ログイン・会員登録

会員の方

ID・パスワードをお持ちの方は、
こちらからログインください。

パスワードをお忘れの方はこちら

認証キーの承認をされる方はこちら

2016年1月より会員IDがメールアドレスに統一されました。

会員登録されていない方

会員限定コンテンツのご利用には、会員登録が必要です。

新規会員登録

サイトマップお問合わせ

  • 新規会員登録
  • ログイン

会員限定 経済学から見る病院薬剤師業務

第16回 感染管理における薬剤師の取り組み

第16回は、TDM(Therapeutic Drug Monitoring:治療薬物モニタリング)をはじめとして、国内の感染制御領域を牽引される、兵庫医科大学病院 感染制御部 主任教授 竹末 芳生先生、薬剤部 高橋 佳子先生にご登場いただき、国内における感染制御領域の課題やそれに伴う病院薬剤師業務の展開、兵庫医科大学の感染制御部のお取組み、また、地域医療連携の推進を背景とした感染管理におけるこれからの課題についてお話しいただきました。

Interview

Q.国内の感染制御領域の課題や現状についてお話しいただけますか。

竹末先生:近年、基質特異性拡張型βラクタマーゼ(ESBL)産生菌、カルバペネム耐性腸内細菌科細菌、多剤耐性アシネトバクター属など、新たな抗菌薬耐性菌(以下耐性菌)の出現による難治症例の増加が世界的な問題となっています。欧米では十数年前より、抗菌薬適正使用支援(Antimicrobial Stewardship:AS)プログラムと呼ばれる取り組みが行われています。国内でも、2017年に抗菌薬適正使用支援プログラム実施のためのガイダンス(http://www.chemotherapy.or.jp/guideline/kobiseibutuyaku_guidance.html)が発表されるなど、抗菌薬の適正使用に関する提言の発表やガイドラインの整備がここ数年で急速に進んできています。

 耐性菌の出現を防止するための対策として、抗菌薬の使用の偏りをなくすこと、抗菌薬の投与期間を短縮することなどが挙げられます。その際に重要な点は、抗菌薬の制限を主目的としないことです。患者さんを救う、治すことを前提として、その上で抗菌薬の使い分けをうまく行うということがポイントです。そのほか多剤耐性菌対策として、隔離接触予防策、手指衛生、デバイス関連感染などの予防対策、環境ラウンドなど多職種からなるICT(Infection Control Team:感染対策チーム)の活動が重要となってきます。

 抗菌薬の適正使用を徹底することにより、医療経済的なメリットも得られると考えられます。病院内で耐性菌の出現や集団感染が発生すると、その治療費、隔離などによる大きなコストがかかります。※1)※2) 耐性菌感染を予防することにより、医療費の削減にもつながることも報告されています。

Q. 感染制御領域において、薬剤師をはじめとする各医療職の参画はどのように進んできているのでしょうか。

竹末先生:平成26 年、感染防止対策加算1が制定され、ICT の設置を評価する制度ができました。これにより、まず感染管理を主に担当する看護師を中心にICT の専従化が進みました。次のステップとして、病院内における抗菌薬適正使用を進める上で、薬剤師の専従化が必要ではないかと考えています。

高橋先生:抗菌薬の適正使用に加え、環境衛生の改善を目的とした環境ラウンドも重要な役割の一つです。これまでは、看護師が中心となって環境ラウンドを行ってきましたが、近年では、環境ラウンドを多職種で行うことの必要性が議論されています。とくに、環境ラウンドにおいては消毒薬の使用、保管方法や薬剤のミキシング、病棟ストック薬の管理をはじめとした、薬剤に関する専門的な知識を要する業務が多いため、薬剤師の参画による環境ラウンドの質の向上が期待されています。
 そこで、当院も参加している私立大学病院感染対策協議会の薬剤師専門職部会では、薬剤師もICT ラウンドに積極的に参画できるように、「感染対策に携わる薬剤師のためのICT ラウンドガイド(http://www.idaikyo.or.jp/pdf/ict.pdf)」を作成し、2014 年に初版を制定しました。
 特に中小病院の薬剤師さんからの関心が高く、学会などでこのガイドラインを紹介した際、詳しく知りたいと声をかけてくださる薬剤師さんが多くいました。大学病院ではほぼ一般的になっていることも、中小病院の薬剤師の中ではまだ役立つ知識であることを知り、改めてガイドラインを整備し、標準化することの重要性を感じています。

NICUにおけるESBL産生Klebsiella pneumoniae
集団感染が関連するコストと入院日数※1

Attributable Costs and Length of Stay of an Extended-Spectrum Beta-Lactamase-Producing Klebsiella pneumoniae Outbreak in a Neonatal Intensive Care Unit.
Stone PW et al;
Infect Control Hosp Epidemiol, 2003, 24(8), 601-606.
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/12940582

米国の小児病院 において、45床を有するNICUで発生したNICUにおけるESBL産生Klebsiella pneumoniaeの4か月にわたる集団感染への対応に要したコスト、入院日数に関するデータを感染児群、感染定着児群、非感染児群に分け、ミクロ経済学的分析を行った。また、感染前のデータと比較した。
集団感染への対応のための総コストは341,741ドルであり、そのうち43%の金額が医療従事者の感染児のケアにかかる人件費であった。国内の平均サンプルと比較して、集団感染前は入院日数が6日少なかったにもかかわらず、集団感染後、感染児群においては平均48.5日入院期間が延伸していた。(文献より抜粋)

多剤耐性菌の集団感染の根絶を目的としたコスト分析※2

Measures to eradicate multidrug-resistant organism outbreaks: how much do they cost?
Birgand G et al;
Clin Microbiol Infect, 2016, 22(2), 162, e1-9.
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/26482264

多剤耐性菌の集団感染を防止するためには、データを詳細に分析し、正しい対策を打つ必要がある。本研究では、病院における多剤耐性菌(MRSA、GRE、CPE、CRAB)の集団感染に関して詳細にコスト分析を行っている13の論文を選出し、病院における多剤耐性菌の感染によるコストを体系的にレビューし、メタ解析を行った。多剤耐性菌に感染している患者の一人当たりの医療費は1,329ユーロから57,532ユーロまでの幅があり、その内訳として、新たな他菌への感染の防止に関わるコストが最も大きな割合を占め、全体コストの69%、生検コストとして24%、スタッフの人件コストとして22%、接触予防対策コストとして18%であった。本研究の結果から、多剤耐性菌の院内集団感染による経済損失についての分析研究は、いまだ方法論が確立していないため、アウトカムとして共通の要素が少ないことにより、多剤耐性菌の院内集団感染を根絶させるためのコスト面においても現実的な対策につながっていないことを課題として挙げている。(文献より抜粋)

Q.現在、感染制御領域ではガイドラインの整備や改定が進められていますが、薬剤師の参画の推進という観点から、どのようなポイントが盛り込まれているのでしょうか。

竹末先生:日本化学療法学会では、薬剤師の抗菌薬の適正使用への参画を前提として、認定制度を早期から立ち上げ、国内の状況に合わせたガイドラインの整備に力を入れています。抗菌薬の適正使用にあたり、薬剤師の最も重要な役割の一つとして、TDMが挙げられます。薬剤師がTDMを通して治療に介入することによる治療成績の向上や、抗菌薬の投薬の短縮化につながり、結果として医療経済的な効果が得られるという報告もあります※3)

病院薬剤部による抗菌薬適正使用推進プログラム(AS)体制整備による
診療アウトカムと経済効果※3

抗菌薬適正使用推進プログラム(Antimicrobial Stewardship)の完全実施体制の確立とアウトカム評価
丹羽 隆;
医療薬学, 2013, 39(3), 125-133.
http://ci.nii.ac.jp/naid/130004502790

岐阜大学病院薬剤部における抗菌薬適正使用推進プログラムの実施に関するレビュー論文。本稿では、岐阜大学医学部附属病院にて感染症専門医と感染制御専門薬剤師が中心となって行った介入について、抗MRSA 薬を対象とした「用量の適正化」による適正使用推進の取り組み、および全注射用抗菌薬を対象として確立した「介入とフィードバック」による抗菌薬の適正使用監視体制および得られた成果を紹介している。テイコプラニンの初期投与設計・TDMに薬剤師が介入した例において、有効血中濃度到達率が、非介入の場合(33%)と比較して、88%となるなど診療上における有効なアウトカムが得られた。これに伴い、介入1年目には認められなかった第2世代セフェム系、カルバペネム系、アミノグリコシド系抗菌薬使用量の減少が認められた。また2週間を超える長期投与症例のさらなる減少、抗菌薬投与症例の入院日数のさらなる短縮が認められた。これらの介入による抗菌薬削減金額は介入 2年目には年間 1904万円/年、医療費削減金額は3億円/年と推定された。(文献より抜粋)

 2016年、日本化学療法学会では、「抗菌薬TDMガイドライン(http://www.chemotherapy.or.jp/guideline/tdm_es.html)」の改訂を行いました。病棟で抗菌薬のTDMに関わる薬剤師に基礎的な知識を共有し、その活用法を標準化することを狙いとしています。薬剤師による抗菌薬の投与設計には、過去、解析ソフトが使われてきましたが、ガイドラインを発表することにより、抗菌薬投与設計に関する理論や特殊病態下での考え方などが徐々に薬剤師の中で広がってくることを期待しています。

高橋先生:ガイドライン改訂前に行った調査1)によると、バンコマイシンに関して53.8%の施設がシミュレーションソフトを使用し初期投与設計を行っているとありますが、私立大学病院においてもいまだ半数以上の大学で解析ソフトを使っているという現状があります。解析ソフトによって解析値に大きな差があるケースもあり、薬剤師はこの点に目を向ける必要があります。すぐに解析ソフトの使用をやめることは難しいかもしれませんが、ガイドラインの改訂により、薬剤師が基本的な投与設計の考え方を意識し、柔軟な投与設計を行うことができれば、臨床医に対してよりよい処方設計の提案が可能になると思います。

1)グリコペプチド系抗菌薬の TDM に関する全国アンケート調査―抗菌薬 TDM ガイドラインとの比較―
植田 貴史他;日本化学療法学会雑誌. 2015, 63(3) 357―364.

竹末先生:また、日本化学療法学会の術後感染症予防抗菌薬ガイドライン(http://www.chemotherapy.or.jp/guideline/jyutsugo_shiyou_jissen.pdf)では、欧米のガイドラインをそのまま使用するのではなく、日本の実情に合わせて活用できるガイドラインを作成することに主眼を置きました。日本でよく行われていても欧米では一般的でない手術もあり、それらに関しては予防抗菌薬に関するエビデンスも少なく、本ガイドラインでは、外科各領域の専門家の意見も取り入れました。これを機会に、予防抗菌薬に関するマニュアルの改訂が進んでいる施設も少なくありません。

高橋先生:確かに、介入に関する指針や基本知識がガイドラインによって公になり、共有されていることによって、薬剤師による臨床医への支援がしやすくなりました。感染管理に薬剤師が関与する上では臨床医からの信頼を得ることが重要ですが、その際に根拠となるガイドラインがあることは薬剤師にとって非常に心強いことです。

Q.兵庫医科大では、薬剤師の先生方は具体的にどのように感染制御に参画しているのでしょうか?

竹末先生:兵庫医科大では、2006年に全員が専従の医師・薬剤師・看護師からなる感染制御部を設立し、病院全体を対象とした抗菌薬の適正使用に向けた活動を行ってきました。抗菌薬の使用状況のモニタリング、それに基づく新たなFeedback法などを提案し※4)、また、連日の抗菌薬ラウンドによる抗菌薬適正使用を進めてきました。成果として、感染制御部の設立前は当院で処方される抗菌薬の6~7割がカルバペネム系薬と大きく偏っていましたが、わずか2年間で抗菌薬の使い分けが達成され、使い分け指標Antimicrobial heterogeneity index (AHI; 1に近づけば平均的な使用頻度、目標は0.85以上)においても目標値をほぼ持続維持しています※4)。(図1)

病院内における抗菌薬の使い分けが
多剤耐性グラム陰性桿菌の発生に及ぼす効果※4

Impact of a hospital-wide programme of heterogeneous antibiotic use on the development of antibiotic-resistant Gram-negative bacteria
Takesue Y et al;
J Hosp Infect, 2010, 75(1), 28-32.
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/20346536

兵庫医科大学では、多剤耐性グラム陰性桿菌による感染症の減少を目的とし、2006年9月から2008年2月にかけて「periodic antimicrobial monitoring and supervision;PAMS」という方法をもとに抗菌薬適正使用を実践し、18か月の介入期間(6か月ごとに第1期~第3期とした)における抗菌薬の使い分けと多剤耐性グラム陰性桿菌の発生率について、介入前の18か月(感染制御部設立前の12か月と準備期間6か月)との比較を行った。異系統の抗菌薬の使用の程度を推計するために、抗菌薬使い分けの指標としてPeterson指数(AHI:antibiotic heterogeneity index;完全な使い分けAHI=1.0、目標0.85)を使用した。AHI推計値は、感染制御部設立前0.66および準備期間は0.74であったが、PAMS導入後は上昇した(第1期0.84、第2期0.94、第3期0.88)。さらに耐性グラム陰性桿菌の検出率は有意に低下し、多剤耐性グラム陰性桿菌の検出率も1.7%から0.5%に低下した。また基質特異性拡張型β-ラクタマーゼ産生菌発生率には有意差は認められず、PAMS第2期には緑膿菌のイミペネム耐性率の改善が見られた。PAMSの実施により、病院全体での抗菌薬の使い分けが促進され、これに伴い多剤耐性グラム陰性桿菌発生率が低下した。(文献より抜粋)

高橋先生:抗菌薬適正使用を目的とした、感染制御部専従薬剤師の1日の活動を図2に示します。専従でない限り、これだけ多くの業務に対応することは難しいと考えています。

Q.現在、地域連携や在宅医療のニーズが高まっている背景がありますが、抗菌薬の適正使用に関して今後の課題を教えてください。

高橋先生:調剤薬局でも抗菌薬の提供を行っていますが、外来院外処方箋で処方された抗菌薬の使用量サーベイランスを現在行っている施設は多くありません。また、調剤薬局では診療内容など患者さんの情報を得るネットワークの充実度も地方によってばらつきがあるなどの理由から、外来で処方される抗菌薬使用量のモニタリングや一元管理がしにくく、現在の体制では調剤薬局における抗菌薬の適正使用への介入は難しいという側面があります。

 また、病院薬剤師と調剤薬局の薬剤師が抗菌薬に関する知識を共有する場はこれまでほとんどなく、連携にかかわる薬剤師すべてが共通の問題意識のもとで抗菌薬の適正使用に取り組むということが、いまだ実現されていません。しかし、地域連携や在宅医療を進めるにあたり、調剤薬局や訪問薬剤師などを含め、全体で抗菌薬の適正利用に関心を持って取り組んでいく必要があります。一病院の中のだけでなく、開業医の先生や調剤薬局の薬剤師さんにも感染管理に関心を持っていただくよう、地域全体に目を向けて活動を広げていくことが今後の課題だと思っています。

竹末先生:抗菌薬の適正使用にあたり、「地域ネットワークの確立」は大きな課題です。近隣の施設から耐性菌感染または保菌患者が入院し、兵庫医科大での耐性緑膿菌の検出頻度が一時的に増加しました。また、最近では、関西を中心に散発しているカルパペネム耐性腸内細菌科細菌によるアウトブレイクも問題となっています。そのため、自施設に留まった対策の限界を感じ、阪神地域でもネットワークを確立し、地域ぐるみの耐性菌対策を進めてきました。

 さらに全国規模では、2015年、伊勢志摩サミットに先立って、厚生労働省から、「薬剤耐性(AMR)対策に関するアクションプラン(http://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-10900000-Kenkoukyoku/0000120769.pdf)」が発表されました。病院での抗菌薬適正使用の推進ももちろん大切ですが、開業医における上気道炎に対する抗菌薬使用制限などに関しては行政との協力が必要ではないかと思います。また、別の側面では、現在、ワンヘルス・アプローチ*)という概念が提唱されており、ヒトだけではなく、動物の抗菌薬の使用まで視野に入れなければ耐性菌の問題が解決しないともいわれるようになってきました。一病院での取り組みにとどまらず、地域や国全体として、抗菌薬の適正利用が実現するよう取り組む時代となってきました。

*)ワンヘルス・アプローチ
2011年、世界保健機関(WHO)により世界保健デーで提唱された、医療機関同士の、また、ヒト、動物といったあらゆる垣根を超えて世界規模での薬剤耐性対策を推進することの必要性を訴える概念。
医療機関において、薬剤耐性グラム陰性桿菌による医療関連感染症が広がり、現在も大きな問題となっている。さらに最近では、こうした医療機関での問題の拡大に加え、医療機関外での市中感染型の薬剤耐性感染症が増加している。
また、全ての感染症のうち、動物から人へ、人から動物へ伝播可能な感染症(人獣共通感染症)は約半数を占め、医師及び獣医師は活動現場で人獣共通感染症に接触するリスクがあるなど、薬剤耐性対策として分野横断的な取り組みが急がれている。

Last Update:2017年10月