〈⽣成AI研究導⼊術1〉⽣成AIは研究着⼿の強い味⽅
医師の働き⽅改⾰やより良い医療の提供を進めるために、デジタル技術の活⽤による課題解決に取り組む先⽣⽅に、明⽇から使える「ハック」を解説していただく本シリーズ。今回は、琉球⼤学⼤学院医学研究科循環器‧腎臓‧神経内科学講座教授 楠瀬賢也先⽣に、臨床研究での⽣成AI導⼊について伺いました。
近年、若⼿医師の臨床研究離れが懸念されています。この課題を解決する有効な⽅法の1つが、⽣成AIの活⽤です。臨床研究に積極的に取り組める環境をつくるにも、効率的に臨床研究を進めていくにも、⽣成AIは強い味⽅になる。頼れるアシスタントであり、アイデアをブラッシュアップしてくれるパートナーでもあると、先⽣はおっしゃいます。
第1回は、多忙を極める業務の中でいかに臨床研究のための時間をつくるかに始まり、若⼿医師が悩みがちな臨床疑問の⾒つけ⽅や具体的なテーマの選定で、⽣成AIを活⽤すべき理由について、分かりやすく解説していただきます。
本記事は、2025年6⽉24⽇時点(インタビュー⽇)の情報に基づいています。本記事にはインタビューに応じた医師個⼈の⾒解が含まれますが、所属医療機関を代表するものではありません。また、あくまで参考意⾒であり、弊社として当該意⾒の妥当性を保証したり、所属医療機関や記載のサービス等を推奨するものではありません。⽣成AIを⽤いたサービス等には、⼊⼒情報の学習⽤データとしての取り込み等による情報漏洩の可能性、誤情報の出⼒、⽣成物による著作権侵害等のリスクが含まれる場合があります。これらのリスクは、ファクトチェックや学習⽤データとして利⽤されないための「オプトアウト申請」等で低減できる可能性があります。AI技術の発展とその適⽤には予測不能の⾯があり、本記事から得た情報に基づき⽣じた結果に関して、弊社等は⼀切の責任を負いかねます。ご了承の上、ご⾃⾝の責任にてご利⽤ください。
後回しになりがちな臨床研究
医師が臨床研究から遠ざかってしまう要因はいくつか考えられますが、直近では、2024年4⽉に本格施⾏された「医師の働き⽅改⾰」が影響していると考えられます。労働時間の短縮を求められる中で、医師の業務の3本柱である「臨床」「教育」「研究」のうち、「研究」は後回しになりがちなのです。
医師の働き⽅改⾰に先⽴つ2018年の「臨床研究法」施⾏や「専⾨医制度」の刷新も、医師の「やるべきこと」を増やし、研究開始の「始めの⼀歩」を踏み出しにくくしている⾯があるかもしれません。さらにいえば、医療技術や知識の⾼度化も、習得すべき技術や知識を増やし、特に若⼿医師の負担を重くしています。
もちろん、これらの法や制度は、医師の健全な労働環境整備や医療の質の担保に必要です。しかし、こうした要因が重なり、「臨床研究に費やせる時間もエネルギーもない」という苦しい状況を⽣み出し、臨床研究離れにつながっていると考えられます。

まずは業務効率化で研究時間を捻出
こうした環境で臨床研究を始めるには、まず業務効率化を果たして時間的余裕をつくることが先決かもしれません。⽣成AIの活⽤による業務効率化は、このシリーズでも既に紹介されていますが、ここでは私が⽇常業務でどのように活⽤しているのか、いくつか事例を挙げてみます。
【メール⽂書作成】
⽣成AIにメールの趣旨を⼊⼒して依頼すれば、瞬時に⾃然な⽂章を作成してくれます。特に英語でのやり取りには便利で、それまで返信のための⽂章作成に10〜20分かかっていたのですが、今は1〜2分で完了するようになりました。また、例えばGoogleWorkspaceの有料プランの⼀部にはGmailの⽣成AIアシスト機能が標準装備されており、ツールを切り替えることなく、メール作成画⾯の中でシームレスに⽣成AIを活⽤できます。
【評価表作成】
プロジェクトなどの評価表作成も、⽣成AIを使えば、かなり時間と労⼒を削減できます。例えば、働き⽅改⾰のプロジェクトで成果の評価軸を考えていて、労働時間にするか、満⾜度にするか迷ったとします。そんな時に⽣成AIに相談すると、適切な項⽬を提案してくれて、表のベースまで作成してくれるのです。それを事務スタッフに渡して調整してもらうようにすれば、事務スタッフがイチから作る必要もなくなり、作業時間も削減できます。
これらの事例は、業務効率化のごく⼀部に過ぎません。⽣成AIの⽤途はとても幅広いです。⻑い⽂書の概要を要約させたり、「こういうことが書いてある書籍、何だっけ?」と探してもらったりというように、本当にちょっとしたことでもアシストしてもらうと便利です。
私⾃⾝、業務効率化のアシストに⽣成AIを活⽤するようになって、気付いたことがあります。それは、使う前に⽐べて疲労度がまったく違うこと。私は頭を使う仕事をすると疲れて眠くなることがあるのですが、それが⼤いに減少しました。朝も早く起きられます。これは、思いもしなかった⽣成AI活⽤効果です。
臨床疑問探しは「ざっくり」「まるっと」
ここから臨床研究における⽣成AI活⽤の話をしましょう。若⼿医師が臨床研究を始めよう!となった時、まず頭を悩ませるのが研究テーマではないでしょうか。
ただ漫然と診療をしているだけでは、研究テーマは浮かばないものです。ちょっと引っかかりを覚えたとしても、患者さんは回復したからいいか…というふうにスルーしてしまうこともあるでしょう。
改めて振り返ると、医学⽣時代に臨床研究について学ぶことはほとんどありません。近年はいくつかの⼤学で扱うようになっていますが、それでも軽く触れる程度です。このため経験の浅い医師は、⽇常臨床から研究テーマを発⾒する視点が育っていない場合が少なくありません。
そこで私がおすすめしたいのは、⾃分が気になる領域や、診療で出会ったことに関して、⽣成AIに「ざっくり」「まるっと」聞いてみることです。例えば、以下のような具合です。
‧疾患Aで⾏われている治療法Bについて、まだ証明されていないことを教えて
‧疾患Cには薬剤Dを使うのが⼀般的だが、本当に有効なのか? どういった場合には効かないのか? 効くかどうかを予測する⽅法は?
すると⽣成AIは、実にさまざまな⾓度から回答し、深掘りできそうな視点のヒントをくれます。画期的な視点が⾒いだされることもあるので、ぜひ活⽤してください。こうした⽣成AIとの壁打ちを普段から繰り返すことで、普段の診療経験の中から臨床疑問を拾い上げる⼒を鍛えることができるでしょう。

研究テーマはランキング付けで価値検討
⽣成AIと対話すると、興味深い研究テーマのタネがたくさん⾒つかります。ただし、そうして⾒つかったタネをそのまま使えるかといえば、それはまた別の話。さまざまな研究テーマの中から、研究に⾜るテーマを選定し、1つの研究としてモノになる形に昇華できるかどうかは、研究者としての⾔語化しづらい経験値、勘所が重要な側⾯もあるのですが、その段階でも、⽣成AIを使った思考補助のコツがあります。
研究の候補テーマがいくつかピックアップできたら、⽣成AIでそれらをランキングにしてみるという⽅法です。⽣成AIはランキング作成が得意です。⼤量の既存研究のデータを学習していますから、現時点の標準的な解を出してくれるのです。
この時、プロンプト(指⽰⽂)は、「最新論⽂のエビデンスに基づいてランキングにして」と⼊⼒することがポイントです。さらに「各テーマの利点と⽋点をリストアップしてください」とも尋ねると、研究的価値がより明確になります。
ただし、⽣成AIのつくるランキングは、標準的かつ客観的な答えに過ぎず、今あなた⾃⾝やあなたの働く施設が課題に感じていることのランキングではないことに注意する必要があります。ですから、⾃分の⾒解と⽣成AIの⾒解が違っていても気にすることはありません。ランキングが低い研究でも、注⽬されていない分、先進性が⾼い可能性もあり得ます。
むしろ重要なのは、⽣成AIのつくるランキングで客観的な評価をふまえた上で、「⾃分にとって今、⼀番役⽴つのはこのテーマだな」「⾃施設で注⼒している検査法も絡めて考えてみよう」など、独⾃の視点を加味して判断することです。この⾃分独⾃の判断軸を持てるかどうかが、研究としてモノになるかどうかを⼤きく左右します。
旧来は、こうした議論は指導医が存在しなければできないことでしたが、今は⽣成AIが議論相⼿になってくれます。指導医がいれば、この独⾃のランキング付けができた段階で、相談してみるのもよいでしょう。
積極的に活⽤しつつ頼り過ぎないことが重要
ここまで、若⼿医師が「臨床研究の始めの⼀歩」を踏み出すための、⽣成AIを活⽤した臨床疑問の⾒つけ⽅から研究テーマの選び⽅について解説してきました。
⽣成AIはたしかに有⽤で便利です。しかし、頼り過ぎては良くないことは⾔うまでもありません。⽣成AIを知的サポーターとして積極的に活⽤しながらも、⼈間の思考や判断、検証を加え、まだ⼈間にしかできない創造性を発揮する。これらを合わせて「⽣成AIの能⼒を超える」ことが重要だと考えます。
次回以降は、もう⼀歩進み、臨床研究の軸となるコンセプトシートや研究計画書の作成まで解説します。これらの作成は従来、⾮常に⼿間のかかる作業でしたが、⽣成AI時代には、もはや⼤きな壁ではありません。これらの具体的な作成⽅法はもちろん、どこに⼈間の頭を使うか、どこを⽣成AIに任せるべきかの考え⽅も、詳しく説明していきます。
楠瀬 賢也 先⽣
琉球⼤学⼤学院医学研究科 循環器‧腎臓‧神経内科学講座 教授
2004年筑波⼤学医学専⾨学群卒業、2010年徳島⼤学循環器内科助教。2011〜2014 年クリーブランド‧クリニック(⽶国)でのリサーチフェローを経て、2020年より徳島⼤学循環器内科講師、2023年より琉球⼤学医学研究科循環器‧腎臓‧神経内科学講座教授(現職)。臨床の傍ら、⼼不全、肺⾼⾎圧症、弁膜症、⼼エコー図検査と⼈⼯知能による画像診断といった臨床研究を精⼒的に進めており、AI技術を臨床‧教育に浸透させるトップランナーの⼀⼈。書籍「⽣成AIを超えろ! これからの医療者のためのAI学術活⽤術」など。
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