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会員限定経済学から見る病院薬剤師業務

第7回 周産期医療における薬剤師の役割

経済学から見る病院薬剤師業務 第7回は、妊産婦への薬外来に27年前から取り組んできた虎の門病院薬剤部部長の林昌洋先生にご登場いただきます。「周産期医療における薬剤師の役割」をテーマに、虎の門病院の「妊娠と薬相談外来」での取り組みや、薬剤師の周産期医療への関わりを通じた経済効果についてお話いただきました。

Interview

虎の門病院「妊娠と薬相談外来」設立の背景

Q.1988年に虎の門病院で「妊娠と薬相談外来」が設立された背景について教えていただけますでしょうか。

林先生:当院の産婦人科外来では、以前より、妊婦さんから「妊娠と気付く前に薬を飲んでしまったが大丈夫か」「持病があって薬を飲まなければならないが赤ちゃんに影響はないか」等の問い合わせが多くありました。ところが、1980年代当時は、我が国の医療環境として明確な回答を提供できるだけの情報もシステムも整っていなかったので、産婦人科医から、妊娠中の薬剤使用に関する問い合わせが医薬情報科に度々入っていました。その都度、対象薬剤に関する国内外の論文調査や製薬会社の製造販売後調査を行い疫学研究を中心に胎児リスクを評価した結果をフィードバックしていました。それを続けていく中で「妊婦さんをよく知る産婦人科と、薬のことをよく知る薬剤部で共同の外来を設けよう」という提案があり、その約1カ月後に「妊娠と薬相談外来」が設置されました。

当外来では、毎週1回、妊娠と気づかず薬剤を服用した場合や慢性疾患治療で薬剤継続服用が必要な場合など、薬剤の胎児への影響を心配する患者さんに対し、催奇形性のリスクなどを含めた薬剤情報を提供し、カウンセリングをおこなっています。開設以来、平均して年間300人、毎月30人弱の患者さんが受診しています。

虎の門病院「妊娠と薬相談外来」における薬剤師の4つの役割

Q.虎の門病院の「妊娠と薬相談外来」において薬剤師の担う役割について具体的にお教えいただけますでしょうか。

林先生:当院での「妊娠と薬相談外来」における薬剤師の役割は大きく4つに分けられます(図1)。 1つ目は、妊婦さんが妊娠に気づかず服薬した、あるいは患者さんが服薬している薬剤の妊娠への影響について、薬学の専門家として特性やリスク情報を調査、評価することです。まずは世界各国の論文や疫学調査、学会ガイドライン、厚生労働省の医薬品等安全性情報や製薬企業の製造販売後調査、生殖試験、など、できる限りの資料を集めます。それらをもとに、妊娠中の使用例や胎児への影響等を調査し、1~2週間かけてリスクの検証をおこないます。開設当初はひとつひとつの薬剤に対して一からデータを集めて検証をするために膨大な時間を要していましたが、現在では、開設から27年間で集めた3,000種類以上の薬剤データがあるので、調査や検証時間は短縮されつつあります。そして、その内容をサマライズして産婦人科医と協議し、カウンセリングの方針を決定します。
 2つ目は、産婦人科医と合意した方針に基づき、外来診療で患者さんに情報提供しカウンセリングをおこなうことです。ここでの薬剤師の役割は、薬剤やリスクに関する情報をわかりやすく患者さんに説明するとともに、妊婦さんの不安要因を払拭できるようコミュニケーションすることです。実際のカウンセリング時には薬剤に関する相談だけでなく、妊娠に関わる症状など産科的な相談が付加されるケースが少なくないため、カウンセリングは必ず産婦人科医と薬剤師がペアで行っています。
 3つ目は、informed decision makingの遂行です。直訳すると、「患者さんに意志決定してもらうために情報を伝える」という意味ですが、一歩踏み込んで妊婦さん自身やカップルの意思を尊重する哲学に裏打ちされています。必要な情報提供、相談対応をおこなった上で、妊娠継続などの判断は最終的にご自身で決定できるよう支援します。ここでは、患者さんご自身が十分に理解・納得した上で決定することはもちろんですが、後々その選択を後悔することのないよう科学的な根拠や思考を使いこなしていただくことも大切です。
 最後、4つ目はフォローアップです。国内外を問わず、妊娠中に使用した薬剤が胎児に及ぼす影響に関する情報は極めて少ないのが現状のため、当外来では同意を得られた妊婦さんに出産結果を教えていただき情報収集に努めています。それにより得られた情報を、妊娠中の服薬状況や乳児の健康に関する情報などと合わせて集積・解析しています。その研究データは、今後のカウンセリングや母子の健康を守るための非常に有用な資料となります。

Q.「妊娠と薬相談外来」での情報提供やカウンセリングを通じて患者さんを望ましいゴールへと導かれた事例がありましたらお教えください。

林先生:妊婦さんの相談を受けていて、1990年代までと、2000年以降とでは相談の内容が変化していると感じます。1990年代までは、どちらかというと「妊娠に気づかずに薬を飲んでしまったけど大丈夫か」という相談が多くみられました。例えば、妊婦や妊娠している可能性のある女性には禁忌として添付文書等に記載されている医薬品を、妊娠に気づかずに使用したことを心配し、ご夫婦で受診されたケースがありました。データベースからリスク解析をしたところ、欧州で500例以上を集めた大規模疫学調査により「先天性奇形を含む胎児毒性、新生児毒性を示さない」という結論が示されていたため、その調査結果をご紹介しました。ご夫婦は、自分の服用した薬で赤ちゃんを傷つけたのではと自分を責め、妊娠をあきらめる覚悟をされていたようで、それまで非常に張りつめていた診察室の雰囲気が、その瞬間、一気に緩んだことを記憶しています。安心し、笑顔で帰られる様子に、一つの命、一つの家族を救えたのかもしれないと実感しました。
 一方、2000年以降は、「妊娠前に飲んでいた薬を妊娠中も継続して飲んで大丈夫か」という相談が増加しています。中には相談をせず、添付文書の「禁忌」という表記を見て、自己判断で薬剤の使用をやめてしまうケースもあります。第2子の妊娠中だったある女性は、おなかの子に影響が出ては困ると不安障害の治療薬の服用を中断したことで症状が悪化してしまい、上の子の育児が不可能になるほどのつらい状態で受診されました。その時に処方されていた精神神経系の薬剤の胎児への影響は、ケースコントロールスタディによる指摘のみで、コホートスタディでは胎児リスクが認められていないものでした。また、カウンセリングでお聞きしたところ実は第1子妊娠時もその薬を服用しており問題なく第1子が産まれているということもわかりました。データをご紹介し、母体の状態などを考慮した上で、「お母さんが心身ともに安定することがおなかの赤ちゃんにとっても重要ですよ」とカウンセリングしました。潜在リスクがある以上、添付文書等に記載し注意喚起することは大切ですが、逆の結論となった研究の存在や、交絡因子やバイアスが結果をゆがめた可能性などを分りやすく解説して、実在するリスクがどの程度の可能性として存在しているのか納得できるまで妊婦さんに寄り添う取り組みが重要です。また、お一人おひとりに母児のリスク・ベネフィットがあるので、あらゆるケースでただちに服薬を中断すれば良いのではなく、それぞれのケースにあわせて治療と妊娠をうまく継続できるようコントロールしていくことも重要だと考えています。

Q.今後も、薬学的観点から妊婦さんを支えていく薬剤師の役割に期待が高まっていくと考えられますが、その体制を支える妊婦・授乳婦薬物療法認定薬剤師、妊婦・授乳婦専門薬剤師資格について、お教えください。

林先生:現在、日本病院薬剤師会では5つの領域の専門薬剤師を認定しており、そのうちの一つが「妊婦・授乳婦専門薬剤師」です。妊娠から授乳期までの薬に関する知識と正確な情報収集・評価技術並びにリスクコミュニケーション能力を有していて、母子への薬剤の影響や健康面について主体的にかかわり、医師と連携してサポートするのが職務です。
 妊婦・授乳婦専門薬剤師になるためには、まず妊婦・授乳婦薬物療法認定薬剤師の認定を受けることが必要です。認定薬剤師は、実務経験や実績(妊婦・授乳婦の薬剤指導に3年以上従事、実績30症例以上等)、一定期間の研修や講習(実技研修40時間以上、講習会20時間以上)などの条件を満たす者が認定申請でき、試験に合格することで認定されます。実技研修では、専門の研修施設でリスク評価能力やカウンセリング技術などを評価しますが、当院も研修施設の一つとして実務研修を実施しています。
 その後、各専門領域での研究業績(学会発表3回以上、学術論文2編以上等)を積み重ねていくことで、専門薬剤師の認定申請が可能になります。専門薬剤師認定後は、5年ごとの更新により資格を維持できます。
 2005年に国立成育医療研究センターに妊娠と薬情報センターが設置され、さらに全国28ヵ所に拠点病院が作られていることで妊婦さんを支える体制が全国に広がっていると感じておりますが、このような専門資格も更に広がって現在100名の認定者が全国で活躍しておりますので、今後更に妊婦さん授乳婦さんと胎児・乳児をサポートできる薬剤師が増えていけばと思っております。

薬剤師の周産期医療への関わりがもたらす医療経済効果と今後の課題

Q.最後に、周産期医療への薬剤師の関わりにおける今後の課題についてお教えください。また、それによる医療経済効果についてはどのようにお考えでしょうか。

林先生:医療崩壊という言葉を方々で耳にしますが、周産期医療を取り巻く環境も非常に厳しいことを実感しています。その中で薬剤師が何をできるかを考えていくことが今後の課題といえますが、産婦人科医と、そのパートナーである助産師、両者から「薬のことは薬剤師に相談したい」と、協働の要請が届いています。厚生労働省医政局からチーム医療推進の通知が出され、それが診療方針に反映されているのは周産期医療分野でも同じです。医師、助産師、薬剤師によるチーム医療を推進することが、医療崩壊を防ぎ周産期医療を支える一つの重要なストラテジーになると考えています。
 実は、産科病棟は基本自費診療であり、薬剤管理指導料をとっておらず、妊婦が薬剤を使用する機会も少なかったことから周産期医療分野では病棟薬剤師の活動が定着していない実情がありました。服薬指導というより、周産期医療全体を薬学的にサポートするという方向性のほうが、薬剤師はチーム医療に参加しやすいかもしれません。最近では、周産期病棟にも薬剤師が配置され、妊娠中や授乳期の相談について薬学的根拠に基づき協働し妊婦さんを支援できる体制が広がりをみせつつあります。
 医療経済的な視点でこのような取り組みを評価した報告として、カナダ・トロント小児病院におけるマザーリスク・プログラムに関する研究*1を紹介します。この研究で示されているように、赤ちゃんを危険な薬から守るというカウンセリングや、不安による赤ちゃんの命の中断を防止することが、経済効果として評価されています。
 経済的な面だけでなく、これから産まれてくる命を守るということは少子高齢化の問題に直面する我が国にとって、有意義な取り組みであると考えています。今後は、これらの領域で周産期医療における専門性の高い薬剤師がより多く活躍できるようになることを期待しています。

妊産婦のカウンセリング提供に対する経済的評価研究*1

Cost-effectiveness of teratology counseling-the Motherisk experience Gideon Koren, Pina Bozzo (2014)
Journal of Population Therapeutics Clinical Pharmacology, 21(2), e266-70.

http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/25134865

 トロント大学の小児病院において、出産にリスクを覚える妊産婦に対するカウンセリングによってコスト削減効果が得られた報告。不必要な流産の回避で516,630ドル(2012年1年間で225件)、先天性異常を抱えて生まれる可能性の排除で9,032,492ドル(2012年1年間で8.14件)、計約1千万ドルのコスト削減を達成した。2013年度に費やされたカウンセリング料が640,000ドルであることを考慮すると、カウンセリングによる正しい情報提供・検査の実施は非常にコスト効率が高い取り組みであることが示唆された。

妊産・授乳婦さんに関する情報提供等についての関連研究

新国際基準による妊娠糖尿病のスクリーニングと診断が、妊娠・出産に関連するリスクの回避とコスト削減につながった報告

Introduction of IADPSG criteria for the screening and diagnosis of gestational diabetes mellitus results in improved pregnancy outcomes at a lower cost in a large cohort of pregnant women: the St. Carlos Gestational Diabetes Study.
Duran, A., et al. (2014).
Diabetes Care, 37(9), 2442–50.

http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/24947793

スペインの妊娠女性に関する大規模前向きコホート研究。IADPSGC(国際糖尿病・妊娠学会が世界統一を図った妊娠糖尿病の新しい診断基準)の導入による、妊娠に関連するリスクについてのアウトカムの変化と費用対効果を検証している。
新診断基準を導入後、妊娠糖尿病を3.5倍多く検出できるようになり、妊娠性高血圧・未熟児・帝王切開・胎内発育遅延児・NICUへの入院などの問題も減少した。費用効率としては、妊娠女性100名当たり推定14358.06ユーロのコスト削減につながった。

今すぐ活用できる周産期の薬剤使用に関する情報源の紹介

「産婦人科診療ガイドライン―産科編2014」
日本産科婦人科学会・日本産婦人科医会 編集・監修 (2014)

http://www.jsog.or.jp/activity/guideline.html

現時点でコンセンサスが得られた適正な標準的産科診断・治療法を示すことを目的に、日常の産科臨床上で遭遇しやすい問題などを中心に10分野にわたるクリニカルクエスチョン(CQ)104項目と対応する複数の回答を提示したガイドライン。「胎児障害・形態異常に関する相談」に関する項では妊婦・授乳婦への予防接種やインフルエンザワクチン、抗インフルエンザウイルス薬の投与について患者からたずねられた場合の回答例や、その他添付文書上の禁忌や有益性投与に関するCQ等16項目が掲載されている。

Last Update:2015年6月