ログイン・会員登録

会員の方

ID・パスワードをお持ちの方は、
こちらからログインください。

パスワードをお忘れの方はこちら

認証キーの承認をされる方はこちら

2016年1月より会員IDがメールアドレスに統一されました。

会員登録されていない方

会員限定コンテンツのご利用には、会員登録が必要です。

新規会員登録

サイトマップお問合わせ

  • 新規会員登録
  • ログイン

会員限定 経済学から見る病院薬剤師業務

第13回 病院薬剤師の人材育成とアウトカム向上へのシナリオ

薬剤師の採用、育成に関する優れた取り組みは、より良い病院薬剤師業務のアウトカムに繋がることが考えられます。
第13回は、日本経済大学大学院経営学研究科 教授 赤瀬朋秀先生、上尾中央医科グループ 薬剤部 部長 矢嶋美樹先生、上尾中央総合病院 薬剤部 部長 増田裕一先生にご登場いただき、「病院薬剤師の人材育成」というテーマで、病院薬剤師の採用、育成におけるポイントや実践例についてお話しいただきました。

Interview

Q. 近年の医療職、特に、病院薬剤部の人材マネジメントに特徴的な傾向についてお伺いします。

赤瀬先生:これまで、医療経営の領域では、一般企業と比較して、人材マネジメントに関する理論や体系に関する研究成果に乏しく、経営者や管理職個人のキャラクターや力量に依存する傾向がありました。しかし、近年では経営理論を応用し、より良いマネジメントを行おうという流れができてきており、病院経営における人材マネジメントに急速な進展がみられます。
 特に、病院薬剤部のマネジメントにおいては、バランスト・スコアカード(Balanced Score Card,以下BSC)という戦略的管理手法の導入が活発になりつつあります。BSCは、組織の理念やビジョンのもと、人材の学習と成長から、業務プロセスの改善、顧客への価値、財務という4つの視点を因果連鎖させ、戦略の実践とコントロールを行う経営管理の一手法です(図1)。


私の参加する公益社団法人神奈川県病院薬剤師会のファーマシーマネジメント委員会でも、2007年より薬剤部へのBSCの導入を実践しています。BSCを導入した薬剤部では、病院の理念や基本方針、年次計画を理解した上で、それを実務に落とし込み、病院の方向性に合致した人材育成を行う。それにより、“薬剤部として人材育成の充実に取り組む”ことが薬剤師業務の質を上げ、患者さんの満足、最終的に財務に関するアウトカムにつながった事例が報告されています。

医療機関における薬剤部門の戦略マップに関する研究

赤瀬朋秀 他;
日本経済大学大学院紀要, 2015, 3(2), 1-10.

医療機関の薬剤部門における戦略の共通項を明確化させるため、BSCを導入した施設を対象とし、戦略マップの解析を試みた。その結果、いずれの施設も薬剤部門における経営課題が明確化されていた。顧客に対する視点においては、「薬物療法の適正化」というキーワードが存在し、このことが顧客満足の向上につながっていることが示唆された。また、業務プロセスの視点においても、多方面にわたる課題が挙げられており、特に、薬物療法を適正化させ、顧客満足を得るための業務改善への取り組みが見られた。結果、BSCの導入先では、病床利用率、入院および外来患者数、手術件数、平均在院日数などの治療アウトカムの向上、増収や黒字化などの財務における向上も見られた。(文献より抜粋)

Q. 人材育成を充実させるためには、薬剤師のキャリアへのニーズに合わせた育成が重要だと思います。現在の薬剤師のニーズの変遷について教えて頂けますか。

赤瀬先生:近年、多くの専門および認定薬剤師を養成する制度が誕生し、キャリアパスが多様化しています。一方、新卒の薬剤師に関しては、大学卒業後の進路は病院だけでなく保険薬局、ドラッグストア、企業など多岐にわたっています。
 そのため、薬剤師側の売り手市場の傾向が強く出ています。このことは、雇用する側の病院の視点で考えると、働き方に関するメリットを明確にし、それが新卒薬剤師の志向する働き方と合致しないと就業希望者が集まらないということを意味します。

矢嶋先生:薬剤師にとってのメリットは個人によって異なり、時と共に変化しています。新卒に関しては、数年前までは専門資格の取得を目指して当グループに入職した薬剤師がほとんどでしたが、近年は厚生労働省が地域連携を盛んに推進している背景から、地域医療や、療養に携わることで患者さんと深く関わるというポイントにやりがいを求めて入職する薬剤師が多くなったように感じています。

増田先生:大規模病院から中小病院まで多様な病院で構成されている当グループの中でも、私の所属する上尾中央総合病院は、規模が大きく、高度急性期病院の役割を担っており、専門資格の取得希望者の割合が高いことが特徴です。
 近年では、専門志向の薬剤師でも、その専門性を高めていく中で、他の専門分野である、NST(栄養サポートチーム)やICT(感染制御チーム)等の重要性にも気づき、習得を目指すようになっています。そういった背景からも様々な科で経験を積みたいと考える薬剤師が増えており、ニーズの多様化を感じます。

矢嶋先生:そのような薬剤師の志向の変化を把握し、従来はグループ内の病院は一律に専門資格の取得を目指すキャリアパスを用意していましたが、現在は地域連携などの発展に伴う各病院の機能分化と共に、個々の薬剤師のキャリア志向に合わせて採用を行っています。
 例えば、高度急性期の上尾中央総合病院などについては、より高い専門性を磨きたい薬剤師を採用し、慢性期や療養を担う病院については、地域密着をポイントとし、地域志向の薬剤師を採用します。

赤瀬先生:高度急性期の専門薬剤師のキャリアパスに加え、地域密着型のキャリアパスも提供できるという体制は、現在の地域包括ケアを推進させる時代の流れと一致していますね。

Q. 薬剤師のニーズに合わせた育成への取り組みによる成果はありましたか?

矢嶋先生:新卒薬剤師の離職が減り、人材不足による中途採用が減少しました。中途採用を外部に委託して行うと、新卒の薬剤師を採用する場合の約10倍のコストとなります。新卒で採用した薬剤師を離職させずに育成することにより、採用や教育にかけたコストを活かすことができ、不足した人材の補填のための支出を避けられることによる効果も得られているように感じています。

The Shocking Cost of Turnover in Health Care
(医療従事職における離職の驚くべきコスト)

Waldman, J. D. et al;
Health Care Management Review, 2004, 29 (1), 2-7.
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/14992479

医病院において医師および医療従事者に離職されるコストに関する研究のレビュー論文。
1年間の離職によるコストは、少ない病院でも、年間運営費のうちの5%以上を占めていた。離職による量的なコストとなる要素は雇用費、トレーニング費、生産性の低下による損失が3つの主なものであった。雇用費、トレーニング費については年間運営費の2%前後と大きな損失で、生産性の低下は、離職費の全体の42%を占めていた。これら3つの要素を総合すると、病院にとって離職に関わるもっとも大きな損失となる離職は、雇用したばかりの早期離職、急な離職である。マネジメント担当者は、自らの病院で人材マネジメント政策の評価を行う際に、これまでの離職データを分析し、影響の大きさを検討すべきであるとしている。 (文献より抜粋)

薬剤師のマネジメントスキルの育成について

Q. 病院薬剤部の人材育成において重要な点とは何でしょうか。

赤瀬先生:病院薬剤部での人材育成を行うためには、管理職である薬剤部長のマネジメント力が非常に重要になります。
 これまで、医療職は、テクニカルスキル教育が重視されがちであったため、薬剤部長など管理職に就任してから慌ててマネジメントを学ぶ方も少なくなく、苦労しながら薬剤部の管理運営に取り組まれる姿を目にします。マネジメントには、テクニカルスキルとは異なるスキルが求められるので、中堅や中間管理職など早い段階からマネジメント教育を行うことが望まれます。


Q. 上尾医科グループでのマネジメントスキル教育への取り組みはいかがでしょうか。

矢嶋先生:当グループでは、ノン・テクニカルスキルの研修の一環として、マネジメントスキルのグループワークを行っています。
 さらに、30歳前後の若手の薬剤師を薬局長に登用し、マネジメント経験を積んでもらうこともあります。グループ病院の強みとして、系列病院の薬局長のバックアップ体制が充実しており、困った際に相談・サポートできる先輩がいる環境なので若い薬局長でも安心してマネジメントを任せることができます。

増田先生:若手薬剤師には、テクニカルスキルは早期に習得してもらい、早い段階でマネジメント経験を積んでもらうようにしています。
 以前は、学会発表や論文の執筆は入職から5~6年の薬剤師が中心でしたが、現在は入職から2~3年の薬剤師が主流です。セントラル業務に関しても入職1年程度で広い範囲の取り組みを習得させています。したがって、当グループでは入職から5年程度でグループ病院内薬局長候補としてマネジメントスキルの習得に取り組んでもらっています。

矢嶋先生:また、マネジメントスキルと同様に、上尾中央医科グループ薬剤部の方針として、「薬剤師の役割の本質」「患者さん目線」「重要思考」など、物事の考え方、捉え方についても重視して教育に取り組んでいます。新人からベテランまで一貫して研修テーマに取り入れ、また、何度も繰り返しその教育を行っています。

赤瀬先生:薬剤部の中間管理職の重要な責務として、病院の経営方針に従って構築された薬剤部の戦略や方針を理解し、事業を実践するという役割があります。病院の進む方向性と、薬剤部が担うべき役割を正確に理解し、それらを個々の薬剤師のキャリアに落とし込む方向性を一致させないと、部下である薬剤師のコミットメントの低下や離職にも繋がりかねません。この、方針を個々の薬剤師の行動に落とし込むミドルマネージャーの育成が重要です。

矢嶋先生:当グループでは、経営方針が落とし込めているかについて、年に1回、全ての薬剤師にアンケ―トによる確認を行っています。その結果、各病院薬局長で経営方針が止まっている、あるいは変わっているというケースもみられ、全ての薬剤師に経営方針を正しく落とし込むことは簡単ではなく、何度も繰り返し指導していく必要性を感じています。

人材育成とその成果について

Q. これらの人材育成の成果として、実感されたことはありますか?

増田先生:薬剤総合評価調整加算にあたり、各部署の主任を集めて当院の方針についてのディスカッションを行った際、「加算の有無を問わず、全患者さんに対して、必要な薬学的処置を行うべき」という意見が自発的に挙がったことです。医療者として本質的に患者さんのためになることをしようという「薬剤師の役割の本質」に対する考え方が根付き始めていることを実感しました。

矢嶋先生:病棟薬剤業務加算によって、相対的に服薬指導を行う時間の確保が難しくなっています。そのような中で、当グループでは、薬剤師本来の役割の一つという考え方から、これまでと同様に服薬指導も大切に行うようにしています。タイムマネジメントや業務効率化など、努力すべき事項が増えるにもかかわらず、患者さん目線で質の高い薬剤師業務を提供するために、という考え方が浸透しているからこそ、このような方針を自主的に打ち出すことができていると思います。

赤瀬先生:教育した方針や考え方が個々の薬剤師まで落とし込まれた結果、薬剤師に自主的に患者さん目線の思考が培われているということですね。BSCの理論から考えても理想的です。業務の質向上や効率化などに非常に役立っていると推察します。貴重なお取り組みについてご提示いただき、改めて御礼を申しあげます。

Last Update:2016年12月