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会員限定 経済学から見る病院薬剤師業務

第11回 将来ビジョンを見据えたICT活用による効果的な地域医療連携 ―薬薬連携におけるICT活用とその背景にある人同士のネットワーク―

茨城県ひたちなか市では、ひたちなか総合病院を中心として患者さんの基本情報や、検査、処方等に関するデータを患者さんの同意の上で病院医師、薬剤師、保険薬剤師で共有するひたちなか健康ITネットワークを運営しています。当ネットワークはひたちなか市における地域医療連携の効率化に大きく貢献し、地域連携ICTネットワークの好例といわれています。
第11回は、当ネットワークを中心となって進めるひたちなか総合病院の薬局長である関利一先生と、ひたちなか地域の保険薬局をまとめるひたちなか薬剤師会の副会長(2016年5月インタビュー時点)である塙真也先生にご登場いただき、「将来ビジョンを見据えたICT活用による効果的な地域連携」というテーマについてお話をうかがいました。

Interview

ひたちなか健康ITネットワーク構築の経緯と特徴

Q.ネットワーク構築の経緯と、当ネットワークの特徴について教えていただけますか。

関先生:ひたちなか市は東海第二原発のある東海村に隣接しています。また、グローバル企業を有する企業城下町でもあること、海外と日本を頻繁に往来する従業員が多いことから、災害時の影響が大きくなりやすいことやパンデミックの危険などの問題を抱えています。さらに国内で唯一ひたちなか市でしか生産していない自動車部品の工場があり、東日本大震災でひたちなか市が被災した際には国内の自動車産業がストップしてしまいました。この地域が持つ環境の脆弱性と産業への重要性を受けて、地域をあげて何か対策を打つべきと考えた当院の永井院長から、経済産業省のBCMS(Business Continuity Management System:事業継続マネジメントシステム)を院内で導入できないかという話をいただき、この地域全体で、BCMS構築のための実働訓練を行いました。
 実際に机上訓練や実働訓練をしてみると、情報連携が全くできていないという問題が浮かび上がりました。情報連携をしていくためには、地元密着型のネットワークを作っていく必要があるという考えから、ひたちなか健康ITネットワークの導入ということになりました。
 当ネットワークの特徴は、地域の薬剤師会を窓口として展開している点です。薬剤師会が指揮をとることによって、情報を受け取る側である薬剤師の意見や要望を反映したネットワークを構築してきました。
 ネットワーク構築にあたり、まず、薬剤師会の中で各薬局が感じているネットワーク導入への不安要因に関するアンケートを行いました。その結果、「システムの操作への不安」「保険薬局で普段扱わない検査値について新たに勉強をすることへの不安」「患者さんの同意がとれるのか」など、新しいシステム導入に対する不安の声が聴取されました。そこで、病院側はシステム技術者の派遣、検査値に関する勉強会の開催、同意書の規定フォーマットの作成などを行い、薬剤師の皆さんの不安を、一つずつ解消していくよう努めてきました。このような取り組みによって、ICTが当ネットワークにおいて情報の共有ツールとして有効に稼働し、実際に役立つものになったと考えています。



疑義紹介プロトコールの効果とその課題・見通し

Q.ひたちなか健康ITネットワークの一つの取り組みとして、疑義照会プロトコールを導入されております。他に前例のない取り組みですが、地域薬局との連携にどのような効果をもたらしていますか?

関先生:疑義照会の内訳から、薬剤の効果や副作用についての処方内容の変更を伴うような疑義照会に対して、成分名が同一の銘柄変更、一包化調剤など、処方する薬剤に大きく影響しない、いわゆる形式的に行われている疑義照会が多くあることがわかりました。
 そこで、疑義照会をシステム化し、形式的な疑義照会を「事後報告で対応可能」とすることによって、メディカルスタッフの負担の軽減、患者さんの待ち時間の軽減などの効率化が期待でき、本来の薬学的な介入への注力が可能と考え、7つの疑義照会プロトコールを作成しました(図2)。

塙先生:当プロトコール導入後のデータを参照しますと、ほとんどの項目で形式的な疑義照会の占める割合は減少しています。しかし、興味深いことに、疑義照会の件数自体は変わっていませんでした(図3)。内訳にフォーカスしていくと、抗がん剤の疑義照会件数が7〜8倍に上がっています(図4)。実際に薬剤師が検査値を参照し、処方薬の副作用について疑義照会を行い、処方内容が変更されるという事例も増えてきています。すなわち、疑義照会が効率化されたことにより疑義照会の質が向上していると考えています。疑義照会が効率よく行われ、本来の薬学的な介入に注力できる仕組みを作るという目標は達成されていると言えるでしょう。





Q.実際にこの7つの疑義照会プロトコールの中で、残薬調整のプロトコールが唯一の課題とうかがいました。こちらの点についてもご教示頂けますでしょうか。

関先生:当プロトコールの導入後、各項目がどの程度利用されていたか、利用率を見ていくと、規格変更については9割と非常に利用率が良く、それ以外の変更についても効果がみられていましたが、唯一、残薬調整だけが6.7%しか利用されていませんでした(図5)。



 患者さんの残薬が処方日数の10%以下と確認された場合にのみ事後報告が可能であり、それ以上の残薬が確認された場合には疑義照会を行わなければならないというプロトコールで運用しておりましたが、実際には処方日数の10%以下という制限に当てはまるケースが少なく、多くの患者さんが10%以上の残薬を持っていたため、事後報告ができたのはわずか6.7%であったということです。現在いかに残薬が多いかと言うことを思い知らされるデータです。
 この問題に対する残薬問題解決へのアプローチとして、薬剤師会と合同勉強会を行うと共に、残薬が起こる理由、対処方法、薬剤名や数量を患者さんごとに集計できるような仕組みを「残薬調整の報告シート」として電子カルテの中に作成しました。医師、薬剤師が電子カルテを通して患者さんの残薬に関する規定のフォーマットに沿った情報を共有し、それをもとに個々の患者さんの残薬の原因に向き合い、それぞれの立場から適切な指導を行うことによって、残薬ゼロを目指しています。
 さらに、残薬調整の報告シートとして一律のフォーマットに沿って情報を管理し、その情報に患者さんの病名や基本情報を加えると、より詳細な分析が可能となります。個々の患者さんの薬の飲み残しデータから地域全体の飲み残しの特徴に関するデータまで、汎用性の高いビッグデータが非常に効率的に得ることができ、切り口を変えることで今までみえなかった新しい問題点も見えてくる事を期待しています。そういった意味で、日ごろの業務効率のアップだけではなく、問題点の洗い出しとその対策がより迅速に行えるようになることが期待できます。

患者背景及び持参薬確認とその評価に基づく処方設計と提案

関 利一 他;
週刊薬事新報, 2014, 2823, 153-159.

ひたちなか総合病院では2010年10月、入院時に持参薬確認ができるよう外来持参薬受付窓口を設置し、薬の専門家である薬剤師が処方内容や服薬状況、持参薬の内容などを確認の上、電子カルテへ処方形式で登録し、未採用薬の代替薬の提案なども含めてその内容を処方設計として医師に提案するシステムを確立した。薬剤師の処方設計は、82.1%が変更なし、一部変更が17.4%と高い割合で利用されており、医師の業務負担の軽減となった※。その上、システム導入後3年間の持参薬に関わるインシデント報告の分析から、インシデント報告のうち95%が患者さんへの実害はない傷害レベル1以下の内容であり、処置や治療を必要とするインシデント報告はゼロであったことから、安全性の高いシステムを構築することができたとしている。

「経済学から見る」ポイント

※著者の関利一先生は、1件あたりの所要時間20分、1日15人の入院患者、医師の人件費を5000円/時と仮定して換算すると、人件費として年間900万円以上の削減が推定されたとしている。


ネットワークを支えるコミュニケーション

Q.病院と地域の保険薬局の間など、このネットワークを生きたものにするためには、人同士のコミュニケーションが重要と思われます。薬局薬剤師の立場から、ひたちなかがうまくいっている理由としてどのようなことがあげられるでしょうか。また、それをふまえたネットワークの今後の取り組みとはどのようなものでしょう。

塙先生:当ネットワークが円滑に運営できている背景として、薬剤師会と病院の関係が良好であることがあります。先ほど関先生のお話にあったように、薬剤師会の不安や要望を聴取してくれた上で、システムや同意書の作成などの整備を進めてくださるなどの病院側からの働きかけがあったおかげで、薬局薬剤師は当ネットワークの運営方針、施策を理解し、不安を抱え込むことなく進められています。
 このような病院側からの働きかけを受けて、薬剤師会副会長として、保険薬局の薬剤師に対して勉強会への積極的な参加を呼びかけています。タイムリーなテーマでの勉強会開催等の効果もあってか、この地域は薬剤師の勉強会への参加率が非常に高いという現状があります。勉強会は、服薬指導や専門知識の研鑽の場としてだけではなく、成功事例の共有の場としての側面もあります。勉強会に参加した薬剤師は刺激を受け、より意識高くネットワークに参加してくれるようになりました。このことは、薬剤師会として、かかりつけ薬剤師制度への対応や在宅医療への薬学的介入など、薬局薬剤師ならではの視点をもって今後のネットワークの展開を考えるきっかけにもなっています。当ネットワークがあることによって、病院がバックアップしてくださるおかげで実行しやすいことも追い風となっています。

関先生:ひたちなかでは勉強会で高い意識を共有し、薬剤師として地域医療にどのように貢献できるか考える機運が高まっています。医療、福祉、介護が別々に動いている現状においては、薬学的ケアが十分ではなく、残薬の問題などの改善には限界があります。この問題に対して、当ネットワークとして何かできることはないかと考えています。しかし、ネットワークを広げるにあたって、現在よりもっと小さな単位でいろいろな専門の職種が関連することによりコミュニケーションの齟齬が生まれ、ネットワークがうまく運営できない危険は必ずついて回ります。そうした危険を回避するために、当ネットワークで当院と保険薬局が行ってきたように、他の職種も巻き込んだ形で人と人とのコミュニケーションの基盤をさらに広げることが重要です。そうした点を意識して、当地域の情報ネットワークをさらにすぐれたものにしていきたいと考えています。

※先生方の役職等については、インタビュー当時(2016年5月)の情報です。

Working in interprofessional primary health care teams:
What do pharmacists do?
他職種とのプライマリーケア連携チームにおいて、薬剤師の役割とは何であるのか

Farrell B et al;
Research in Social and Administrative Pharmacy, 2013, 9, 288-301.
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/22835709

他職種とのプライマリーケア連携チームにおける、薬剤師の自身の役割、他職種が感じる薬剤師の役割の認識に関する調査。プライマリーケアチームに所属する医療従事者とその患者を対象に、フィールドノートへの記録、医療従事者−患者間のかかわりの観察、インタビューなどの手法を用いて、チーム医療を行う薬剤師自身・チームメイト・患者の薬剤師の役割についての認識を検討した。このなかで、薬剤師の自身の役割の捉え方は「医師のリクエストに答えること」と、「患者教育と情報の提供をすること、薬物療法を向上するために、チームの治療方針など、組織全体の方針に関わる介入をすること」の二通りに分かれた。この違いは、個々の薬剤師の教育の背景や、性格、経験の違い、所属するチームのコミュニケーションやリーダーシップの違いによるものであると考えられる。医療の質を上げるために、薬剤師による薬学的介入を充実させたいと考えるチームには、リーダーシップのもと、チームの方針を明示することと、その上で、知識、スキル、質がマッチングしている薬剤師が求められるとしている。

Last Update:2016年9月