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会員限定 経済学から見る病院薬剤師業務

第18回 プレアボイド情報共有システムを通じた、病院薬剤師の地域医療と医療経済への貢献

愛媛県では健康情報拠点推進事業(「愛顔(えがお)の薬局づくり事業」)として、病院、診療所、保険薬局間で、薬剤師の介入により副作用を回避したプレアボイド事例を収集してインターネット上で共有し、さらにそのデータを基に薬剤師の貢献度を医療経済効果として評価する取り組みを2014年度より始めています(図1)。このシステムの中心的役割を担う愛媛大学医学部附属病院薬剤部の先生方と、保険薬局側のお立場として有限会社あい薬局の先生方にご登場いただき、システム設立の経緯とこれまでの成果、今後の展望についてお話いただきました。

Interview

システム設立の背景

Q.システム設立の経緯について教えていただけますか。

田中(亮)先生:第一の背景として、当院の薬剤部がもともと、プレアボイドの取り組みに熱心だったことがあります。平成11年(1999年)から始まった日本病院薬剤師会へのプレアボイド報告に加え、医療経済の観点から薬剤師の貢献を評価する研究を進めており、2014年に医療薬学会に論文の形で発表しました(下記論文紹介「愛媛大学医学部附属病院薬剤部による薬学的介入による医療経済効果の検討の報告」をご参照)。
 一方で当院では薬薬連携にも力を入れており、2013年7月から院外処方せんの改良を重ね、保険薬局と双方向に情報共有ができるような仕組みづくりを進めてきました。そうして少しずつ情報のキャッチボールができるようになってきたことに合わせ、次のステップとして、保険薬局の薬剤師さんが行った薬学的介入事例を蓄積していこうではないか、またこの機会に地域の他の病院や保険薬局にも参加していただいて県全域で情報を共有していこう、ということになりました。こうした取り組みは地域医療の向上につながりますし、そこで得たデータを利用して、当県としての薬剤師介入による医療経済効果を算出することで、薬剤師の職能をもっとアピールすることもできると考えました。

出典:ビジョン実現のための取り組み事例報告②~愛顔の薬局づくり事業~
厚生労働省 平成27年度医薬分業指導者協議会
http://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-11121000-Iyakushokuhinkyoku-Soumuka/0000114053.pdf

Q.院外処方せんは、具体的にはどのように改良されましたか。

田中(守)先生:まず処方せんの右半分に「お薬伝言板」として、処方医から保険薬局へ(①)、保険薬局から病院へ(②)のコメント欄を設けました(図2)。さらに2013年10月からは、患者さんの状態を薬局で確認するためのモニタリングシート(注:副作用チェックシート、吸入指導確認シートなど)を貼付できるようにし(③)、保険薬局の薬剤師さんに記入してフィードバックしてもらって、次の診察までに電子カルテに転記する仕組みを取り入れました。2014年5月からは検査値の表示(④)を始めました。

Q.保険薬局の先生方にとって、こうした試みはいかがでしたか。

古川先生:とても画期的なことでした。保険薬局の場合、患者さんの薬物治療を支える情報の提供をしたい気持ちはあっても、カルテが見えず病名が分からないのでどこからアプローチしたらいいかわからない面がありました。ですが、こうした情報をいただけることで、処方せんを見るときのポイント、患者さんにヒアリングするポイントがつかめるようになってきて、患者さんの背景をより的確に引き出せるようになりました。するとまた新たな情報の必要性に気づき、さらにヒアリングを重ねることができます。そうした好循環が、最終的に患者さんの安全な服薬をサポートすることにつながるのだと感じています。

亀田先生:例えばお薬伝言板の処方医から保険薬局への欄で、吸入指導が必要な患者さんへの吸入指導依頼をいただくのですが、そのテンプレートに気管支喘息やCOPD(Chronic Obstructive Pulmonary Disease=慢性閉塞性肺疾患)などの病名や重点的な指導内容の欄を設けていただいているので、その点にポイントをあてて患者さんとお話することができます。また、その他の薬剤についても休薬や減量など投薬スケジュールについてのコメントが書かれていれば、手持ちの残薬で足りるかなどの確認もできます。検査値についても、肝機能障害や腎機能障害に禁忌の医薬品に対しては、医薬品名表記の前に【肝】や【腎】と書いてくださるのでチェックがしやすくなっています。実際に、こうした検査値に関する情報を活用することによって、禁忌の医薬品が含まれていることに関連した疑義照会は増えているのではないかと思います。

田中(守)先生:検査値については、最初のころは、情報の開示という点で賛否両論ありましたが、今は全国的に、検査値を提供する病院が増えてきています。結局は保険薬局でも検査値を確認することにより、患者さんがより安全で副作用の少ない処方が受けられるようになるというメリットがあり、良かったのではないかと思います。

愛媛大学医学部附属病院薬剤部による
薬学的介入による医療経済効果の検討の報告

薬剤師による薬学的介入から得られる医療経済効果の推算
田坂祐一 他 ;
医療薬学, 2014, 40, 208-214.
https://ci.nii.ac.jp/naid/130005062828

医薬品における副作用の回避やその重篤化の回避は、安全な薬物療法を提供することに加えて医療経済的にも重要なことであると考えられる。本研究では、医療現場におけるリスクマネージャーとしての役割と責任が高まりつつ薬剤師による薬学的介入から得られる効果を医療経済的に評価することを試みた。
まず、薬学的介入をその内容により12種類に分類した。重大な副作用の回避または重篤化の回避に対しては平均2,140,000 円の医療経済効果があると定めた。抗菌薬療法に適切に介入することにより1 件あたりの薬学的介入に対して 190,000 円の医療経済効果 があると定めた。さらに個々の薬学的介入については、米国の研究に基づき、重大な副作用の回避または重篤化の回避の2.6%~5.21%の医療経済効果があると考え、ガン化学療法への介入については112,000 円、ハイリスク薬への介入については84,000 円、その他の薬物療法への介入については56,000円の医療経済的効果があると定めた。
プレアボイド報告を行った平成24年度の209件(うち3件が重大な副作用の回避または重 篤化の回避に該当する薬学的介入)に基づき推算したところ、薬学的介入によるコスト削減効果の総額は¥22,816,000であった。(文献より抜粋)

薬剤師のスキル向上につながるプレアボイド報告

Q.その後、県全体でプレアボイド事例を収集する取り組みへと発展していきましたが、保険薬局ではプレアボイドのデータを1日何件ぐらい入力されるのでしょうか。時間はどれぐらいかかりますか。

亀田先生:日によって変動はありますが、だいたい薬局全体で5~10件ぐらいでしょうか。最初のころは入力にも時間がかかっていましたが、だんだんと短時間でできるようになりました。だいたいのプレアボイド報告は5分以内に入力できています。

田中(守)先生:保険薬局薬剤師のそうしたサマリー記載のスキル向上は、プレアボイド報告を通して得られる効果の一つだと思っています。

古川先生:当薬局では、疑義照会などの業務に活用できる情報かどうかはともかく、まず事例を拾い上げて報告しようという方針で取り組んでいます。そうして経験を重ねていくなかで、結果として、処方せんのポイントをつかんでまとめるスキルが上がってきたと感じています。

事例を共有する意義

Q.病院、診療所と保険薬局が協働で事例を集め、共有しておられる点が、このシステムの大きな特徴だと思います。具体的には、事例をどのように活用されていますか。

亀田先生:他の施設の報告を見ていて、自分たちの薬局にはなかった新たな視点に気づくことがあります。昨年の新入社員教育では、事例を教材として活用し、処方せんのどこに注意すべきかなどのテストを作成し、実施しました。こうしたテストは作る側も勉強になりますし、新入社員にとっても、実際の処方せんという生きた教材で訓練ができるので力がつきます。

田中(亮)先生:2015年度のデータを解析し、病院、薬局を問わず共有したほうがいいと思われる事例をまとめ、「愛媛県病院薬剤師会雑誌の臨時増刊号」を発刊しました。
 さらに、このシステムを適正な薬物療法を推進するためのエビデンスを収集するためのツールとして活用しようということで、現在、「抗菌薬の適正使用」*と「糖尿病重症化予防」の2つのプログラムが動いています。どちらも厚生労働省が重点課題に位置付けているテーマで、当システム参加施設のデータを解析した結果から、薬剤師が介入して適正使用につながったケースが多いことがわかっています。

田中(守)先生:現在、全国的に行われている糖尿病性腎症重症化予防プログラムは、健保組合で特定健診を受けて糖尿病と判断されているのに医療機関に行っていない患者さんを抽出し、受診を促すことで重症化を防ぎ、透析に至るまでの期間を延ばすというシステムです。しかし、もともと本人が来院するケースが少ないですし、そもそもこのシステムでは保険薬局薬剤師は介入できません。
 ですが、重症化する前の段階の、まだ腎機能を保っている患者さんに対してならば、薬局薬剤師が介入して腎機能を考慮した薬剤の選択を提案することで、糖尿病性腎症の進行を防ぐ一助になるのではないか。それを目指して現在取り組みを進めている最中です。

Q.事例が蓄積されていくことで、地域ごとの問題点が見え、改善につながることも期待されます。実際にシステム運用開始後、愛媛県の医療が変わってきたと感じられることはありますか。

田中(守)先生:開始して数年のため、まだまだこれからというところですが、モニタリングシートを導入したり、検査値を保険薬局に提供する医療機関が増えてきたのは、ひとつの成果といえるではないかと思います。患者さんの副作用管理のために何かしたいと思っていたとしても、そのやり方がわからず、踏み出せないでいた施設は多かったと思います。そこへ、こうしたシステムを通して他の施設の情報を知ることで、こんなやり方があるんだ、それならうちでも取り入れてみようかなどと考え、行動するきっかけができたというところは大きいのではないでしょうか。一歩踏み出せば、その後は地域の連携事業として取り組みができますから、発展の可能性は大きく広がっていきます。

今後の課題と展望

Q.システムの今後の課題や展望について教えてください。

田中(亮)先生:まずはシステムをいかに普及させるかという点が大きな課題です。2015年、2016年と、報告件数が伸び悩んでいるので、現在、さらなる普及に向けて、システムの操作性の改善と、勉強会による意識付けを進めているところです。特に、保険薬局薬剤師さんの「腎機能に応じた投与量推奨」の報告件数がまだまだ少ないので、昨年度は「検査値とくすり」をテーマにした疑義照会に役立つような勉強会を3回シリーズで実施しました。今年度は抗菌薬関連の勉強会を展開しています。

田中(守)先生:元来、医療には奉仕という理念が根底にあるのはもちろんなのですが、保険薬局の視点で考えると、経営的な側面も無視できないのではないかと想像します。たとえば、システムを導入することで、適切な安全服薬をサポートする服薬指導が徹底され、患者さんの満足度が向上することで、より多くの患者さんに来てもらえるようになるなどの効果が期待できます。薬局経営者の方々にはこうしたメリットももっと伝えていかなくてはならないと考えています。

古川先生:保険薬局側からすると薬剤師として適切な薬物療法に貢献したいという思いを実現させ、モチベーションを向上させる、という点だけを見ても、このシステムの意義は大きいのではないかと思います。薬剤師の意識は言葉や態度に出ますから、患者さんに必ず伝わります。患者さんが薬局を選ぶ基準のひとつにもなっていくのではないかと思います。

田中(亮)先生:システムに参加することで薬剤師の意識が変わるというのは、病院薬剤師も同様です。薬剤師には患者さんの安全性を担保するという職能があり、それを実践できるひとつの手段が、プレアボイド報告をしてその情報を地域で共有することなのですよ、と伝えています。実際に、若手薬剤師の中にもそういう意識が少しずつ芽生えてきて、件数もコンスタントになってきました。
 今後は組織として、薬ごとに確認すべき項目を決めて、ハイリスクなものは全例ピックアップして介入し、報告する文化を作っていきたいと思っています。適切な介入を行えば患者さんを守ることができるし、医療資源の適正化につながる。情報の蓄積によって地域の医療も改善されていく。そのような未来を目指して、できることを、ひとつひとつやっていきたいと考えています。

愛顔の薬局づくり事業2014年度の評価医療経済効果の報告

Economic and safety benefits of pharmaceutical interventions by community and hospital pharmacists in Japan.
Tasaka Y et al ;
Int J Clin Pharm 2016, 39, 354-63.
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/26744362

2014年4月~2015年2月の期間中に、愛媛県内の病院2施設、保険薬局8施設にて行われた薬学的介入のデータから、これらの介入によって削減されたコストを算出した。保険薬局にて計500件、病院にて計509件の薬学的介入が実施され、それらによるコスト削減の総額は、それぞれ207,126.6USドル、592,840USドルであった。保険薬局による介入は「その他の薬物療法提案」が255件と圧倒的に多く、次いで「残薬解消介入」が135件であった。病院薬剤師の介入は、「重大な副作用の回避、重篤化の回避」が10件、「経静脈的な抗菌薬療法への介入」が42件、「がん化学療法への介入」が88件、「モニタリング推奨」が47件であった。本結果から、医療費の抑制と薬物療法の適正化を目指すうえで保険薬局および病院による薬学的介入が重大な役割を担うこと、および病院と保険薬局では担う役割が異なることが示唆された。(文献より抜粋)

地域薬局と病院で共有できる薬学的介入事例入力システムの開発

Documentation of pharmaceutical care: development of an intervention oriented classification system.
Maes KA et al ;
Int J Clin Pharm 2016, 38, 321-9.
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/28251442

スイスでは、一部の病院においては、薬学的介入事例入力用の標準分類システム(介入をカテゴリーに分けて入力するもの)が導入されているが、地域薬局では全く導入されていない。病院と地域薬局双方での情報共有を促進するためには、地域薬局にも標準化されたシステムの導入が必要との考えから、著者らは、病院で用いられている既存のシステムをベースにした地域薬局用の分類システムPharmDISC(Pharmacist’s Documentation of Interventions in Seamless Care)の開発を行い、その信頼性と妥当性の検証と薬剤師からの意見収集を行った。地域薬局77施設からの参加者が2時間のトレーニングを受け、各々が10件(計770件)の薬学的介入をシステムに入力した結果、725件(94.6%)が正しいカテゴリーに入力されており、FleissのK係数により入力内容の高い一致率が確認された(K=0.61)。このことからPharmDISCの信頼性・妥当性が確認された。また、薬剤師からは本システム導入により薬剤のトレーサビリティの向上、医療者間のコミュニケーションの促進、医療の質の向上を期待する意見が得られた。(文献より抜粋)

*抗菌薬の適正使用に関しては、第16回「感染管理おける薬剤師の取り組み」もご覧ください。
https://www.takedamed.com/knowledge/pharmacist/economics/special/16/

Last Update:2018年7月