SBSライブラリー
<p><span style="font-family:'Noto Sans', -apple-system, BlinkMacSystemFont, 'Segoe UI', Roboto, 'Helvetica Neue', Arial, 'Noto Sans', sans-serif, 'Apple Color Emoji', 'Segoe UI Emoji', 'Segoe UI Symbol', 'Noto Color Emoji';">秋田大学医学部附属病院</span><br><span style="font-family:'Noto Sans', -apple-system, BlinkMacSystemFont, 'Segoe UI', Roboto, 'Helvetica Neue', Arial, 'Noto Sans', sans-serif, 'Apple Color Emoji', 'Segoe UI Emoji', 'Segoe UI Symbol', 'Noto Color Emoji';">秋田大学大学院医学系研究科 小児外科学講座 医学部講師 森井 真也子 先生</span></p>
秋田大学医学部附属病院小児外科は、小児外科疾患に対する高度医療を提供できる県内で唯一の小児外科学会認定施設である。主な対象疾患は、新生児外科疾患、肝胆道疾患、腫瘍、小児後天性外科疾患であり、救命はもちろんのこと、臓器温存・機能保存さらには精神発達面にも配慮した包括的治療を提供することを診療理念としている。小児短腸症候群(Short Bowel Syndrome:SBS)診療においても中心的役割を担い、患児の治療および教育を支えている。
そこで今回は、小児SBS患者さんが最適なライフステージを送るための医療をテーマに、森井真也子先生から、秋田大学における小児SBS患者さんの診療実態と取り組みについてお話を伺った。
取材日:2023年6月20日(火)
秋田大学医学部附属病院小児外科は、小児外科疾患に対する高度医療を提供できる県内で唯一の小児外科学会認定施設である。主な対象疾患は、新生児外科疾患、肝胆道疾患、腫瘍、小児後天性外科疾患であり、救命はもちろんのこと、臓器温存・機能保存さらには精神発達面にも配慮した包括的治療を提供することを診療理念としている。小児短腸症候群(Short Bowel Syndrome:SBS)診療においても中心的役割を担い、患児の治療および教育を支えている。
そこで今回は、小児SBS患者さんが最適なライフステージを送るための医療をテーマに、森井真也子先生から、秋田大学における小児SBS患者さんの診療実態と取り組みについてお話を伺った。
取材日:2023年6月20日(火)
秋田大学医学部附属病院小児外科におけるSBS診療について教えてください
秋田大学のSBS診療の実態
私が当院で過去20年間に診療にかかわった小児SBS患者さん、腸管機能不全患者さんは全部で16例です。そのうち、現在も当院で在宅中心静脈栄養(Home Parenteral Nutrition:HPN)を継続している小児患者さんは3例、HPNを離脱して継続的な栄養管理を必要としている患者さんは3例です。全例が秋田県内在住で、車で1時間程度の場所から通院しています。基本的に、秋田県内でSBSまたはSBSになりうる疾患と診断された胎児・新生児はおおむね当院に紹介されますので、秋田県内全域から患者さんを受け入れることになります。また、里帰り出産のために秋田県に戻っていらっしゃった方などでは、県外からの患者さんを受け入れたこともあります。
保護者の方には受診後の最初の時点で、SBSの概要、薬物治療や小腸移植を含めた今後の治療の流れ、予後などのすべての可能性について説明し、一歳頃の退院を目指して治療のスケジュールを立てていきます。その後、入院での中心静脈栄養で栄養管理が軌道に乗ってきたら、HPNでの管理を考慮します。退院前には2~3回、訪問看護ステーション職員が参加する多職種カンファレンスを開き、保護者の方の疑問や希望に沿った治療計画、栄養・食事指導を行っています。なお、腸管機能不全やHPNに関する診療は専門性が高いことなどから、退院後も当院に通院していただいて実施することを原則としており、発熱やカテーテルトラブルなどがあった場合でも当院で24時間対応するようにしています。また、長期的にHPNを行っているSBS患者さんでは肝臓に合併症が生じることがありますので、小児科肝臓グループや消化器内科の先生方と連携を取りながら、肝生検などの定期検査を行っています。
秋田県内の多施設との連携
退院後の小児科検診、予防接種、風邪や花粉症の診療などは、あらかじめ現在の状況や内服薬の吸収が悪い可能性などを記した紹介状をお渡ししたうえで、保護者の方が希望する近隣のかかりつけ医にお願いしています。日常的に、小児科の地方会、研究会などを通して県内の開業医のほとんどの先生方と交流があるため、必要であればすぐに電話で連絡を取ることができるなど、緊密に連携が取れていると感じています。また、HPNを始めた直後は、訪問看護を依頼される方もいらっしゃいます。訪問看護の看護師は大人に対する処置は慣れていますが、子供に対する処置の経験がある方は少なく、使用する器具も異なりますので、担当の方には病院に来て一緒に処置の練習をしていただくことが多いです。
患者さんやご家族との向き合い方について
SBS患者さんは1年以上の長期入院になることが多く、退院後も長期間にわたり通院治療を継続しますので、ご家族の方と一緒に治療や点滴管理に取り組むことになります。治療の説明を行う際は、「1年で点滴をつけて退院できるようにしましょう」「在宅で点滴管理ができるように練習しましょう」「トライ&エラーで食事の量や種類を増やしましょう」というように、理解しやすく、不安を解消しやすい、具体的な短期目標を立てるようにしています。また、診察時には患者さんの体調(排泄、食事)だけでなく、生活上で気がついた点(〇〇を食べたら下痢をした等)、ご家族の生活の変化(産休・育休の期間)などの細かい話も聴取するようにしています。入院中や退院直後は母親が点滴および体調管理の中心的役割を果たすことが多いですが、手術や在宅管理への移行、点滴変更などの重要な説明をする時は、必ず保護者の方を2人以上お呼びしてお話し、母親の仕事復帰や突発的なトラブルなどに備え、父親や祖父母などの同居家族にも可能な限り一緒に治療に参加していただけるようにお願いしています。患者さん本人に対しても、成長に合わせて疾患や治療、カテーテルの操作方法について徐々に学習を進め、高校卒業前には自分で管理ができるようになっていただきたいと思っています。
ただし、SBSを含めた小児外科疾患で長期入院をしていた患者さんの中にはメンタル・リタデーション(精神遅滞)のある方が一定数いらっしゃいます。原因は周産期の脳の血流障害や栄養障害など、原疾患により様々です。このような患者さんでは、疾患や治療への理解が薄くなり、暴飲暴食や点滴を捨てるなどの行為が起こることがあります。そのため、SBS患者さんには幼児期から1年に1回、秋田県立医療療育センターの小児精神科で知能検査を行うように指導しています。障害が疑われてから検査を勧めるよりも、初めから定期的に検査を行うことで、子育てや指導に役立てることができます。また、思春期の患者さんや人工肛門を装着している患者さんでは強い精神的ストレスを抱えることがあるため、小児精神科の医師にメンタルケアをサポートしていただくこともあります。その他にも、「カテーテルは一生はずせないのか」と不安を感じている方が多いので、「目が悪い人が眼鏡をかけるのと同じ」「医療の進歩によって今後カテーテルがなくなる可能性もあるかもしれない」などと伝えるようにしています。
SBSは原疾患や重症度、ライフステージ、生活環境によっても治療や管理が左右されるため、患者さんおよびご家族の皆さんとの協力関係を構築することが大切です。それぞれのパーソナリティーに合わせて柔軟に対応し、十分にコミュニケーションがとれるように心がけています。
SBS診療の課題
秋田大学ではSBSを診療している成人の診療科がないため、小児SBS患者さんが成人した後も小児外科で診察を続けることになります。また、長期留置用のカテーテルに使用している皮下トンネル型中心静脈カテーテルは、当院では小児外科でしか留置手術を行っていないため、クローン病などを原疾患とする成人SBS患者さんも小児外科でカテーテルの管理をすることになっています。患者数が圧倒的に少ないため、成人外来での受け入れ先がなく、小児外来からのトランジションが進んでいないことは、今後の課題と感じています。
秋田県における小児SBS患者さんの教育について、取り組みを教えてください
教育現場における療育のあり方
日本では2014年に「障害者権利条約」に批准したことから、教育に関して様々な法整備が進んでおり、秋田県においても小児教育関連の皆さんが熱意をもって改革を進めています。医療的ケア児等支援者・コーディネーター研修などを毎年開催し、秋田大学の小児科医師も全面的にバックアップしています。また、秋田県内の障害児教育を管轄している秋田県立医療療育センターは、保育所や学校、行政などとの橋渡しを行い、教育現場で医療ケアが必要な子供を受け入れる体制を整えられるようサポートしています。そのため、日中に点滴が必要なSBS患者さんであっても保育園・幼稚園への入園を断られたことはありません。幼児は点滴バッグを背負って歩くことができないので、行政の特別支援教育課から派遣された専任の看護師が点滴を持って付き添い、園内での点滴および体調管理を行います。カテーテル事故(踏んでちぎれた、他の園児が触ったり引っ張ったりした)などのトラブル対応については、専任の看護師とともに保育園・幼稚園の先生方にもあらかじめ対処法をお伝えしています。
小学校においても、専任の担当教員が1人ついて、給食時のサポートや入院時の勉強指導をしていただいています。特別支援学校または普通学級のどちらに通うかの選択は、教育を受ける子供たちにとってどちらが望ましいか、大きくは学習内容や学習環境に個別の配慮を要するかどうかで選択するべきであると考えます。点滴や気管切開、胃瘻などの医療機器は、日常生活を安全に送ることのできる状況で在宅に移行しており、教育を選択する基準にするべきではありません。また、教育現場に多様性があることは、健常児の教育にとっても非常によいと感じます。実際にSBSで通学されている患者さんは「俺の友達は俺のことわかっているから大丈夫」と話してくれています。教員の方々に負担が集中しないよう、看護師の配置や補助教員の増員、専任教員の配置などのサポートは必須であり、秋田県では実際に対応していただいています。現場ではまだ不十分な部分があることも事実ですが、教育にかかわる皆さんが少しでも理想に近づくよう努力してくださっていると感じます。
患者さんやご家族の希望を支援する
小学校・中学校に通うようになると教育現場においても修学旅行、運動会、部活などの活動機会が増えますが、適切な準備とサポートを行えば、点滴を行っている患者さんもこれらの活動に問題なく参加することができます。県外で外泊する際は、あらかじめ紹介状を用意しておけば万が一の際にも適切な治療を受けることができますし、極端なコンタクトスポーツを避ければサッカーや水泳なども楽しむことができます。しかし、医療ケアを必要とする患者さん本人もご家族の方も、「こんなことはできない」「こうしたいと言ったら迷惑になる」といった気持ちから、様々な希望を諦めたり、我慢したりしてしまうことがあります。進学や就労だけでなく、趣味や海外旅行でも、サポートと事故への注意を払うだけで安全に実現できるということをご理解いただき、患者さん本人だけでなく、きょうだい・両親も含めて人生を楽しむための希望をどんどん話していただけるよう、支援体制を充実させていきたいと思います。
SBS診療へかける思いについてお聞かせください
私が小児外科医になって初めて長期に担当した患者さんが偶然にもSBSであったことが、SBS診療に携わる契機となりました。他の小児外科疾患の患者さんに比べ長期入院となるため思い入れも強く、点滴による栄養管理だけで成長していく患者さんをみて、非常にやりがいを感じたことを覚えています。また、小児外科医になって初めて亡くなった担当症例もSBSでした。何度も手術を受けて亡くなった方でしたが、ご両親から「これ以上体に傷はつくりたくないけれど、もし同じ病気の子の診療に今後役立つならば」と申し出ていただき、病理解剖をさせていただきました。腹腔内の大量出血やほとんど正常細胞の残っていない肝硬変の病理組織像をみて、数日前までニコニコとヨーグルトを食べていましたが実際はどれほど苦しかったのだろうか、と想像に堪えませんでした。手術を担当し解剖させていただいた責任として、SBS診療に少しでも貢献したいと今でも考えています。