厚労省が「オンライン診療の適切な実施に関する指針」の改訂について報告
政府が閣議決定した規制改革実施計画を踏まえてオンライン診療の要件を緩和
2022.04.01
厚生労働省(厚労省)は、令和4年2月28日に開催した社会保障審議会医療部会で、同年1月に「オンライン診療の適切な実施に関する指針」を改訂したことを報告するとともに、同指針の概要について説明した。同指針の改訂は、政府が令和3年6月に閣議決定した規制改革実施計画を踏まえてのもので、①一定の要件の下、初診からのオンライン診療が可能、②オンライン診療の前の「診療前相談」について定義、③オンライン診療の実施の可否については日本医学会連合が作成した「オンライン診療の初診に適さない症状」などを踏まえて判断すること――などとしている。
ポイント
- 初診からのオンライン診療は原則として「かかりつけの医師」が実施
- 患者の医学的情報が十分に把握できれば「かかりつけの医師」以外の医師も初診からのオンライン診療を実施できる
- オンライン診療の可否は日本医学会連合作成の「オンライン診療の初診に適さない症状」などを踏まえて判断
映像のない電話を使っての診療は想定していない
平成30年度診療報酬改定でオンライン診療が制度化されたことに対応し、厚生労働省は同年3月に「オンライン診療の適切な実施に関する指針」を策定した。また、政府は、ICT関係は進歩が速いことから、同指針については毎年見直す方針で、令和元年7月には同指針が改訂された(以下、旧指針)。
旧指針は、映像のない電話を使っての診療や初診からのオンライン診療は認めていない。しかし、新型コロナウイルス感染症対策の一環として、令和2年4月10日から時限的・特例的(以下、コロナ特例)に、初診からの映像のない電話を使っての診療やオンライン診療(以下、電話診療・オンライン診療)を容認し、この場合の初診料を214点とした。この段階で旧指針とはまったく異なる基準で電話診療・オンライン診療が行われるようになったわけである。
そのような状況を踏まえて、政府は令和3年6月に閣議決定した規制改革実施計画において、時限的・特例的な扱いではなく恒久的な措置として、かかりつけ医による初診からのオンライン診療については実施可能とするほか、かかりつけ医がいない場合でも一定の要件を満たせばそれを実施可能とするという方向で具体案を検討する、という方針を打ち出した。ただし、そこでは、映像のない電話を使っての診療は想定していない。あくまでも、視覚および聴覚を用いる情報通信機器を使っての診療、いわゆるオンライン診療を前提としている。
厚労省の「『オンライン診療の適切な実施に関する指針』の見直しに関する検討会」は、政府の方針を踏まえて旧指針の改訂について議論し、意見をまとめた。それに基づき、厚労省は令和4年1月に旧指針を改訂した(以下、改訂指針)。
改訂指針の構成は旧指針とほとんど変わらないが、内容的には大きな改訂に
改訂指針の構成は下表のとおりで、構成自体は旧指針とほとんど変わらない。しかし、内容的には、①一定の要件の下で初診からのオンライン診療を可能とする、②オンライン診療の前の「診療前相談」を定義し、費用の徴収も可能とする、③オンライン診療の実施の可否については日本医学会連合が作成した「オンライン診療の初診に適さない症状」などを踏まえて判断する――など、大きな改訂がなされている。
改訂された「オンライン診療の適切な実施に関する指針」の構成
- Ⅰ オンライン診療を取り巻く環境
- Ⅱ 本指針の関連法令等
- Ⅲ 本指針に用いられる用語の定義と本指針の対象
- (1) 用語の定義
- (2) 本指針の対象
- Ⅳ オンライン診療の実施に当たっての基本理念
- Ⅴ 指針の具体的適用
- 1.オンライン診療の提供に関する事項
- (1) 医師-患者関係/患者合意
- (2) 適用対象
- (3) 診療計画
- (4) 本人確認
- (5) 薬剤処方・管理
- (6) 診察方法
- 2.オンライン診療の提供体制に関する事項
- (1) 医師の所在
- (2) 患者の所在
- (3) 患者が看護師等といる場合のオンライン診療
- (4) 患者が医師といる場合のオンライン診療
- (5) 通信環境(情報セキュリティ・プライバシー・利用端末)
- 3.その他オンライン診療に関連する事項
- (1) 医師教育/患者教育
- (2) 質評価/フィードバック
- (3) エビデンスの蓄積
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初診からのオンライン診療が可能となるのは3つの場合がある
改訂指針の大きな特徴は、原則や一定の要件を示したうえで、初診からのオンライン診療の実施を可能としたことである。具体的には、初診からのオンライン診療が可能となるのは、①「かかりつけの医師」である、②「かかりつけの医師」以外の医師が患者の医学的情報を把握できる、③「かかりつけの医師」以外の医師が診療前相談で患者の医療情報を十分に把握できる――というように、大きく分けると3つの場合がある(後述)。
まず、初診からのオンライン診療は、原則として「かかりつけの医師」(日頃より直接の対面診療を重ねている等、患者と直接的な関係が既に存在する医師)が行う。
「かかりつけの医師」ではなくても、既往歴、服薬歴、アレルギー歴などのほか、症状から勘案して問診および視診を補完するのに必要な医学的情報を過去の診療録、診療情報提供書、健康診断の結果、地域医療情報ネットワーク、お薬手帳、PHR(パーソナルヘルスレコード)などから把握でき、患者の症状と合わせて医師が可能と判断した場合には実施できる(この場合は、事前に得た情報を診療録に記載する)。
診療前相談を定義し、費用はホームページなどで示す
改訂指針では診療前相談について定義したうえで、「かかりつけの医師」以外の医師が患者の医学的情報(前述)を十分に把握できていない場合であっても、診療前相談によって患者の医学的情報が適切に把握できて、相互に合意した場合はオンライン診療を実施することが可能である、としている。その要点は次のとおりである。
診療前相談とは、診断・処方その他の診療行為は含まない行為で、「かかりつけの医師」以外の医師が初診からのオンライン診療を行おうとする場合(医師が患者の医学的情報を十分に把握できる場合を除く)に、医師-患者間で映像を用いたリアルタイムのやりとりを行い、医師が患者の症状および医学的情報を確認する行為。適切な情報が把握でき、医師・患者双方がオンラインでの診療が可能であると判断し、相互に合意した場合にオンライン診療を実施することが可能である(オンライン診療を実施する場合においては、診療前相談で得た情報を診療録に記載する必要がある)。
診療前相談により対面受診が必要と判断した場合であって、対面診療を行うのが他院である場合は、診療前相談で得た情報について必要に応じて適切に情報提供を行う。
診療前相談を行うにあたっては、結果としてオンライン診療が行えない可能性があることや、診療前相談の費用などについて医療機関のホームページなどで示すほか、あらかじめ患者に十分周知することが必要である。
実施の可否や処方については日本医学会連合が作成した資料等を踏まえて判断
コロナ特例について検証してきた「『オンライン診療の適切な実施に関する指針』の見直しに関する検討会」において特に問題視されたのは、電話診療で患者の症状が把握できるのか、初診において適切な処方ができるのか、といったことである。
それらの問題を踏まえて、改訂指針では、一つの判断基準として、一般社団法人日本医学会連合が作成した「オンライン診療の初診に適さない症状」、「オンライン診療の初診での投与について十分な検討が必要な薬剤」を紹介し、それぞれ次のように説明している。
オンライン診療の実施の可否の判断については、安全にオンライン診療が行えることを確認しておくことが必要であることから、「オンライン診療の初診に適さない症状」等を踏まえて医師が判断する。オンライン診療が適さない場合には、対面診療を実施する(対面診療が可能な医療機関を紹介する場合も含む)。
患者の心身の状態の十分な評価を行うため、初診からのオンライン診療の場合および新たな疾患に対して医薬品の処方を行う場合は、「オンライン診療の初診での投与について十分な検討が必要な薬剤」等の関係学会が定める診療ガイドラインを参考に行うこと。ただし、初診の場合には以下の処方は行わないこと。
- ・麻薬および向精神薬の処方
- ・基礎疾患等の情報が把握できていない患者に対する、特に安全管理が必要な薬品(診療報酬における薬剤管理指導料の「1」の対象となる薬剤)の処方
- ・基礎疾患等の情報が把握できていない患者に対する8日分以上の処方
改訂指針を踏まえて令和4年度診療報酬改定でオンライン診療の見直し
改訂指針を踏まえて、令和4年度診療報酬改定では、オンライン診療に関する診療報酬体系が整備された。オンライン診療については「情報通信器を用いた場合」との表記で、初診からの実施について次のように診療報酬を新設している。そこでの初診料は、コロナ特例として実施されている電話診療・オンライン診療での初診料(214点)と本来の対面での初診料(288点)のちょうど中間に当たる点数設定になっている。
- 初診料(情報通信機器を用いた場合) 251 点
- 再診料(情報通信機器を用いた場合) 73 点
- 外来診療料(情報通信機器を用いた場合) 73 点
それらについては、施設基準に適合しているものとして地方厚生局長等に届け出たうえで、改訂指針に沿って診療を行った場合に算定することになる。また、改訂指針で示されている日本医学会連合が作成した「オンライン診療の初診に適さない症状」等を踏まえて、適切な診療を実施したことを、診療録と診療報酬明細書の摘要欄に記載する。
併せて、情報通信機器を用いたオンライン診療としての医学管理等(医学管理料)について評価の見直しを行い、対象とする医学管理料を拡大している。
また、新型コロナウイルス感染症の流行が続いている状況を踏まえて、厚労省保険局医療課は令和4年3月4日、都道府県などに対して「新型コロナウイルス感染症に係る診療報酬上の臨時的な取扱いについて(その67)」の事務連絡を行い、コロナ特例として実施されている初診からの電話診療について、令和4年度診療報酬改定が施行される4月1日からもコロナ特例による214点を引き続き算定しても差し支えない、としている。これにより、同年4月以降も当面、改訂指針の全面的な施行には至らないという状況が続くことになる。
なお、改訂指針は自由診療にも適用されることになっているが、保険診療ではないので制度的に十分なチェックができないため、そこから不適切な処方などが行われる恐れもあり、社会保障審議会医療部会(前述)では、厚労省ほか消費者庁などが自由診療について十分に監視するように、との意見が出されている。