臨床研究法施行5年後の見直しに係る検討の中間取りまとめを公表
革新的な医薬品等の研究開発の推進、研究の信頼性確保が主要テーマに
2022.02.01
厚生労働省(厚労省)は令和3年12月13日、厚生科学審議会臨床研究部会での議論の中間的整理として、「臨床研究法施行5年後の見直しに係る検討の中間取りまとめ」を公表した。同中間取りまとめでは、臨床研究法の施行の状況、臨床研究を取り巻く状況の変化などを踏まえて、①革新的な医薬品等の研究開発の推進、②研究の信頼性確保――を主要なテーマとして、基本的な考え方と今後の方向性について整理している。特に、臨床研究審査委員会の更新要件については、大きな見直しの方向性が示された。
ポイント
- 臨床研究法で特定臨床研究を定義。一方、治験については薬機法が適用
- 適応外使用の臨床研究はリスクによって特定臨床研究から除外の方向で見直しへ
- 研究の本質に関わらないような軽微な変更については手続き不要へ
- 臨床研究審査委員会については当面、審議件数などの更新要件を見直しへ
臨床研究法で特定臨床研究を制度化
厚生科学審議会臨床研究部会(以下、臨床研究部会)が今回の「臨床研究法施行5年後の見直しに係る検討の中間取りまとめ」(以下、中間取りまとめ)において議論の対象とした臨床研究法は、平成29年の通常国会で成立、同年4月14日に公布、同30年4月1日に施行されている。
その審議を行った参議院・厚生労働委員会で平成29年4月4日、厚生労働大臣が臨床研究法(案)を提出した理由について、次のように説明した。「臨床研究については、データ改ざん、対象者の同意の取得の不備、個人情報の漏えい等の不適正事案が発生し、欧米諸国と比較し規制が不十分であること、行政機関が十分な監督権限を持っていないこと等の問題が指摘された。こうした状況を踏まえ、臨床研究を実施する場合の必要な手続、臨床研究に関する資金の提供に関する情報の公表の制度等を定めることで、臨床研究の対象者をはじめとする国民の臨床研究に対する信頼の確保を図ることを通じて、臨床研究の実施を推進することで、保健衛生の向上に寄与することを目的として、臨床研究法案を提出した」
併せて、臨床研究法(案)の趣旨として、次の点を挙げた。
①医薬品等の臨床研究のうち、特に臨床研究の対象者の生命、身体へのリスクが高い未承認または適応外の医薬品等を用いる臨床研究、医薬品等の製造販売業者等から資金の提供を受けて実施する臨床研究(特定臨床研究)について、その実施に関する手続等を定める。具体的には、厚生労働大臣が定める実施基準に従って実施しなければならないこととする。また、研究実施計画を厚生労働大臣に提出しなければならないこととする。
②それらの臨床研究の実施に起因するものと疑われる重篤な疾病等が発生した場合には、厚生労働大臣に報告しなければならないこととする。さらに、これらに違反する場合には、厚生労働大臣が改善命令や研究の停止命令等を行うことができることとしている。
③臨床研究の信頼の確保を図るため、医薬品等の製造販売業者等の臨床研究に関する資金の提供に関する情報の公表の制度等を定めることとしている。
臨床研究法では、その①に相当する臨床研究を特定臨床研究と定義した。具体的には、未承認・適応外の医薬品等の臨床研究、あるいは製薬企業等から資金提供を受けた医薬品等の臨床研究を特定臨床研究とし、臨床研究法を適用する。一方、治験(医薬品等の承認申請を目的とした臨床試験)については薬機法が適用される。
また、臨床研究法附則第2条第2項で「政府は、この法律の施行後5年以内に、この法律の施行の状況、臨床研究を取り巻く状況の変化等を勘案し、この法律の規定に検討を加え、必要があると認めるときは、その結果に基づいて所要の措置を講ずるものとする」(以下、法施行5年後の見直し)と規定している。
特別研究班を設置し、臨床研究法施行5年後の見直しに向けて検討
厚労省では、法施行5年後の見直しを念頭に、特別研究班を設置し、平成2年度の厚生労働科学特別研究事業として「臨床研究を取り巻く状況を勘案した臨床研究法の法改正も含めた対応策の検討」に取り組んだ。また、臨床研究部会では令和3年3月以降、法施行5年後の見直しに関して、同研究班も含めて関係者からヒアリングを行った。それを踏まえて、臨床研究部会では「革新的な医薬品等の研究開発の推進」、「研究の信頼性確保」の2つをテーマとして、それぞれについて次のような論点で議論を進めた。
【革新的な医薬品等の研究開発の推進】
・研究全体の責任主体(Sponsor)概念
・臨床研究で得られた情報の薬事申請における利活用
・いわゆる観察研究に関する臨床研究法の適用範囲
・疾病等報告の取扱い
・適応外薬に関する特定臨床研究の適用範囲
・医療機器に関する臨床研究の適用範囲
・届出・変更手続きの合理化、届出提出のオンライン化
・利益相反申告手続きの適正化
【研究の信頼性確保】
・利益相反申告手続きの適正化(再掲)
・研究資金等の提供に関する情報公表の範囲
・重大な不適合の取扱い
・臨床研究審査委員会(CRB:Certified Review Board)の認定要件
臨床研究部会では、それらの論点について一通り議論し、中間取りまとめを行った。その構成は下表のとおりである。
臨床研究法施行5年後の見直しに係る検討の中間取りまとめ
- Ⅰ はじめに
- Ⅱ 基本的な考え方
- Ⅲ 各検討項目について
- 革新的な医薬品等の研究開発の推進
- 1.臨床研究実施体制の国際整合性
- (1) 研究全体の責任主体(Sponsor)概念について
- (2) 特定臨床研究で得られた情報の薬事申請における利活用について
- (3) いわゆる観察研究に関する臨床研究法の適用範囲について
- (4) 疾病等報告の取扱いについて
- 2.研究の法への該当性の明確化
- (1) 適応外使用に関する特定臨床研究の対象範囲について
- (2) 医療機器に関する臨床研究法の適用範囲について
- 3.手続の合理化
- (1) 届出・変更手続の合理化、届出のオンライン化について
- (2) 利益相反申告手続の適正化について
- 研究の信頼性確保
- 1.透明性の確保
- (1) 利益相反申告手続の適正化について(再掲)
- (2) 研究資金等の提供に関する情報公表の範囲について
- (3) 重大な不適合の取扱いについて
- 2.研究の質の確保
- (1) 臨床研究審査委員会の認定要件について
- Ⅳ おわりに
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検査の侵襲が大きくないような観察研究は臨床研究の定義から除外へ
中間取りまとめでは最初に、①臨床研究実施体制の国際整合性、②臨床研究法への該当性、③手続きの合理化、④透明性の確保、⑤研究の質の確保――について、基本的な考え方を整理している。そのうえで、主要な検討項目について考え方の方向を整理した。
まず、臨床研究実施体制の国際整合性の検討が必要とされる背景として、新型コロナウイルス感染症の流行等を契機に新しい治療法を世界同時に適用できることの重要性が認識された、といった新たな状況がある。そのためにも、日本の治験・臨床研究の実施環境について国際整合性を向上させて研究を推進していく必要がある。それについての具体的な検討項目として、【革新的な医薬品等の研究開発の推進】の1. 臨床研究実施体制の国際整合性として(1)~(4)を挙げ、今後の対応の方向性を示した。
それらのうち(1)「研究全体の責任主体(Sponsor)概念」については、わが国において「スポンサー(Sponsor)」という用語から受けるイメージは欧米とは異なるので、その用語にこだわる必要はない、との意見もあった。それも踏まえて、今後の対応の方向性については、特に多施設共同研究において、「試験の計画・運営の責任を負うべき者」を定め、監査、モニタリング、疾病等報告等の判断を一元化する方向で見直しを進めるべきである、としている。
(3)「いわゆる観察研究に関する臨床研究法の適用範囲」が検討課題となる背景には、例えば治療行為に介入を伴わない観察研究について臨床研究法での取扱いが明確ではなく、研究の現場で混乱が生じている、という状況がある。これについては、研究対象者の保護の観点に留意し、国際整合性にも配慮しつつ、観察研究の定義と取扱いについて引き続き検討を進める。また、観察研究のうち、研究の目的で行われた検査の侵襲が大きい等、研究対象者の身体または精神に負担が大きい研究以外は、臨床研究の定義から除外すべきである、としている。
医療機器の適応外使用の臨床研究の位置づけは調査結果を踏まえて検討
2. 「研究の法への該当性の明確化」については、(1)「適応外使用」、(2)「適応外の医療機器の臨床研究」が検討項目として挙げられた。
適応外使用に関しては、臨床研究における医薬品等の用法・用量・効能・効果(以下、用法等)が承認された用法等と少しでも異なる場合、すべて特定臨床研究と定義される、という問題がある。例えば、それが学会の診療ガイドラインに掲載されている使用法であっても、あるいは承認された用法・用量よりも少量を投与する使用法(いわゆる減量プロトコル)であっても、一律に特定臨床研究の対象となる。特に、がんや小児領域ではそのような研究が多いだけに、結果として医療の向上を阻害している、という意見がある。このような適応外使用についての今後の対応の方向については、適応外医薬品等を使用する研究であっても、各種の情報に基づき、リスクが承認を受けた用法等と大きく変わらないことが明らかなものは特定臨床研究の範囲から除外する方向で見直しを進めるべきである、としている。
適応外の医療機器の臨床研究に関しては、医療機器には非侵襲・低侵襲なものが存在するが、これらも特定臨床研究の対象とされている。また、薬機法などではリスクに応じたクラス分類に基づき規制の内容を変えており、臨床研究法においても医療機器ごとのリスクに基づき取り扱うべきではないか、との指摘がある。それらを踏まえて、今後の対応の方向性については、当該医療機器が許認可を受けた際に分類されたリスク分類と同程度のリスクとみなせる場合について、医療機器の多様性も考慮し、研究の実態等を調査し、その調査結果に基づき引き続き方策を検討すべきである、とした。
届出などによる研究者の過重な負担を軽減へ
3.「手続きの合理化」では、合理化が必要とされる背景として、例えば国への実施計画の提出には、jRCT(臨床研究実施計画・研究概要公表システム)に入力・Web登録したものを印刷し、紙による届出を行うという制度になっていることが、挙げられる。また、例えば病院管理者の変更といったような研究の本質に関わらないような事項であっても変更が生じるたびに、CRBの意見を聴いたうえで国に届け出る必要があり、それが研究者にとって過重な負担となっている。
今後の対応の方向性として、現行制度で変更の届出が必要な事項のうち、「研究者の所属部署」、「管理者の許可の有無」等、研究の本質に関わらないような事項は「軽微な変更」とし、現行のような手続きは不要とする。また、届出事項としなくてもjRCT に掲載することで一般への情報公開ができる事項について整理し、実施計画の項目とjRCT への掲載項目を分離すべきである、とした。そのほか、別途取り組むべき事項として、届出におけるオンライン化を挙げている。
CRBの更新要件は、新規審議が3年間で6件以上・毎年1件以上かつ毎年7回以上開催
【研究の信頼性確保】の2.「研究の質の確保」では、CRBの認定要件が取り上げられた。
特定臨床研究を実施する者は、その実施計画による実施の適否について、厚生労働大臣の認定を受けたCRBの意見を聴いたうえで、同大臣に提出することが義務付けられている。CRBが認定されるには、委員構成等の体制、業務規程、その他の実施基準に適合する必要がある。また、認定の有効期間は3年で、その更新には、認定要件(上記)に加えて年11回以上の開催実績が要件となっている。
CRBの数に関して、令和3年7月29日に開催された第23回臨床研究部会で、厚労省は次のような趣旨の説明をしている。臨床研究法を制定するに当たっては、特定臨床研究が年間800件程度実施されることを見込んでいて、それだけの件数であれば臨床研究法施行までに全国で50程度のCRBがあればいいのではないかと考えていたが、現在、101のCRBが設置をされている。また現在、当初考えていた半分くらいの年間400を超える程度の特定臨床研究を実施していて、当初の想定より多くのCRBが設置されている状況になっている。
このように、特定臨床研究の実施件数と比べて多数のCRBが設置されていて、年11 回の開催が困難なCRBも存在する。また、認定要件は外形的なものが多く、審査基準・審査能力などにもばらつきがあり、必ずしも適切な審査がされていない場合がある、との指摘もある。
今後の対応の方向性について、当面、更新要件については、新規の審議件数は3年間で6件以上(ただし毎年1件以上)、かつ、開催回数については毎年7回以上とする。また、疾病等報告等、迅速に取り扱う議題がある場合には、要件に関わらず、迅速な開催を求めるべきである、としている。
なお、厚労省では「中間取りまとめ」を踏まえて、省令(臨床研究法施行規則)レベルの改正で対応できる研究手続きの合理化などについては令和4年4月1日施行を予定している。