SBSライブラリー
<p>兵庫医科大学IBDセンター<br>兵庫医科大学医学部 消化器内科学講座 主任教授/IBDセンター センター長 新﨑 信一郎 先生</p><p>兵庫医科大学医学部 消化器外科学講座 炎症性腸疾患外科 臨床教授/IBDセンター 副センター長 内野 基 先生<br> </p>

兵庫医科大学病院は最新の医療機器を備えた阪神地区の基幹病院であり、IBDセンターでは潰瘍性大腸炎とクローン病を中心とした炎症性腸疾患(Inflammatory Bowel Disease:IBD)の専門病院として診療を行っている。内科的治療にくわえて、治療が奏功しない症例に対して緊急手術を行う体制が整っており、IBD専門の内科医、外科医、メディカルスタッフが緊密に連携しながら治療を行っていることが特徴である。
そこで、消化器内科学講座 主任教授およびIBDセンター センター長を務める新﨑信一郎先生と消化器外科学講座 炎症性腸疾患外科 臨床教授およびIBDセンター 副センター長を務める内野基先生に、兵庫医科大学病院における治療や院内連携などについてお話を伺った。
取材日:2025年2月28日(金)

兵庫医科大学病院は最新の医療機器を備えた阪神地区の基幹病院であり、IBDセンターでは潰瘍性大腸炎とクローン病を中心とした炎症性腸疾患(Inflammatory Bowel Disease:IBD)の専門病院として診療を行っている。内科的治療にくわえて、治療が奏功しない症例に対して緊急手術を行う体制が整っており、IBD専門の内科医、外科医、メディカルスタッフが緊密に連携しながら治療を行っていることが特徴である。
そこで、消化器内科学講座 主任教授およびIBDセンター センター長を務める新﨑信一郎先生と消化器外科学講座 炎症性腸疾患外科 臨床教授およびIBDセンター 副センター長を務める内野基先生に、兵庫医科大学病院における治療や院内連携などについてお話を伺った。
取材日:2025年2月28日(金)
兵庫医科大学病院IBDセンターのSBS患者さんについて教えてください
新﨑:兵庫医科大学病院IBDセンターでは、現在、30~40例ほどの短腸症候群(Short Bowel Syndrome:SBS)患者さんを診察しています。そのほとんどはクローン病を原疾患としており、30歳前後でクローン病を発症し、何度も手術を繰り返してSBSとなった50~60代の方々です。最近では医療の進歩に伴って早期からクローン病の診断・治療を行うことができるようになり、さらに、内科治療や手術の進歩によって腸管をできるだけ長く残した状態で切除できるようになったこと、術後再発する方も減っていることから、新規のSBS患者さんは少なくなってきています。
患者さんの居住エリアは、病院から近い兵庫・大阪が最も多いですが、滋賀や和歌山から通院される方もいらっしゃいます。SBSでは在宅中心静脈栄養(Home Parenteral Nutrition:HPN)による栄養管理が必要になるため、点滴に必要な器具を一式処方しなければなりませんが、専門施設以外でこれらを用意するのは困難であること、また、HPNに関するトラブルにすぐに対応できる知識と経験が豊富な医療スタッフが常駐している病院が多くはないのが現状であるため、わざわざ遠方からIBD専門の当院に通院されているケースもあります。
IBDセンターにおけるSBS治療と院内・地域連携について教えてください
内科・外科それぞれの役割と院内連携
新﨑:クローン病を原疾患とするSBSの治療は、腸管病変に対する治療、中心静脈栄養(Total Parenteral Nutrition:TPN)による栄養管理などが中心となります。原疾患に対する薬物治療は内科で行っており、そもそもSBS にならないように原疾患をコントロールすることが治療の第一目標です。残念ながらSBSになってしまった場合は、術後の栄養および体液バランスをTPNで管理し、同時に原疾患の治療も継続して行っていきます。
内野:当院のSBS患者さんは、クローン病に対する手術や新しい薬物治療の開始を契機に紹介されてくることが多く、ほぼ全例が当院で手術を受けています。クローン病の再燃によって手術を繰り返し、その結果、SBSになってしまった場合には、外科では腸管切除の手術だけでなく、周術期の管理およびその後のトータルケアを行います。また、TPNのカテーテル処置に関しては主に外科が行っています。カテーテルには留置型のカテーテルと入れ替え可能なカテーテルがあります。留置型のカテーテルは、埋め込み式のポートに針を刺して使用し、数年ごとに手術でポートを交換します。体内に埋め込まれているため、そのままお風呂に入れる・見た目が良いなどのメリットがある一方、感染が起きた時の対処が非常に大変で、耐性菌による感染の再発も多いというデメリットがあります。入れ替え可能なカテーテルは、体外に露出させた部分をテープなどで固定して使用し、3ヵ月前後で定期的に交換します。感染が起きてしまった時にも、抜去すればすぐに感染状態から脱することができるのが大きなメリットです。どちらのカテーテルを使用するかは、血管の状態や患者さんの希望によって決まります。入れ替え可能なカテーテルは内科の先生に処置をお願いすることもありますが、埋め込み式カテーテルは外科が設置または交換しています。その他に、ストーマおよびそれに伴う肛門周囲のトラブルも外科で管理します。
新﨑:内科も外科も毎日IBD専門外来で診療を行っていると、お互いにどこまでの治療・処置がそれぞれの科でできるかわかっていますので、「これは外科の先生に診てもらったほうが良い」「ここからは内科にお願いできる」と、あうんの呼吸で連携しながら診療が進んでいます。両科の外来病棟が隣接しているので、すぐに連絡を取って、その場で相談することが可能な環境にあることも、当院の良い点だと思います。
内野:処置に困るような難しい患者さんがいる場合、毎週1回開催しているカンファレンスで治療方針について話し合うこともありますが、基本的には特別にミーティングなどを設定することもなく、自然なコミュニケーションの一環として内科と外科の連携が成り立っています。
院内の多職種連携
新﨑:SBSに限ったことではありませんが、医師、看護師、皮膚・排泄ケア認定看護師(WOCナース)、管理栄養士、ソーシャルワーカーなどが有機的に動いて、患者さんが安心して治療を受けられる環境を提供できるように体制を整えています。特に看護師が中心的司令塔となって、TPNの手技(消毒の方法・輸液のつなぎ方・テープの貼り方)に関する患者教育や輸液保存用の冷蔵庫の手配などを進めてくれています。我々医師はその連携がうまく 機能しているかチェックして、うまくいっていない部分の修正をしたり、患者のニーズを汲み取ったり、今の時代に合わせた変更を行ったりしています。
内野:以前は、スタッフに知識と共通意識を持ってもらうことを目的として、病棟と外来の若手医師、看護師、薬剤師、管理栄養士などを集めて、定期的に様々な講義をする研修を開催していました。現在では、そのような研修や日頃の診療を経て知識と経験を積んだスタッフが上に立ち、他のスタッフにも働きかけて指示を出したり、病棟と外来の連携を取ったりしています。急に多職種連携の体制ができあがったわけではなく、徐々に、自然に、スタッフ全員が工夫しながら実践を重ねた結果、今の体制ができあがってきたのだと思います。
新﨑:日本初のIBDセンターを誇る兵庫医科大学病院には国内の施設のなかでも多くのIBD患者さんが受診されていますし、それに伴ってスタッフの経験値も高くなっています。今の連携体制は、そのような環境下において長い歴史のなかで培われてきた賜物だと思いますが、最終的には「全ては患者さんのために」という思いを中心にスタッフが動いており、コミュニケーションが円滑でなければ高いレベルでの診察ができないことをスタッフが自覚しているお陰だと感じています。
地域病院との連携
内野:様々な研究会、学会を通じて、地域の病院の先生方とも自然と連携が生まれるようになっています。院内の連携も同様ですが、病院同士の連携においてもお互いの敷居を低くすることを意識するのが重要だと思います。
新﨑:敷居が下がると逆に、どんな症例でも紹介されてしまう状況になりかねないのですが、ここではうまく整備されていると感じます。これは、地域の先生方もIBDという疾患を非常に深く理解されており、適切な初期治療が行われていることの表れです。さらに、管理が難しい患者さんがいる場合に速やかに紹介していただけるような関係性を構築できているのも、これまでコミュニケーションを積み重ねてきた結果だと思います。
患者さんとのコミュニケーションで意識されていることはありますか
患者さんとのコミュニケーションのポイント
新﨑:SBSは長期にわたって治療を継続する必要があるため、患者さんと十分にコミュニケーションをとり、良好な関係を築くことも重要です。日々の診療における患者さんおよび家族の方との会話、スタッフとの会話から、患者さんのニーズをできるだけくみ取るように努めています。TPNによる栄養管理を行っているSBS患者さんは、経口で食事を摂っている方に比べて栄養のバランスがとりづらく、味覚障害や手指のしびれなどの愁訴が存在します。これらの症状はすぐに解決することが困難であり、その不安・不満な気持ちを吐露していただき、苦しみに寄り添うことによってコミュニケーションが生まれていくと思っています。患者さんとの会話で気になった点があればカルテにメモしておき、定期的に「最近どうですか?」とこちらから積極的に声をかけるようにしています。また、我々がデータを見たうえで良好に管理できていると思っていても、実際には患者さんが苦しんでいることは多々あります。そのようなギャップを見逃さずに課題点として共有することで、患者さんに安心感を与え、今後の治療につなげることができます。
内野:今抱えている問題について患者さんから話していただければ一緒に対応を考えることができますが、実際のところ、日頃の診療時間だけでは問題点を拾い上げきれておらず、取り組めていない課題が多いと思います。どのようにして患者さんの声を拾い上げるかは、常に大きな課題となっていますが、限られた診療時間のなかであっても、とにかく患者さんの話に耳を傾けることが大切だと思います。また、医師には話しづらいと感じる場合もあると想定されるため、看護師などの他のスタッフからも話を聞いてもらうことが必要になると考えています。
治療のモチベーションを維持させるためのポイント
新﨑:治療を始めて間もない患者さんには感染予防や治療の注意点について繰り返し指導しますが、治療開始からすでに長期間経過している患者さんは同じ話を何度も聞かされていますので、逆に「調子が良い状態が続いていますね」「治療頑張っていますね」などポジティブな声掛けをするようにしています。治療に対する努力や前向きな姿勢を承認することが患者さんの治療継続のモチベーション維持につながっていると感じます。
内野:外科からは主にカテーテルの管理、特にカテーテルトラブルについて患者さんにお伝えすることが多いです。感染による発熱・出血などがあった場合は、命の危険につながる可能性もありますので速やかに連絡するよう、お伝えしています。実際に異変を感じた患者さんは、ほとんどの方がすぐに来院してくださいます。有事に我慢したり先延ばしにしたりすることを防ぐには、普段の診療時間から「伝えること」のハードルを下げておくことが重要だと思います。
患者さん同士のコミュニケーションについて
新﨑:私はできるだけ年1回は患者会に参加することをルーティンワークにしています。患者会では、新規治療の有効性や副作用、最新のIBD診療の現状についての解説や患者さんの悩み相談などを行っています。ただし、最近ではこのような対面形式の患者会に集まる方の年齢層が高くなっているようです。比較的若い患者さんはSNSで他の患者さんとつながることが増えているようですので、今後は患者会の開催形態についてもオンラインとのハイブリッドにするなど、考慮する必要があるかもしれません。
内野:そもそも患者さん同士のつながりを求めていない方や、独自にインターネットで情報を収集している方が増えていると感じます。このような患者さんが孤立したり、誤った情報に流されたりしないように、SNSの環境が整備されたらよいと思いますが、現状ではなかなか困難です。現時点で我々ができるのは、対面の診察時に、しっかりと患者さんと向き合い、患者さんが心配に思っていることがあれば相談に乗ることです。そのうえで、今後は若手医師の力も借り、SNSにおける正しい診断法や治療法の発信方法について検討できたらよいと思っています。
SBS診療の課題と今後の展望について教えてください
SBS診療の課題
新﨑:近年、小児のIBD患者さんが増えてきています。小児~青年期の患者さんではライフステージによって、学校のイベント・旅行・受験などの様々なイベントがあり、それに応じたサポートが必要になります。なかでも妊娠・出産は重大なイベントであり、患者本人だけでなくパートナーの理解・協力も欠かせません。現在、全国的にもプレコンセプションケア外来の必要性が言及されており、これを含めたAYA世代のトータルサポートの拡充が急務だと思います。
内野:災害時におけるサポートも大きな課題となっています。糖尿病などでは被災時にも治療を継続できるような全国的ネットワークがありますが、SBSは患者さんが少ないこともあって組織化が進んでいません。HPNの輸液情報や材料を調達し、SBS患者さんが生命維持できるように、サポート体制や病院間ネットワークを検討する必要性を感じています。
今後の展望
新﨑:SBSを未然に防ぐのが最も望ましいですが、SBS治療の最終目標はTPNから離脱することです。現在の医療では完全に点滴不要な治療が開発されるのはまだ難しいでしょう。しかし、薬物治療の登場によって、点滴を減量できた患者さんは少しずつ増えています。まずは点滴につながれずにフリーに動ける時間を作り、それを1分でも長く延ばしていけるようにしていきたいと思います。
内野:TPNから完全には離脱できない方でも、点滴が外れている時間があるだけで非常に喜んでおられるようです。点滴フリーの時間を少しでも長く延ばして、1人でも多く離脱できるようにすることが目下の課題です。また、感染や血栓を生じにくいカテーテルや再生医療の開発など、患者さんの負担を軽減する新たな技術の誕生に期待したいです。