。
まとめ
- CIDPの筋力低下の原因は軸索変性と伝導ブロックであり、病初期は伝導ブロックが優位です
- 電気生理学的な伝導ブロック所見がみられた場合は、被検筋の筋力低下を確かめる必要があります
- 筋力低下がある場合は、その原因となる伝導ブロックがどこにあるのかを意識することが重要です