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発売10周年 ベクティビックスの歩み

ベクティビックス®開発の経緯及び発売後の大腸癌治療を取り巻く10 年史

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海外におけるベクティビックス®の開発

ベクティビックス®は、米国で実施された固形がん患者を対象に安全性及び薬物動態を評価した用量漸増第Ⅰ相試験(20030138 試験)、大腸癌、前立腺癌、腎癌、非小細胞肺癌患者を対象に有効性及び安全性を評価した単剤または化学療法併用の複数の第Ⅱ相試験の結果より、切除不能進行・再発大腸癌患者に対して臨床開発が進められることになりました。そして、三次治療を対象にベクティビックス®+Best Supportive Care(BSC)併用群とBSC 単独群の有効性及び安全性を比較検討した第Ⅲ相試験(20020408 試験)1)の結果に基づき、2006 年9月27日に米国FDAより「フッ化ピリミジン、オキサリプラチン及びイリノテカン塩酸塩水和物を含む化学療法治療中又は治療後に病勢の進行が認められたEGFR 発現の転移性結腸・直腸癌」の効能・効果で迅速承認されると、EUにおいても2007年12月に「フッ化ピリミジン、オキサリプラチン及びイリノテカン塩酸塩水和物を含む化学療法治療に失敗したKRAS遺伝子変異のないEGFR 発現の転移性結腸・直腸癌」の効能・効果で承認されました。

本邦におけるベクティビックス®の開発

本邦では、海外試験の結果を踏まえて2005 年に固形がん患者を対象とした国内第Ⅰ相試験(20040192 試験)3)、2006 年に切除不能進行・再発大腸癌患者を対象にした国内第Ⅱ相試験( 20050216 試験)2)が実施され、ベクティビックス® の有用性が確認されました。その後、二次治療を対象にベクティビックス®+FOLFIRI 併用群とFOLFIRI 単独群を比較した国際共同第Ⅲ相試験( 20050181試験)に参画しました。そして、本試験4)ならびに一次治療を対象にベクティビックス®+FOLFOX併用群とFOLFOX 単独群を比較した海外第Ⅲ相試験(PRIME 試験)5)において、KRAS遺伝子野生型の患者におけるベクティビックス®併用群の有用性が確認されたことから、海外試験の結果等を合わせて、2010 年4月に本邦においても「KRAS遺伝子野生型の治癒切除不能な進行・再発の結腸・直腸癌」を効能・効果として承認され、2010年6月に販売開始されました。なお、その後に報告されたPRIME 試験のRAS遺伝子野生型及び変異型患者における後ろ向き解析 6)の結果から、2015年4月には添付文書の<効能・効果に関連する使用上の注意>に「RASKRAS及びNRAS)遺伝子変異の有無を考慮した上で、適応患者の選択を行うこと」と追記されています。

ベクティビックス®の特徴と位置付け

2010年6月に販売開始されたベクティビックス® は、2020年に発売10周年を迎えました。ベクティビックス®は、腫瘍細胞に存在する上皮細胞増殖因子受容体(EGFR)に特異的かつ高親和性に結合して、リガンドのEGFRへの結合を競合的に阻害する完全ヒト型IgG2モノクローナル抗体です(コラム参照)。ベクティビックス®の用法・用量は1回6mg/kgを2週間に1回の点滴静注であり、主要な2剤併用化学療法であるFOLFOX 及びFOLFIRIと同様の2週間間隔投与です。
現在、「大腸癌治療ガイドライン2019 年版」では、ベクティビックス®RAS遺伝子野生型の一次治療、二次治療、三次治療で推奨されているほか、ガイドライン内の「一次治療の方針を決定する際のプロセス」では、RAS/BRAF 遺伝子野生型で原発巣占居部位が左側であればFOLFOXまたはFOLFIRI+ベクティビックス® またはセツキシマブが推奨されています12)

C O L U M N
抗体薬のタイプと一般名 抗体薬における一般名の命名には語尾に一定のルールが設けられており、マウス抗体は「momab」、キメラ型抗体(約66%がヒト抗体)は「ximab」、ヒト化抗体(約90%がヒト抗体)は「zumab」、完全ヒト型抗体は「mumab」となっています。ベクティビックス®(一般名パニツムマブ; panitumumab)は、米国Abgenix社及びImmunex社(両社とも現アムジェン社)がXenomouse®技術を用いて開発した、完全ヒト型IgG2モノクローナル抗体です。

Doctor’s Comment

安藤 幸滋 先生安藤 幸滋 先生
九州大学大学院 消化器・総合外科 併任講師

私が初めてベクティビックス®を使用したのは、九州大学病院で勤務を始めた2011年になります。当時から当院の消化器・総合外科では、腫瘍縮小により切除を目指す、いわゆるコンバージョンを積極的に狙っており、本剤についても使用していました。当時の投与対象はKRAS遺伝子野生型患者でした。現在はRAS/BRAF遺伝子野生型で原発巣の占居部位が左側の患者を中心に用いており、臨床試験の結果とともに、より有効性が期待できる対象患者が絞られてきています。なお、原発巣の占居部位にかかわらず三次治療でベクティビックス®を用いることもあります。
ベクティビックス®は2週間間隔投与であることから、医療者側にも患者側にも利便性が高いことも特徴です。一方で、皮膚障害には注意が必要です。現在は当院もチーム医療が浸透しており、皮膚科医に積極的に介入してもらっているほか、外来化学療法室の看護師も投与前に皮膚の状態などをしっかりと確認してくれます。やはり医師がひとりで無理に抱えるのではなく、積極的に周囲に相談してチームとして皮膚障害に対処することが非常に大切だと思います。
これまでベクティビックス®は、臨床試験の結果により対象となる患者集団が明確になってきました。今後は、現在進行中であるRAS遺伝子野生型に対する一次治療としてベバシズマブ+mFOLFOX6群とベクティビックス®+mFOLFOX6群の有効性及び安全性を比較検討する国内第Ⅲ相試験(PARADIGM試験)の結果に注目したいと思います。そして、本試験の結果により現在の大腸癌治療のエビデンスがさらに強固になることを期待しています。

室 圭 先生室 圭 先生
愛知県がんセンター副院長 兼 薬物療法部 部長

本邦におけるベクティビックス®の開発は、国内第Ⅰ相試験、第Ⅱ相試験を経た後、国際共同第Ⅲ相試験である20050181試験へと進みました。本試験は、大腸癌領域において初めて日本から複数施設が参加したグローバルトライアルであるとともに、本試験とPRIME試験の結果が日本におけるベクティビックス®の承認につながったため、非常に印象深く意義深い臨床試験でした。
ベクティビックス®が発売される前の「大腸癌治療ガイドライン2009年版」では、一次治療における分子標的薬の選択肢はFOLFOXまたはFOLFIRIまたは5-FU/LV±ベバシズマブのみでした。しかし、抗EGFR抗体薬のKRAS遺伝子変異別の有効性の報告、そしてベクティビックス®の承認等を受けて翌2010年にもガイドラインが発行され、「大腸癌治療ガイドライン2010年版」では、一次治療にKRAS遺伝子野生型限定としてFOLFOXまたはFOLFIRI±ベクティビックス®またはセツキシマブが追加されました。すなわち、ベクティビックス®の発売とともに、ガイドラインにおいてすべての治療ラインに抗EGFR抗体薬が推奨され、治療選択肢が大きく増えるとともに、個別化医療が幕をあけたと言えるでしょう。
ベクティビックス®の最大の特徴は、臨床試験の質の高さにあると思います。特にPRIME試験では、試験デザイン時からバイオマーカー測定を計画しており、KRAS遺伝子野生型、そしてRAS遺伝子野生型へと患者集団を絞り込むことでベクティビックス®の有効性はより強固となりました。このRAS遺伝子変異別の解析は「The New England Journal of Medicine」誌にも掲載されました。
ベクティビックス®は大腸癌治療における個別化医療の幕をあけましたが、今後は個別化医療のさらなる展開が望まれます。本剤の対象患者が明確になってきたことから、様々な角度からの治療応用が可能であると考えられ、効果のメカニズム、耐性のメカニズム及び耐性克服のための手立て、リチャレンジの可能性、リキッドバイオプシーによる患者選択などにより、最先端の個別化医療が確固たるものとして一般臨床に根付くことを期待したいと思います。

PICK UP

PARADIGM試験(主研究:NCT02394795、探索的研究:NCT02394834)
PARADIGM試験

PARADIGM試験は、未治療のRAS遺伝子野生型の切除不能進行・再発大腸癌に対する一次治療として、ベバシズマブ+mFOLFOX6とベクティビックス®+mFOLFOX6を比較する多施設共同国内第Ⅲ相試験です。主要評価項目は全例におけるOS、原発巣占居部位が左側の患者におけるOSであり、副次評価項目はPFS、奏効率、奏効期間、治癒切除移行率、有害事象です。本試験は2015年5月に患者登録が開始され、現在進行中です。
また、本試験に関連した治療感受性、予後予測因子の探索的研究も同時に計画されており、本研究も進行しています。本探索的研究では、主研究に参加して同意を得られた患者におけるRAS遺伝子評価時の腫瘍サンプルから収集されたDNAと、1サイクル目施行前及び主研究のプロトコル治療中止時に収集された血漿中遊離DNAを用いて、事前に規定された腫瘍関連遺伝子変異を解析して、本試験で得られたOSとの関連性などについて評価することが計画されています。

20050181試験
20050181試験

0050181試験は、既治療の切除不能進行・再発大腸癌に対する二次治療として、FOLFIRI単独とベクティビックス®+FOLFIRIを比較した国際共同第Ⅲ相試験です。KRAS遺伝子野生型患者におけるPFS中央値はベクティビックス®+FOLFIRI群5.9ヵ月、FOLFIRI群3.9ヵ月であり、ベクティビックス®+FOLFIRI群で有意な延長を認めました(HR=0.73、95% CI: 0.59-0.90、p=0.004、層別log-rank検定)。また、OS中央値はベクティビックス®+FOLFIRI群14.5ヵ月、FOLFIRI群12.5ヵ月でした(HR=0.85、95% CI: 0.70-1.04、p=0.12、層別log-rank検定)。なお、KRAS遺伝子野生型患者におけるGrade 3/4の有害事象の発現率はベクティビックス®+FOLFIRI群68%、FOLFIRI群43%、重篤な有害事象の発現率はそれぞれ41%、31%、致死的な有害事象の発現率はそれぞれ4%、6%でした。治療に関連した致死的な有害事象はベクティビックス®+FOLFIRI群2例(イレウス1例、下痢1例)、FOLFIRI群4例(敗血症2例、急性心不全1例、全身健康状態低下1例)に認められました。

  • 1)Van Cutsem E, et al.: J Clin Oncol. 2007; 25(13): 1658-1664
  • 2)Muro K, et al.: Jpn J Clin Oncol. 2009; 39(5): 321-326
  • 3)Doi T, et al.: Int J Clin Oncol. 2009; 14(4): 307-314
  • 4)Peeters M, et al.: J Clin Oncol. 2010; 28(31): 4706-4713
  • 5)Douillard JY, et al.: J Clin Oncol. 2010; 28(31): 4697-4705
  • 6)Douillard JY, et al.: N Engl J Med. 2013; 369(11): 1023-1034
  • 7)Peeters M, et al.: Ann Oncol. 2014; 25(1): 107-116
  • 8)Price TJ, et al.: Lancet Oncol. 2014; 15(6): 569-579
  • 9)Douillard JY, et al.: Ann Oncol. 2014; 25(7): 1346-1355
  • 10)Schwartzberg LS, et al.: J Clin Oncol. 2014; 32(21): 2240-2247
  • 11)Rivera F, et al.: Int J Colorectal Dis. 2017; 32(8): 1179-1190
  • 12)大腸癌研究会編:大腸癌治療ガイドライン2019 年版.金原出版,2019