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[法制度編 第2回]
薬機法改正で変わる薬局業務
継続的な服薬フォロー(1) 求められる「薬学的知見による判断」
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薬局・薬剤師に関する主な法令である「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律(薬機法)」が2019年12月に改正・公布されました。改正薬機法では、「薬剤師・薬局のあり方の見直し」として、(1)薬剤使用期間中の継続的な情報提供・指導の義務化、(2)薬局の機能の明確化、(3)一定条件下でのオンライン服薬指導の解禁――が盛り込まれました(表1)。このうち、薬局の業務に大きな影響を与えるのは、(1)の薬剤使用期間中の継続的な情報提供・指導の義務化といえるでしょう。
これまでの薬機法では、薬剤交付時の情報提供・指導が規定されていました。それが、今回の改定によって、薬剤交付時に限らず、薬剤使用中は継続して患者や家族に対して情報提供・指導を行うことが規定されました。次回、患者が来局するまでの間にも、安全に薬物療法を受けられるよう、必要に応じて患者をフォローアップすることが求められるようになったことを意味します。
表1 医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律等の一部を改正する法律(令和元年法律第63号)の概要(厚生労働省資料より一部抜粋)
1.医薬品、医療機器等をより安全・迅速・効率的に提供するための開発から市販後までの制度改善
2.住み慣れた地域で患者が安心して医薬品を使うことができるようにするための薬剤師・薬局のあり方の見直し
3.信頼確保のための法令遵守体制等の整備
- (1)許可等業者に対する法令遵守体制の整備(業務監督体制の整備、経営陣と現場責任者の責任の明確化等)の義務付け
- (2)虚偽・誇大広告による医薬品等の販売に対する課徴金制度の創設
- (3)国内未承認の医薬品等の輸入に係る確認制度(薬監証明制度)の法制化、麻薬取締官等による捜査対象化
- (4)医薬品として用いる覚せい剤原料について、医薬品として用いる麻薬と同様、自己の治療目的の携行輸入等の許可制度を導入 等
4. その他
- (1)医薬品等の安全性の確保や危害の発生防止等に関する施策の実施状況を評価・監視する医薬品等行政評価・監視委員会の設置
- (2)科学技術の発展等を踏まえた採血の制限の緩和 等
では、どのような患者にどういったフォローアップを行う必要があるのでしょうか。薬機法の条文や施行規則などを参照しながら考えてみましょう。
薬剤使用期間中の継続的な情報提供・指導については、改正薬機法の第9条の3第5項に規定されています。薬局における開設者の義務として、薬を適正に使用する上で必要がある場合は、薬剤師に患者の薬剤の使用状況を継続的かつ的確に把握させ、必要な情報を提供したり、薬学的知見に基づく指導を行わせなければならないと示されています(表2)。
フォローアップすべき患者や内容については、改正薬機法では「薬剤の適正な使用のため必要がある場合として厚生労働省令で定める場合には、厚生労働省令で定めるところにより」との記載に留められており、具体的には厚生労働省令による規定となっています。
表2 改正薬機法「調剤された薬剤に関する情報提供及び指導等」より抜粋(アンダーラインは編集部)
第九条の三
- <略>
- 5.第⼀項⼜は前項に定める場合の他、薬局開設者は、医師⼜は⻭科医師から交付された処方箋により調剤された薬剤の適正な使用のため必要がある場合として厚生労働省令で定める場合には、厚生労働省令で定めるところにより、その薬局において薬剤の販売又は授与に従事する薬剤師に、その調剤した薬剤を購入し、又は譲り受けた者の当該薬剤の使用の状況を継続的かつ的確に把握させるとともに、その調剤した薬剤を購入し、又は譲り受けた者に対して必要な情報を提供させ、又は必要な薬学的知見に基づく指導を行わせなければならない。
- 6.薬局開設者は、その薬局において薬剤の販売又は授与に従事する薬剤師に第一項又は前二項に規定する情報の提供及び指導を行わせたときは、厚生労働省令で定めるところにより、当該薬剤師にその内容を記録させなければならない。
ただし、2020年8月31日に公布された厚生労働省令にも、「薬剤の適正な使用のために必要な情報を」「薬剤師が必要性があると認めた場合」といった文言が示されているに過ぎません。
言い換えれば、患者一人ひとりについて、薬剤師が薬学的知見を基に必要性を検討し、実施することが求められていることになります(表3)。
フォローアップ時に確認すべき事項についても同様です。薬剤交付時に必要とされている指導内容に加えて、服薬状況と体調の変化は規定されていますが、それ以外は、薬剤師が情報提供や指導する上で必要なことを実施するよう、示されています。
つまり、フォローアップすべき対象の患者像が定められ、その患者に対してフォローアップしなければ法律違反になるといったものではなく、その患者の状況に応じて、薬剤師が必要性を考えていく必要があります。ポイントは、「薬剤師が患者一人ひとりに合った対応を考えて実施する」ことといえるでしょう。
表3 薬機法施行規則 「調剤された薬剤の販売等」より抜粋(アンダーラインは編集部)
第十五条の十四の二
- 法第九条の三第五項の厚生労働省令で定める場合は、当該薬剤の適正な使用のため、情報の提供又は指導を行う必要があるとその薬局において薬剤の販売又は授与に従事する薬剤師が認める場合とする。
-
2. 前項に該当する場合、薬局開設者は、次に掲げる事項のうち、その薬局において薬剤の販売又は授与に従事する薬剤師が必要と認めるものについて、当該薬剤師に把握させなければならない。
- 一 第十五条の十三第五項第一号から第九号までに掲げる事項
- 二 当該薬剤の服薬状況
- 三 当該薬剤を使用する者の服薬中の体調の変化
- 四 その他法第九条の三第五項の規定による情報の提供又は指導を行うために把握が必要な事項
- <略>
第十五条の十四の三
-
法第九条の三第六項の規定により、薬局開設者が、その薬局において薬剤の販売又は授与に従事する薬剤師に記録させなければならない事項は、次のとおりとする。
- 一 法第九条の三第一項、第四項又は第五項の規定による情報の提供及び指導を行つた年月日
- 二 前号の情報の提供及び指導の内容の要点
- 三 第一号の情報の提供及び指導を行つた薬剤師の氏名
- 四 第一号の情報の提供及び指導を受けた者の氏名及び年齢
- 2. 薬局開設者は、前項の記録を、その記載の日から三年間、保存しなければならない。
実際に、フォローアップを実施する上では、日本薬剤師会による「薬剤使用期間中の患者フォローアップの手引き(第1.1版)」が参考になります。7月に第1.0版が公表され、その後、厚生労働省令の内容を反映させた改訂版である第1.1版が9月に出されています。
なお、改正薬機法では、フォローアップした際には、その内容を記録することを求めています(表2)。必要な項目は、情報提供・指導した日付、その内容の要点、対応した薬剤師の氏名、患者の名前と年齢(表3)。記録は3年間の保存を求めています。
薬剤師による情報提供や指導の記録、つまり「薬歴」については、これまで調剤報酬上の要件であったものの、法的には規定はありませんでした。それが、改正薬機法によって初めて、法律上の規定として定められたことになります。
ただし、法律で求められる記録と、調剤報酬上の薬剤服用歴管理指導の算定要件とは、記載すべき内容が異なるため、注意が必要です。