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【Service User】…2023/12/11(月) - 17:44 に投稿

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<p>JCHO東京山手メディカルセンター<br>消化器内科(炎症性腸疾患センター)部長 酒匂 美奈子 先生</p>

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IBD(炎症性腸疾患)治療と仕事の両立支援

IBD(炎症性腸疾患)治療と仕事の両立支援
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クローン病に伴う肛門病変

クローン病に伴う肛門病変
クローン病肛門病変の疫学
クローン病肛門病変の特徴
診断
治療目標
治療の概要
内科的治療(薬物治療)
外科的治療
画像(PC)
本文

独立行政法人 地域医療機能推進機構(Japan Community Health care Organization:JCHO)東京山手メディカルセンターは、前身である社会保険中央総合病院の時代から、クローン病をはじめとした数多くの炎症性腸疾患(Inflammatory Bowel Disease:IBD)の治療に携わり、そのなかで早くから短腸症候群(Short Bowel Syndrome:SBS)の治療にも取り組んできた。現在、100名を超えるSBS患者さんを抱えるなか、患者さんの多様な問題の解決策を見出すために、看護師や管理栄養士など多職種によるかかわりも大切にしており、今後のSBS診療を担う人材の育成にも力を入れている。
そこで今回は、消化器内科(炎症性腸疾患センター)部長 酒匂 美奈子先生に、同センターにおけるSBS診療の特徴、数多くのSBS治療を通じて明らかになった課題、今後の取り組みなどについてお話を伺った。

取材日:2023年7月10日(月)

画像(SP)
本文

独立行政法人 地域医療機能推進機構(Japan Community Health care Organization:JCHO)東京山手メディカルセンターは、前身である社会保険中央総合病院の時代から、クローン病をはじめとした数多くの炎症性腸疾患(Inflammatory Bowel Disease:IBD)の治療に携わり、そのなかで早くから短腸症候群(Short Bowel Syndrome:SBS)の治療にも取り組んできた。現在、100名を超えるSBS患者さんを抱えるなか、患者さんの多様な問題の解決策を見出すために、看護師や管理栄養士など多職種によるかかわりも大切にしており、今後のSBS診療を担う人材の育成にも力を入れている。
そこで今回は、消化器内科(炎症性腸疾患センター)部長 酒匂 美奈子先生に、同センターにおけるSBS診療の特徴、数多くのSBS治療を通じて明らかになった課題、今後の取り組みなどについてお話を伺った。

取材日:2023年7月10日(月)


JCHO東京山手メディカルセンターにおけるSBS治療の特徴を教えてください

日本有数のクローン病治療施設として数多くのSBS治療にも携わる

独立行政法人 地域医療機能推進機構(Japan Community Health care Organization:JCHO)東京山手メディカルセンターは、前身である社会保険中央総合病院の時代から、クローン病などの炎症性腸疾患(Inflammatory Bowel Disease:IBD)の治療に力を入れており、特にクローン病については、日本でも有数の治療施設です。他の医療機関では対応が難しい難治性の患者さんなども積極的に受け入れながら、これまでさまざまなクローン病治療の経験を積み重ねてきました。
近年は、クローン病に対する生物学的製剤の登場などにより、その予後は大きく改善しました。当センターにおいても、従来のように腸管切除を繰り返し、短腸症候群(Short Bowel Syndrome:SBS)へと至るケースは減少しつつあります。しかしながら、当センターに紹介される患者さんは難治例も多いことから、複雑な病変の治療のために一度に大量の腸管切除が必要な方もいらっしゃいます。
また、クローン病と同様、かつては治療法が限られていたSBSも、近年は栄養療法の改良や新規治療薬の登場によって長期生存が可能となり、多くの患者さんが社会復帰を果たせるようになりました。当センターでは、現在、100名を超えるSBS患者さんの治療を行っており、このうち在宅中心静脈栄養(Home Parenteral Nutrition:HPN)を継続しているのは50名ほどです。なお、SBSに対するHPNの導入は2014~2015年ごろをピークに減少しており、最近は新規で導入するケースはほとんど見られなくなりました。

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多職種によるかかわりを通じた心理的・社会的な支援

SBS治療においては、食事制限やHPNの管理、頻回の下痢が続くなど苦労が多く、患者さんは体調面のみならず、心理的・社会的な問題も抱えやすいという特徴があります。しかしながら、限られた診察時間だけでは、それらを十分に聴取し、対策を講じることは難しいのが実情です。そのため、私たちは看護師などの多職種による患者さんとのかかわりも大切にしてきました。
たとえば、ストーマを造設しているSBS患者さんであれば、ストーマケアを担当する看護師と接する時間が長く、そこで世間話をするなかで、患者さんの生活の様子を垣間見ることができます。なかには、「仕事がうまくいかない」、「家庭で親の介護に苦労している」といった話を聞く機会もあり、これらの情報を医療スタッフ間で共有しながら、必要に応じて支援を検討しています。就業上の問題であれば、必要に応じてIBDナースが職場に連絡を取り、業務上の注意点やカテーテル関連血流感染症などによる緊急入院の可能性などについて理解を得ることもあります。また、当センターはリエゾンナースとの連携もスムーズであり、患者さんによっては、外来毎にリエゾンナースが話を聞く時間を設けています。リエゾンナースの記録から問題の詳細を知ることもあり、そこからきめ細やかな対応にもつなげています。

 


SBS診療における課題にはどのようなものがありますか

患者さんの高齢化を見据え継続可能な治療法を考慮する必要がある

当センターでHPNを続ける患者さんは、クローン病に対する有効な治療薬がなく、何度も腸管切除をせざるを得なかった方が中心で、多くは40~50代です。この年代のSBS治療の課題の一つとして、社会や家庭において大きな役割を担うなかで、負担の大きな治療を続けなければならないことが挙げられます。体調が多少悪くても無理をせざるを得ない場面もあり、たとえば、患者さんご本人が入院の必要な状況に陥っているにもかかわらず、「遠くに住んでいる息子がコロナに罹ったから、先に面倒を見に行く」と言って、治療開始が遅れてしまったこともありました。また、クローン病の治療に苦労した時代を長く経験していることもあってか、「食べなければ病状は悪くならないから、食べない方がいいんだ」というように、我慢があたり前となっている患者さんもいらっしゃって、人生に対してあきらめの気持ちを抱き、治療に前向きになれないこともあるようです。
さらに、今後に目を向けると、高齢化に伴う影響も考慮しなくてはなりません。老々介護などの生活環境や近隣の在宅医の状況によっては、HPNの継続が困難になる可能性もあります。さらに、今後、数十年にわたってHPNを行うことによる肝機能障害の発現も問題として考える必要があります。そうしたなかでは、経腸栄養の併用や薬物治療によるHPNの減量・離脱など、生涯にわたって安全に治療を継続できる方法を早期から検討していく必要もあるでしょう。

 

患者同士・医療スタッフとの関係の希薄化
 ――いかにして悩みを拾い上げるか

かつてのクローン病の治療では、外科手術を繰り返し必要とするケースや、中心静脈栄養(Total Parenteral Nutrition:TPN)を長期の入院で続けることもありました。これらの治療は患者さんにとって負担の大きなものではありましたが、入院中には患者さん同士が交流を深め、それぞれの悩みや経験を共有することができました。また、患者さんと医療スタッフが接する時間も長く、信頼関係を深める機会にもなっていたように思います。
しかしながら、近年は、クローン病治療のために長期にわたって入院する機会は大幅に減少しました。患者さんと医療スタッフとのかかわりも外来が中心となり、限られた診療時間のなかで、さまざまな問題点を拾い上げなければなりません。
さらに、患者さん同士の交流も、同じ医療機関に通院する人との対面でのやりとりは減り、インターネットで知り合った人との情報交換が多くなりました。以前のような患者さん同士の関係であれば、相手の置かれている状況などを踏まえて話をすることができ、何か分からないことがあれば「それなら酒匂先生に聞いてみた方がいいよ」というように、顔見知りの医療スタッフにつながりやすいという安心感もありました。最近の状況を見ていると、インターネット上の玉石混交の情報を患者さんの判断で取捨することや、見知らぬ人からのアドバイスを受け取ることには危うさも感じます。
また、SBS治療は長期にわたることから、治療や生活に関する問題は、その時々で変化していきます。そうしたなかで、適切な支援へとつなげていくためには、患者さんが悩みを吐露する機会や、それをタイムリーに把握するための環境づくりも必要だと思います。以前に比べると、患者さんはドライな人間関係を好むこともあり、かつてのように定期的に開催する患者会の形式が適しているかどうかについては再考が必要ですが、多くのSBS治療を行う当センターの強みを活かし、医療スタッフもかかわりながら関係を深めていければと考えています

 


SBS診療において大切にしているポイントを教えてください

患者さんの隠れた思いやニーズを引き出しながら“普通の生活”の実現を目指す

私たちは“患者さんが普通に生活できること”を第一目標にSBS治療を行っています。しかしながら、かつてのSBS治療では、1~2ヵ月毎にカテーテル関連血流感染症を起こして入院を繰り返す患者さんなども多く、この目標を実現することはとても難しいものでした。当時は治療選択肢が限られていたため、私たちもこまめにカテーテルを入れ替えるなど柔軟に対応しながら、普通の生活に近づくことを目指して、患者さんとともにSBSに向き合ってきました。
しかしながら、長い闘病生活のなかで、患者さんは不自由に慣れてしまっていることも多く、医療スタッフの考える“普通”との間には、ギャップが生じていることもあります。たとえば、患者さんが「仕事に行くことはできている」と話せば、私たちは安心してしまいますが、実際には体力が追いつかずに休みがちで、患者さんにとってはそれがあたり前の状態だったということもあります。その他にも、薬物治療を始めるまで何一つ不満を言わなかった患者さんが、「薬を始めてから、夜間にトイレに行く必要がなくなって助かっている」、「仕事中の点滴がなくなったから、同僚から心配されなくなって気が楽になった」などと話してくれたこともあります。おそらく、患者さんは「仕方のないことだから、話してもしょうがないだろう」と思い、じっと我慢していたのでしょう。私たちは、患者さんの我慢をあたり前とせず、少しでも希望をもって日常を過ごすことができるよう支えていきたいと考えています。そうしたなかで、新しい治療の提案や導入は、患者さんの隠れた思い・ニーズを引き出す契機にもなることから、治療に関する積極的な情報提供も行いながら診療を進めています。

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今後、どのようなSBS診療に取り組んでいきたいと考えていらっしゃいますか

改めて見直したいSBS治療における栄養の重要性
――薬物治療との両輪で、より効果的な治療へ

TPN中の感染症のリスクなどを考えると、将来的には腸管順応を進め、経腸栄養に移行しながら、TPNの減量・離脱を考えることが望ましいと思います。私たちの経験では、薬物治療を導入することによってTPNの量を順調に減らすことができるのは、脱水がなく、栄養状態も比較的良好な方が多いと感じており、薬物治療の導入・継続にあたっては、経口摂取の量や内容の評価、経腸栄養剤の選択などに関して、管理栄養士のアドバイスを得ることも有用ではないかと思います。
さらに、クローン病を原疾患とする患者さんのなかには、長年にわたって絶食で過ごしている方や、「下痢をするから食物繊維を摂取してはいけない」と指導されていた時代のなごりから、今もなお食事を制限し、TPN依存度が高い患者さんもいらっしゃいます。しかしながら、適切に腸管順応を促していけば、再び経口摂取が可能になり、食べる楽しみを取り戻すことができるかもしれません。頻回の下痢の予防には適量の食物繊維が必要であることなど、食事や栄養に関する患者さんの知識のアップデートも必要です。こうした場面においても、管理栄養士による患者指導が有効だと考えられ、今後さらに連携を強化していく予定です。
また、クローン病やSBSに対する新たな治療法が登場し、改めて栄養療法の役割が見直されるなかで、栄養療法に詳しい医療スタッフの育成も急務です。かつてのクローン病やSBSの治療では栄養療法が中心的な役割を担い、医師が患者さんに合わせて輸液を調製していましたが、近年はキット化された輸液が汎用されるようになり、利便性は高まったものの、医師が輸液の組成の意味や病態に合わせた調製法などを学ぶ機会は失われてしまいました。そこで当センターでは、2023年の春から、若手医師や看護師を対象とした栄養療法に関する勉強会を開始しています。このなかでは、栄養療法のタイミングや薬物治療との組み合わせなど、より効果的なSBS治療についても検討を進めていきたいと考えています。

 

患者さんが自分らしく、充実した人生を送るために

これまで数多くのSBS治療に携わってきましたが、負担の大きな治療を続けながらも、自分の人生を精一杯生き抜く患者さんとのかかわりは、私たち医療スタッフにとって大きな励みです。私が以前診ていたある患者さんは、まだ今ほどSBSに対する治療法がない時代に、1日に3リットルのHPNをしながら、世界中を旅していらっしゃいました。医療器具の機内持ち込みの手続き、ホテルへの大量の輸液の発送など、実現には困難も多かったと思いますが、彼の土産話を聞いていると、たとえSBSであったとしても、患者さんの生きる楽しみを大切にしながら治療に取り組まなければならないと実感したものです。彼が生きがいとする仕事に就き、生き生きと働く姿を見学できたのも、私がSBS治療に携わる際の心の支えになっています。これからも、患者さんが自分らしく、充実した人生を送ることができるよう、チーム一丸となってSBS診療に取り組んでいきたいと思います。