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【Service User】…2023/11/18(土) - 16:13 に投稿

CIDP病状評価

<p>監修:埼玉医科大学総合医療センター 脳神経内科 教授 海田 賢一 先生</p>

領域別情報・医療情報

PID ナビ(原発性免疫不全症)

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原発性免疫不全症(PID)について
PIDを疑う10の徴候
PIDの診断
PIDの治療
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CIDPナビ(慢性炎症性脱髄性多発根神経炎)

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EAN/PNSガイドラインにおけるCIDP診療のポイント
CIDP病状評価
神経伝導検査の実際 脱髄と伝導遅延
筋力低下と伝導ブロック

SIDナビ(続発性免疫不全症)

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重症筋無力症

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ガイドラインにおけるCIDPの治療効果判定

慢性炎症性脱髄性多発根ニューロパチー、多巣性運動ニューロパチー診療ガイドライン2024で引用されているように、EAN/PNSガイドラインでのCIDP診断基準1では、免疫治療(免疫グロブリン静注療法、血漿交換、副腎皮質ステロイド薬)への反応性はCIDPの診断を支持する項目とされました。一方で、免疫治療へ反応性があることはCIDPに特異的な所見ではなく他疾患でもみられること、および免疫治療への反応性の欠如はCIDPを除外することにならないことに留意すべきとされています。
EAN/PNSガイドラインでは、免疫治療への反応性の確認には、客観的な指標として能力低下(disability)と機能障害(impairment)の両者での改善を確認する必要があるとされています1

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能力低下(disability)としては、Inflammatory Rasch-built Overall Disability ScaleI-RODS)(表12Inflammatory Neuropathy Cause and TreatmentINCATdisability scale(表234で評価できます。
機能障害(impairment)は、Medical Research CouncilMRCsum score 5060:左右の肩外転、肘屈、手根伸展、股関節屈曲、膝伸展、足関節背屈のMRCスコアの合計)、Modified INCAT Sensory sum scoremISS6Neuropathy Impairment Score7ハンドヘルドダイナモメーターを持いた握力測定で評価できます。

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能力低下(disability)としては、Inflammatory Rasch-built Overall Disability ScaleI-RODS)(表12Inflammatory Neuropathy Cause and TreatmentINCATdisability scale(表234で評価できます。
機能障害(impairment)は、Medical Research CouncilMRCsum score 5060:左右の肩外転、肘屈、手根伸展、股関節屈曲、膝伸展、足関節背屈のMRCスコアの合計)、Modified INCAT Sensory sum scoremISS6Neuropathy Impairment Score7ハンドヘルドダイナモメーターを持いた握力測定で評価できます。

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どの程度の変化があれば治療反応性があると定義できるのか十分な検証はされていませんが、過去の臨床試験で用いられた基準が参考になります(表3)。
経静脈的免疫グロブリン療法に関するランダム化対照比較試験のサブ解析では、臨床症状と電気生理学的検査(複合筋活動電位[compound muscle action potentialCMAP])、伝導ブロック、運動神経伝導速度[motor conduction velocityMCV])の改善度は有意な相関を示しています8
一方、CIDP31例の臨床症状と電気生理学的検査の検討では、筋力低下とCMAP低下、MCV低下は相関したが伝導ブロックの有無と遠位潜時の延長は相関がなかったとされており、多変量解析ではCMAP低下のみが筋力低下の規定因子であるが、同時にMCVや遠位潜時デー タの改善、伝導プロック解除も予後規定因子として適切であると結論づけられました9

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どの程度の変化があれば治療反応性があると定義できるのか十分な検証はされていませんが、過去の臨床試験で用いられた基準が参考になります(表3)。
経静脈的免疫グロブリン療法に関するランダム化対照比較試験のサブ解析では、臨床症状と電気生理学的検査(複合筋活動電位[compound muscle action potentialCMAP])、伝導ブロック、運動神経伝導速度[motor conduction velocityMCV])の改善度は有意な相関を示しています8
一方、CIDP31例の臨床症状と電気生理学的検査の検討では、筋力低下とCMAP低下、MCV低下は相関したが伝導ブロックの有無と遠位潜時の延長は相関がなかったとされており、多変量解析ではCMAP低下のみが筋力低下の規定因子であるが、同時にMCVや遠位潜時デー タの改善、伝導プロック解除も予後規定因子として適切であると結論づけられました9

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文献

1Van den,Bergh PYK,van Doorn PA,Hadden ROM,et al. European Academy of Neurology/Peripheral Nerve Society
      guideline on diagnosis and treatent of cronic inflammatory demyelinatin polyradiculoneuropaty:Report of a      
      joint Task Force-Second revision. J Peripher Nerv Syst 2021;26:242-268.

2van Nes SI,Vanhoutte EK,van,Doorn PA,et al. Rasch-built Overall Disability ScaleR-ODSfor-immunemediated 
      peripheral neuropathies. Neurology 2011;76:337-345.

3Hughes R, Bensa S,Willison H,et al. Randomized controlled trial of intravenous immunoglobulin versus oral 
      prednisolone in chronic inflammatory demyelinating polyradiculoneuropathy.Ann Neurol 2001;50:195-201.

4Hughes RA,Donofrio P,Bril V,et al.Intravenous immune globulin10% caprylate-chromatography purified for 
      the treatment of chronic inflammatory demyelinating polyradiculoneuropathyICE study:a randomized 
      placebo-controlled trial. Lancet Neurol 2008;7:136-144.

5Kleyweg RP,van der Meche FG,Schmitz PI. Interobserver agreement in the assessment of muscle strength
      and functional abilities in Guillan-Barre syndrome.Muscle Nerve 1991;14:1103-1109.

6Merkies IS,Schmitz PI,van der Meche FG,et al.Psychometric evaluation of a new sensory scale in Immune-
      mediated polyneuropathies.Inflammatory Neuropathy Cause and TreatmentINCATGroup.Neurology 2000; 
      54: 943-949.

7Dyck PJ,Boes CJ,Mulder D,et al.History of standard scoring,notation,and summation of neuromuscular
      signs.a current survey and recommendation. J Peripher Nerv Syst 2005;10:158-173.

8Bril V,Banach M, Dalakas MC, et al. Electrophysioiogic correlations with clinical outcomes in CIDP. Muscle 
      Nerve2010;42:492-497.

9Rajabally YA,Narasimhan M.Distribution,clinical correlates and significance of axonal loss and demyelination in 
      chronic inflammatory demyelinating polyneuropathy. Eur J Neurol 2011;18:293-299.


神経生理学的評価指標

複数の臨床研究によって、電気生理学的検査による神経生理学的評価指標が中長期の治療効果判定に有用であることが示されています。
CIDP患者を対象としたランダム化比較対照試験(ICE study)では、IVIg治療例において、遠位・近位のCMAP増加が機能障害スコア、握力の増加と相関していました1)
また、SCIg長期投与試験において、電気生理学的パラメータが機能障害スコアと相関していたことなどが報告されています2)

1)Bril V, et al. Muscle Nerve, 2009;39(4):448-455.
2)Cirillo G, et al. Clin Neurophysiol.2018;129(5):967-973.


臨床的評価指標

臨床的評価指標には様々なものがあり、検査に要する時間、特徴、コストなどが異なっています。この中で特に注目したいのが握力です。外来中に短期間で測定でき、医師でなくても患者自身で簡便に行える点が特徴です。

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また、握力は数値で表せるため、変化を客観的に捉えやすいという利点もあります。
治療反応性に対する感度の高さや健康状態との相関も報告されており、全体的な神経学的状態と相関していると言えます。

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また、握力は数値で表せるため、変化を客観的に捉えやすいという利点もあります。
治療反応性に対する感度の高さや健康状態との相関も報告されており、全体的な神経学的状態と相関していると言えます。

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なお、正常変動内の握力変化は8kPa以下である3,4)ため、MCID(Minimum clinically important difference)は8kPaとされています5)

3)HughesRA, et al. Lancet Neurol .2008;7(2):136-144.
4)van Schaik IN, et al. Lancet Neurol .2018;17(1):35-46.
5)MerkiesIS, et al. J Neurol Neurosurg Psychiatry.2010;81(11):1194-1199.

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なお、正常変動内の握力変化は8kPa以下である3,4)ため、MCID(Minimum clinically important difference)は8kPaとされています5)

3)HughesRA, et al. Lancet Neurol .2008;7(2):136-144.
4)van Schaik IN, et al. Lancet Neurol .2018;17(1):35-46.
5)MerkiesIS, et al. J Neurol Neurosurg Psychiatry.2010;81(11):1194-1199.


IVIg療法と握力

CIDPの治療選択肢のひとつであるIVIg療法では、投与後症状が改善しても、投与サイクル終了時に症状が悪化する治療関連変動(TRF)がみられることがあります。
CIDP患者を対象に、TRFと握力の関連性を検討した前向き観察研究をご紹介します。本研究では、TRFを「連続3日間の平均握力の差が10%以上」と定義し6ヵ月間連日握力測定を行いました。
この10%という値は、対象の握力の平均1日変動の2SDを参考に設定されています。握力の変化が10%以上みられた場合、それはノイズ的な変化ではなく、臨床的に意義のある変化(=治療に関連した変動)であると想定されます。すなわち、10%以上の握力の変化は、治療効果の不安定さ、疾患活動性を治療によって十分に抑えられていない状態を示していると考えられます。
グラフは、頻繁にTRFが見られた患者とそれ以外の患者の連続3日間の平均握力変化を示しています。頻繁にTRFが見られた患者では、3週目以降にピークを迎えた後、速やかにベースライン値に戻るというパターンを示しました。

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IVIgの維持療法においては、Wear-off effectにも注意が必要です。Wear-off effectとは、薬の効果持続時間が短縮することで投与間隔終盤に血清IgG濃度の低下が起こり、脱力、疲労、筋痛関節痛など様々な症状が現れる現象です。
握力は、IVIg投与後の血清IgG濃度とも相関することが報告されているため、Wear-off effectの検出にも有用であると考えられます。

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IVIgの維持療法においては、Wear-off effectにも注意が必要です。Wear-off effectとは、薬の効果持続時間が短縮することで投与間隔終盤に血清IgG濃度の低下が起こり、脱力、疲労、筋痛関節痛など様々な症状が現れる現象です。
握力は、IVIg投与後の血清IgG濃度とも相関することが報告されているため、Wear-off effectの検出にも有用であると考えられます。

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また、CIDP患者を対象とした臨床研究(ICE Study)では、IVIgを3週間毎に24週間投与した患者の臨床的変化の指標として、握力が有用であることも示されています6)

6)E. K. Vanhoutte, et al. Eur J Neurol. 2013;20(5):748-755.

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また、CIDP患者を対象とした臨床研究(ICE Study)では、IVIgを3週間毎に24週間投与した患者の臨床的変化の指標として、握力が有用であることも示されています6)

6)E. K. Vanhoutte, et al. Eur J Neurol. 2013;20(5):748-755.