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会員限定経済学から見る病院薬剤師業務

第6回 薬剤師によるフィジカルアセスメント導入の臨床的・医療経済的効果

経済学から見る病院薬剤師業務第6回は、長崎大学病院薬剤部部長の佐々木均先生にご登場いただきました。長崎大学病院が主催するフィジカルアセスメント研究会の副会長でもいらっしゃるお立場から、薬剤師が患者の身体に触れながら副作用症状を把握する「フィジカルアセスメント」を実施する意義・有用性、さらには、チーム医療の中で薬剤師がどのように専門性を発揮していくかについて、お話しいただきました。

Interview

薬剤師によるフィジカルアセスメント導入の背景と目的

Q.薬剤師によるフィジカルアセスメントを導入した背景と目的について、先生のお考えをお聞かせください。

佐々木先生:近年、病院薬剤師の業務は、病棟薬剤業務をはじめとした取り組みでの発展がみられますが、今後はチーム医療の中でさらにその職能を発揮することが期待されます。その一環として、薬剤師の「患者さんの状態を把握する力、判断する力」を強化したいと考え、フィジカルアセスメントを導入しました。
 従来、薬剤師が患者さんに触れることは、医師法などの法律上での規定の解釈があいまいで、他職種から十分な理解は得られていませんでした。しかし、近年その認識は変わり、薬剤師が薬剤の副作用や有効性、適正使用などを含めた薬学的管理によって薬害を防ぐという明確な目的を前提とした行為であれば、法的にも問題はないと考えられるようになってきています。
 そのような環境の中で、病院薬剤師によるフィジカルアセスメントは、「患者さんの全体像をイメージしながら薬学的管理をする」ための有用なツールの一つとして位置づけられるのではないかと思います。実際にフィジカルアセスメントを実施する中で、患者さんの皮膚や目の色などを見る、あるいは触れることによって得られる「気づき」によって、検査値や画像所見を確認するきっかけが生まれ、そこから、患者さんの状態を総合的にイメージすることが可能になると考えられます。

 医療の現場では、患者さんの体内の状態をイメージすることが非常に重要です。 例えば、医師は問診や触診の結果、カルテの内容、検査値、画像所見などをもとに、「患者さんの肺のこのあたりにこのぐらいの炎症が起こっている」などと病態をイメージしながら治療戦略を立てることがあるかと思います。同様に薬剤師も患者さんについて得られた情報をもとに患者状態をイメージすることで、副作用の防止につなげることが可能です。その際に「薬を分子として」考えることができるのが薬剤師の特徴です。薬剤師は、患者さんの体内に入った薬の作用を、分子がどのように散らばっていくか、今後どのように減っていくかといった、化学的、数学的な視点からとらえることができます。フィジカルアセスメントは、そのような薬剤師ならではの視点から患者さんの状態を見極めるために、患者さんについてより多くの情報を得る有効な手段の一つだといえます。

Q.フィジカルアセスメントを実践することで、薬剤師はどのようにチーム医療の中での貢献度を高めることができるのでしょうか。

佐々木先生:近年、Protocol-Based Pharmacotherapy  Management (PBPM) と呼ばれる、医師と薬剤師による共同での薬物治療管理への取り組みが進んでいます。このような薬剤師の役割変化は、薬剤師がチーム医療の一員としてさらに活躍できる環境が整うことにつながっています。フィジカルアセスメントは、病院薬剤師が患者さんとコミュニケーションをとる一つのツールです。また、日本病院薬剤師会の報告(2009)1)でも言及されているように、医療チーム内での薬剤師と他職種との患者の状態に関するコミュニケーションを活性化し、多職種間で相互に業務をカバーしあうことにつながります。結果として、薬剤師によるチーム医療への関与も深まるのではないかと思います。

1) 日本病院薬剤師会(2009).「薬物療法の質の向上と安全確保に資する病院薬剤師の新しい業務展開-新しい業務展開実態調査結果を踏まえて」中間報告.

薬剤の適正使用推進につながるフィジカルアセスメント

Q.薬剤師によるフィジカルアセスメントを導入することの医療経済的効果について、先生のお考えをお聞かせください。

佐々木先生:当院では、薬剤師によるプレアボイド報告が毎月の診療科長会議や教授会で報告され、プレアボイドとして重要だったり頻度が高かったりする事例などは、院内で情報を共有するようにしています。それらの中には、薬剤師がフィジカルアセスメントを通して検査値や画像所見などを見直し、薬剤の不適正使用や副作用を防いだ事例なども含まれています。したがって、フィジカルアセスメントの導入は、病院全体としては薬剤の適正使用の推進と医療経済的損失の回避につながっていると考えています。医薬品の副作用は、以下の研究1*でも示されているように、それが経済的な損失以上に人命の損失にまでつながる大きな課題であり、薬剤の適正使用・副作用回避は薬剤師の大きなミッションです。

入院患者での命に関わる医薬品副作用発生率をメタ解析で調べた研究*1

Incidence of adverse drug reactions in hospitalized patients a meta-analysis of prospective studies.
Lazarou, J. et al. (1998)
The Journal of the American Medical Association, 279, 1200-5.

http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/9555760

 1966年から1996年までの電子データから選出した39件の前向き研究を対象に、入院患者での重大な医薬品副作用発生率をメタ解析で調べた研究。その結果、命に関わる副作用の発生率は0.32%であり、1994年の米国(入院患者33,125,492名)において、106,000名の入院患者において命に関わる医薬品の副作用があったと推計された。この数字は米国の死因上位の心疾患(743,460名)、がん(529,904名)、脳卒中(150,108名)に次ぐ数字であり、急性肺炎や糖尿病よりも上位となる数であった。

 また、フィジカルアセスメントは、これから先、病院薬剤師だけではなく保険薬局薬剤師にとっても重要になると考えられます。今後、在宅医療はさらに促進されますが、それに伴って、在宅診療での副作用予防をはじめとしたより幅広い役割が保険薬局薬剤師に求められることが想定されます。その役割の中でフィジカルアセスメントを活用する意義は大きく、結果的に医療費の軽減などの経済的なメリットにもつながるものと考えられます。実際、薬剤師が調剤以外の業務で成果を挙げている海外の事例*2も参考になります。

調剤業務以外の薬剤師の役割とその効果に関するレビュー論文*2

Effect of outpatient pharmacists’ non-dispensing roles on patient outcomes and prescribing patterns.
Nkansah, N. et al.(2010)
Cochrane Database of Systematic Reviews, 7 (7).

http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/?term=20614422

 薬剤師が外来患者に対して行う調剤以外の役割に関して、世界各国の43本の論文をレビューした研究。36本は薬剤師による患者への介入、7本は薬剤師による他の医療従事者への介入であり、それら複数の研究をもとに、調剤以外の薬剤師の役割の効果についてまとめている。患者への介入を扱った論文では、薬剤師から服薬指導を受けた患者は医師からの通常のケアのみを受けていた患者よりも収縮期血圧の改善が多くみられたという報告や、患者への支援が薬剤の重複の予防や服薬数を減らすことにつながり患者のQOLが改善したとする報告があった。一方、医療従事者への介入を扱った論文では、薬剤師がガイドラインに沿った処方のための教育的支援を行うことによって、処方内容が改善されたとする報告があった。

フィジカルアセスメントの促進に向けた取り組み
-長崎大学病院の取り組みから

Q.長崎大学病院では2010年から薬剤師によるフィジカルアセスメントを導入されていますが、他病院で展開する際のご参考として、導入した際に意識したこと、ポイントなどをお教えください。

佐々木先生:薬剤師によるフィジカルアセスメントを導入する際、長崎大学病院では三つのクライテリア(基準)が重要だと考え、実践してきました(図2)。
 一つ目は、フィジカルアセスメントの目的を明確にするということです。すなわち、その目的は、診断・治療ではなく、薬剤による副作用の発見であり、薬剤師の職務として実施するという意識をもつことが非常に重要と考えます。これは、先ほど触れた法的な問題にもかかわる大事な点かと思います。
 二つ目は、導入のためには薬剤師が実践的なスキルを習得することです。これは、他職種にも納得してもらえるレベルでの習得が大事だと考えます。たとえば当院では、フィジカルアセスメントができる薬剤師の育成を目指す研究会を設立し、病院長や医療教育開発センターの教授の協力をいただきました。講習会は、医師の協力のもと実際に人に触れる実技のトレーニングを中心に行っております。県内の薬剤師を対象に1年間のプログラムを組んで月一回の講習会を実施しています。 参加者には座学は書籍で勉強してきていただき、勉強会では実践を中心に行なっています。
 三つ目は、導入に対する理解を各施設の医療従事者や患者さんに得ることです。薬剤師が一生懸命に行動しても、他の医療従事者から疑問を抱かれては、フィジカルアセスメントの導入はおろか、チーム医療の実現も難しくなってしまいます。まずは、薬剤部長、診療科長、病院長など、各部署や組織の責任者の許可を得ることが不可欠だと考えます。たとえば当院では、病院長を会長としたフィジカルアセスメント研究会2)を設立し、当大学・院内の各委員会にその重要性について伝達し、他職種の方々に理解を求めました。このような病院内での周知活動が大切です。また、医療従事者だけでなく、患者さんに対しても、院内の広報誌に関連する情報を掲載したり、フィジカルアセスメントのバッジをつけるなどして理解いただけるように努めています。

2) フィジカルアセスメント研究会:2010年、長崎大学病院を中心として、フィジカルアセスメントができる薬剤師の育成を目指し、県内の薬剤師を対象とした「長崎薬剤師フィジカルアセスメント研究会」を発足。会長を病院長、副会長を佐々木均薬剤部長が務められ、濱田久之医療教育開発センター教授、北原隆志副薬剤部長が中心となって運営されている。

Q.長崎大学病院でのフィジカルアセスメントへの取り組みについて、今後の展望をお教えください。

佐々木先生:現在、フィジカルアセスメント研究会では、参加者へのアンケートによるプログラムの見直しと、フォローアップ研修による再教育を行っています。また、薬剤師によるフィジカルアセスメントが地域全体に広く受け入れられるような環境づくりに取り組んでいます。フィジカルアセスメント研究会では当院の薬剤師だけではなく、他院の薬剤師や地域の保険薬局薬剤師、学生にも参加してもらっています。地域の患者さんや他施設の医師や医療スタッフにも、薬剤師によるフィジカルアセスメントの重要性を理解していただくことが必要です。 長崎大学病院の広報誌「ポンペだより」の薬剤師のフィジカルアセスメントの取り組みに関する特集 そこで、地域で読まれている病院広報誌や医師会の広報誌などに、当研究会や講習会の紹介記事を積極的に掲載し、フィジカルアセスメントの認知向上を図っています。このように、他施設との連携や患者さんの理解を広げていく取り組みが今後ますます重要になるのではないでしょうか。
 薬剤師としての根本である薬学をしっかりおさえつつ、フィジカルアセスメント導入などの新たなアプローチを通じて薬剤師の取り組みが進化を続け、それがチーム医療における薬剤師の存在意義をより高めていくことにつながればと考えています。

他職種との協働や治療薬物モニタリング(TDM)に関する関連研究

医師-薬剤師の協働管理と24時間血圧のコントロール

Physician-pharmacist co-management and 24-hour blood pressure control.
Chen, Z., Ernst, M. E., Ardery, G., Xu, Y., & Carter, B. L. (2013).
Journal of Clinical Hypertension (Greenwich, Conn.), 15(5), 337–43.

http://www.pubmedcentral.nih.gov/articlerender.fcgi?artid=3641686&tool=pmcentrez&rendertype=abstract

医師と薬剤師との協働的な介入を通じ、24時間血圧に関する指標の変化と高血圧治療薬の服用状況の変化を確認することを目的とした米国の前向きクラスターランダム化比較研究。アイオワ州の21歳以上の高血圧と診断された患者374人が対象とされた。介入群に対しては、臨床薬剤師が薬物療法と血圧について開始時、1ヵ月後、3ヵ月後(電話)にそれぞれ評価を行い、血圧管理が不良な患者に対してはケアプランを作成し、必要な場合には薬物療法の変更を医師に申し入れるなどの働きかけを行った。対照群に対しては通常通りのケアが提供された。
その結果、医師と協働管理を行った群は対照群よりも平均外来血圧(収縮期)の値が有意に低く、昼間血圧(122.8 mm Hg vs 134.4 mm Hg ; P<.001)、夜間血圧(114.8 mm Hg vs 123.7 mm Hg; P<.001)、24時間血圧(120.4 mm Hg vs 131.8 mm Hg; P<.001)いずれにおいても有意に低かった。

潜在的な有害事象予防のための持参薬管理に対する看護師―薬剤師間の協働について

Nurse-pharmacist collaboration on medication reconciliation prevents potential harm.
Feldman, L. S., Costa, L. L., Feroli, E. R., Nelson, T., Poe, S. S., Frick, K. D., Efird, L. E, Miller, R. G. (2012).
Journal of Hospital Medicine : An Official Publication of the Society of Hospital Medicine, 7(5), 396–401.

http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/22371379

1000床規模の米国の病院において、看護師―薬剤師主導による持参薬管理の過程が有害事象(ADEs)の予防につながるかを検証した前向き研究。看護師が入院患者へのインタビューや電子記録の見直しを通じ、入院前に家庭で服用していた薬物のリスト(HML)を作成。その後入院後の処方薬剤リストとつき合わせ、確認された服用薬剤の飲み合わせの悪さ(discrepancies)が処方元による意図的なものか否かについて判断した。退院時にも同様の手続きを踏むことで意図しない飲み合わせの悪さの事例を評価し、3段階の潜在的有害尺度を評定した。563人の患者のうち、225人の患者に少なくとも1つの意図しない飲み合わせの悪さが確認され、162人の患者に対して中程度の悪影響や臨床的な悪化をもたらしうるとされる「ランク2」、または深刻な悪影響や臨床的悪化をもたらしうるとされる「ランク3」の有害尺度の評価が下された。また、本研究では、飲み合わせの悪さを1件確認するために113.64ドルのコストがかかっており、計算上290人中1件の潜在的な飲み合わせの悪さを確認することで介入コストは相殺される。本研究においては290人あたり81件のADEを潜在的に回避する結果が示された。

薬剤監視(市販後調査)と薬物治療の安全性における治療薬物モニタリング(TDM)

Therapeutic drug monitoring in pharmacovigilance and pharmacotherapy safety. Haen, E. (2011).
Pharmacopsychiatry, 44(6), 254–8.

http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/21959787

長年にわたり市販後調査の手段として用いられていたTDMが、近年では分析技術の進展により有害事象(ADE)の予防的位置づけとして用いられるようになり、有害事象への対処コスト、高コストの診断や退院日数の短縮などを通じて、ヘルスケア産業全体のコスト削減にもつながりうるとの立場を主張する展望論文。著者は、在院日数や薬剤コストの側面からのさらなる実証が必要と指摘するが、TDMとはADEの監視と記録ツールから、ADE予防のための薬物療法における安全ツールへと変化しうると強調している。

Last Update:2015年4月