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会員限定 経済学から見る病院薬剤師業務

第14回 災害現場において求められる薬剤師の役割と職能

2011年3月11日の東日本大震災の際、被災地では長期化した避難生活から、深刻な薬剤師不足が起こったとされており、この震災を境に災害医療における薬剤師の役割が再考されることとなりました。

また、医療経済学的な側面からも災害時に最善の医療を提供することは、本来避けることのできる死・健康被害を防ぐことや、患者の予後に大きな影響を及ぼすとされています。
経済学から見る病院薬剤師業務第14回は、東日本大震災の際、日本医師会災害医療チーム(JMAT)の広島支部支援薬剤師として被災地の支援に参加された五日市記念病院・荒川隆之先生にご登場いただき、被災地で実際に行われた薬剤師業務と、その役割についてお話しいただきました。

Interview

薬剤師としての広島JMATにおける東日本大震災救護活動への参加の体験から

Q. どのような経緯でご参加されたのでしょうか。

荒川先生:震災から 1ヶ月弱が経過したころ、被災地での薬剤師不足から、日本病院薬剤師会、日本薬剤師会、日本医師会からそれぞれ支援薬剤師の募集が盛んに行われていました。

 日常業務に穴を空けることも難しく参加を迷っていましたが、直接私自身に誘いがかかったこともあり、薬剤師不足の深刻さを感じたため、日本医師会が主催するJMATの広島支部(広島 JMAT)のメンバーとして参加しました。

Q. 実際にご参加され、どのような活動をされたのでしょうか。

荒川先生:現地では12前後のブロックに分かれ、ブロックごとに様々な編成の医療チームが派遣されていました。私は最も震災の影響を強く受けた地域の一つといわれる宮城県石巻市の渡波小学校に派遣され、保健室を仮の救護所として主に調剤業務を行いました。

 私が支援に行った日は、本震後最大の余震の起こった2011年4月7日だったこともあり、被災地の方々は動揺しており、救護所では多くの患者さんが受診されていました。薬剤師が私を含めて2人しかいない中で膨大な量の調 剤を任され、トイレに行く暇もないほどの忙しさでした。

 調剤以外にも、被災地に大量に届けられる支援医薬品の仕分けに多くの時間を取られました。他のグループでは、薬剤師不足から支援医薬品の開封のための人手が足りず、必要なところに薬が行き届かなかったという事例も報告されています。

 また、避難所の感染対策も薬剤師が行っていました。避難所は断水状態で衛生環境も悪く、ノロウイルス・インフルエンザの集団感染が懸念され、実際に集団感染が起こった避難所もあったと聞いています。私の行った避難所では、ノロウイルス消毒のための次亜塩素酸の溶かし方パンフレットを配布する、手を洗えない環境なのでトイレの前に速乾のアルコールを設置し「消毒してください」という注意喚起を掲示する(図1)、などの感染対策を行いました。その成果もあってか、最後まで避難所内でのノロウイルスやインフルエンザの集団発生を防ぐことができました。

 加えて、医師の回診に同行し、医師の指導のもと患者さんの血圧測定などの簡単な検査も行いました。震災のストレスで血圧が上がっている患者さんが多くいたことが印象に残っています。「私は高血圧と診断されたことはありません」という患者さんに対しても、念のため、と測定したら収縮期血圧が 200mmHg を超える方もおり、その都度保健室に走り、調剤して患者さんに持っていくこともありました。

Q. 東日本大震災での医療支援はどのような特徴があったのでしょうか。

荒川先生:東日本大震災の被災者は、溺死か生存かの択一的な側面が強く、大規模震災のなかでも津波が起こらなかった阪神・淡路大震災などと比較して、DMATによるレスキューやトリアージなどの救急対応が少ない状況でした。
 むしろ、津波で家が流され、命からがら助かった被災者が劣悪な環境下で長期間の避難所生活を強いられ、そのような被災者への長期的なケアが重要な課題となり、医療分野で例えると、急性期ではなく亜急性期に相当する医療支援が長期間求められました(図2)。

(下記出典より作図)

Q. 災害の種類によって、必要な医療体制は異なるのでしょうか。

荒川先生:東日本大震災は多数の避難所生活被災者の診察・ケアを支えるため薬剤師は多く必要とされました。阪神・淡路大震災などでは、薬剤師より、その場で患者さんの救命を目的としたDMATによる超急性期的な対応が必要とされたと聞いています。
 対して、2014年の広島豪雨では、東日本大震災と同様に家が流されてしまった被災者が多くいましたが、周辺医療機関や薬局の機能が残っており、通常の医療機能は既存施設でまかなえるため、避難所で過ごす患者さんに対するケア・OTC薬の知識などが必要とされました。これらの事例から、「災害対策を充実させる」と一口に言っても、どのような災害が、どのような時間帯に、どのような地域で起こるかによって必要な医療支援は大きく異なることがわかります。

Q. 東日本大震災で薬剤師が直面した医療上の課題はどのようなものだったのでしょうか。

荒川先生:私の派遣先でも津波によって家や生活必需品が流され、着の身着のまま避難せざるを得なかった患者さんが多く、お薬手帳を紛失し、「飲んでいた薬がない。何の薬を飲んでいたかわからない。」という患者さんが続出し、患者さんの服薬の中断(Medication Loss)のリスクが顕著でした。
 避難生活を伴った過去の自然災害や異常気象の報告では、避難生活終了後も服薬の中断による健康被害を長引かせる患者さんは少なくなく※1、服薬の中断により、本来避けることができた死 (Preventive deaths) や疾患憎悪の原因ともなりえます※2

Interruption of Medication among Outpatients with Chronic Conditions after a Flood.
災害慢性期の外来患者の薬物治療の阻害の影響
- 災害後の調査から -※1

J. Tomio et al;
Prehospital and Disaster Medicine, 2010, 25, 42-50.
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/20405461

2006年の鹿児島北部の土石流の被害を受けた宮之城町、薩摩町の医療機関に訪れた患者を対象に、災害から半年後、薬物治療を阻害する要因を検討する事を目的としたアンケート調査をおこなった。
調査対象となった309名の外来患者のうち、薬物治療に関する不足を訴えた患者の割合は9%にとどまったにも関わらず、避難生活を強いられた患者においては23%が薬物治療の不足を感じていた。なかでも75歳以上の高齢者や、被災前から長期的なケアを必要としていた慢性疾患患者では災害によって薬物治療が不足する傾向がより強かった。さらに、薬物治療の不足を訴えた患者における、災害後1か月以降に実際に健康状態が悪化した患者数は、薬物治療が十分であったと回答した患者と比較して4倍にのぼった。(文献より抜粋)

Disaster-Driven Evacuation and Medication Loss: a Systematic Literature Review
災害による避難と薬物療法の中断の関連事例に関する
システマティックレビュー※2

S. Ochi et al;
PLOS Current Disasters, 2014.
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/25642363

自然災害や異常気象時の避難生活中の薬物療法の中断 (Medication Loss)に関する論文や事例報告70件について系統的にレビューし、分析を行った。その結果、災害による慢性疾患の薬物療法の中断は、あらゆる地域や経済の発展度に関係なく共通してみられていた。薬物療法の中断と大きく関連する要因は、処方薬の再処方の不可であり、その最も大きな原因となったことは、災害前にどの薬品を処方されていたか、患者自身が把握していないことであった。このことから、災害時における薬物療法の中断の責任の一部は患者自身にあるが、医療従事者・患者双方が薬物療法の中断の影響を理解して薬物の中断を防ぐための備えをすることが重要であるとしている。(文献より抜粋)

 さらに、Medication Loss はその後の通院、入院による医療経済的なデメリットとなるだけでなく、患者さんの後 遺症やQOL低下などの健康被害にも甚大な影響を与えることもあります。薬剤師として災害時のこの問題の対応は、患者さんの服薬の中断を防止し、避けられる死を防ぐために非常に重要であると思います。

 東日本大震災が起こってすぐ、SNS上で、災害現場で患者さんの服用している薬がわからないことが薬剤師の間 で問題になり、後方支援として、被災地で使える服用薬確認のためのデータベースを作成しようという動きが起こりました。

 そこで、私が作成にかかわっている、薬剤師向けの薬剤情報を掲載した『薬剤師ノート(http://www.pharmanote.org/modules/xpwiki/)』(広島佐伯薬剤師会運営)と いうページを、てんかん・高血圧などの基本的な疾患ごとの薬剤情報を製剤写真とセットで参照できるようにすると被災地支援に役立つのではないかと考え、SNS上で提供しました。

 集まった有志の薬剤師、メーカーの方々のご厚意により、一挙に作業が進められ、疾患ごとの薬の写真集がすぐに完成しました。実際に被災地に持参し、何の薬を飲んでいたかわからないという患者さんに製剤写真を見せることにより、服用している薬を特定し、処方継続につなげることができた事例が多数ありました。さらに、この薬の写真集は被災地支援に向かう薬剤師にすぐに広まり、後続の支援薬剤師からも役に立ったという声を数々いただきました。

災害医療に関して、薬剤師に求められること

Q. 災害の現場では、薬剤師にどのようなことが求められますか?

荒川先生:災害医療の現場は、薬剤師としての総合力が問われました。
 現在は日常業務に機械が使用される場が多く、薬包の折り方がわからない、薬袋の書き方がわからないという薬剤師も少なくないと思われますが、分包機も薬袋を作る機械もない災害現場では、そのような基礎的な業務スキルも求められます。

 また、災害の現場は、薬剤師としての医療安全を担保するチェック機構としての責任が日常より大きく求められます。被災地では、医師の入れ替わりが激しく、疑義照会をする先がないということも頻繁に起こります。多忙な中、余震も多く混乱した被災現場では、処方の正確性・安全性に関する問題点も散見され、処方監査も非常に重要な業務の一つでした。このような場では、医療安全を担保するための薬物療法や臨床に関する網羅的な知識や経験が必要とされました。

 現在進展している地域包括医療では、薬剤師として包括的な臨床スキルを身に付けること、すなわち高度なジェネラリストとしてのスキルが求められます。災害医療で求められるスキルもこれと通じると考えています。私は、地域の中小病院で勤務しており、日ごろから薬剤師として幅広い業務に携わっています。地域の中小病院で臨床にかかわる広い業務の経験を積みながら専門性を高めた経験が、今回の災害救護で非常に役に立ちました。

 近年の病院薬剤師はスペシャリスト志向が高く、薬学部生も専門資格をとりたいと考える学生が多くいますが、ジェネラリストとしての基本的な臨床スキルをつけた上ではじめて専門性を高めていくことで、どのような状況下でも最大限に薬剤師としての職能が活かせるような薬剤師になれると考えています。

 また、災害現場で一番求められていたのは、薬剤師である前に医療人、医療人である前に人間として何ができるかを真剣に考えられる人であったと思います。これはどの職種であってもそうです。もちろん様々なスキルの人がいる中で、今、何が足りないかなどを、現場をパッと見て、臨機応変に考えて必要だと思うところに動けるということが本当に重要であったと思っています。
 日常診療においても災害医療においても、医療人として、必要な時に真剣に考えて行動できることが、非常に重要であると考えています。

Last Update:2017年2月