A70歳代、男性、主疾患はALSで嚥下機能に障害がある胃瘻患者さんの事例をお話します。
介護者の妻から、何か食べさせてあげたい、口に入れてあげたいという強い希望がありました。末期ですがまったく飲み込みができないわけではない。ただ、食物摂取は医師より止められていました。
[他職種からの意見]
患者さんの痛みをアセスメントした訪問看護師が痛み止めを追加したいという考えを持っていました。
これには、服用タイミングと手間が課題となりました。
薬は元々、1日7回経管の簡易懸濁で投与していましたが、1回1時間程度かかるため、介護者の妻がすべてを行うことは不可能です。
処方を調整し1日3回まで減薬したところ、その看護師より患者さんの痛みが強くなってきたので薬を増やしたいという報告がありました。さらに1日2回まで減らす方針の中、意見の食い違いが表面化しました。
看護師は、1日2~3回の経管投与に加え就寝前に痛み止めを追加するプランを医師に伝えていました。就寝前の経管投与は妻の負担が大きく事実上難しいと考え、夕食後の24時間タイプの痛み止めを提案しました。直接、看護師とのやり取りはありませんでしたが、医師が調整し薬剤師の提案を採用してもらうことになりました。
POINT
一緒に仕事をしていくチームとしての機能を考えたときに、自由に提案できる状況は重要。
組むチームによって、誰にどう意見を伝えていくかはその都度調整すればよい。
<結果>
「食べさせてあげたい」という介護者の妻の希望について医師と相談した結果、睡眠導入剤のOD錠を夜に飲んでもらうこととなりました。
普通錠をOD錠に変更し、1日1回だけOD錠を口に入れることで妻の希望をかなえる形です。
痛みで入眠しづらい、夜間の排尿は避けるため寝る直前の水分摂取は抑えたいといった背景もありましたので、患者さん・ご家族の望みに対して多職種で考え、一石二鳥、三鳥となった上、妻から大変な感謝の声をいただいた事例になりました。
アウトカム向上につながる
コミュニケーション事例
「クスリはリスク」というとおり、医療訴訟・事故の8割に薬剤が関係しているというデータもあります。薬剤師法の改正などを受け、薬剤師の義務と責任が大きく変わりゆく中、薬剤師はどのようにリスクを回避し、アウトカム向上につながる支援・介入をしていくか?
意思決定に至るコミュニケーションの過程で誰とどのように関わっていくかを押さえつつ、具体例と考え方をご紹介いただきます。
一般社団法人 日本在宅薬学会 評議員
北海道ファーマライズ株式会社 西いぶりエリアグループ長
ひまわり薬局 店長
佐藤 一生先生(薬剤師)