「お薬手帳(電子版)の運用上の留意事項について」の一部改正で通知
マイナポータルで薬剤情報が閲覧できるようになったことに対応
2021.12.01
厚生労働省(厚労省)は令和3年10月25日、都道府県などに対して、「お薬手帳(電子版)の運用上の留意事項について」の一部改正についての通知を発出した。これは、同年10月20日からオンライン資格確認の本格運用が始まるとともに、そのインフラを活用して翌21日からはマイナポータルで薬剤情報なども閲覧できるようになったことを踏まえて、いわゆる電子お薬手帳でマイナポータルの情報を活用する際の留意事項について通知したものである。現時点では、マイナポータルで得られる薬剤情報は限られており、そこでの情報だけでは電子お薬手帳とは認められない、としている。
ポイント
- データ移行の際に留意すべき電子お薬手帳の必須データ項目を明示
- 必須データ項目への対応が足りないため、マイナポータルから得られる薬剤情報だけでは電子お薬手帳として認められない
- マイナポータルから取り込んだ薬剤情報と薬局等から提供された情報の両者をわかりやすく区別して表示を
スマホの普及で電子お薬手帳の利用者が増加
オンライン資格確認のインフラを使って、令和3年10月21日から、マイナンバーカードを持っている者であれば、政府が運営するオンラインサービスであるマイナポータルにおいて、薬剤情報や特定健診等情報の閲覧ができるようになった。この薬剤情報は医科・歯科・調剤・DPCの電子レセプトに基づくものであり、同年10月21日の時点では同年9月診療分が閲覧できる。これ以後、3年分の薬剤情報が閲覧できるようになる。
実際に薬剤情報としてマイナポータルで閲覧できるのは、調剤年月日、病院・薬局名、使用区分、医薬品名、用法、用量、調剤数量である。また、ジェネリック医薬品が存在する医薬品の場合、削減可能額も表示される。
一方、スマートフォン(スマホ)の普及の急拡大とともに、スマホに電子お薬手帳アプリをダウンロードし、電子お薬手帳として使う人が増えている。この場合、薬剤に関する情報は薬局からQRコードの形で提供され、それをスマホ側(患者側)が読み取ることで自動的に記録ができるので、薬局側、患者側双方に「手書き」の必要がなくなる。また、医療機関で受け取った処方箋をスマホで撮影し、その画像を薬局側に送信する機能もあり、これにより薬局での待ち時間が節約できるなど、電子お薬手帳のメリットは多い。
マイナポータルで得られる薬剤情報は電子レセプトに基づくもの
お薬手帳は、もともとは紙版として利活用されていた。しかし、電子お薬手帳が登場したことから、厚労省では平成27年11月27日、「お薬手帳(電子版)の運用上の留意事項について」の通知(以下、旧通知)を発出している。
令和3年10月21日からはマイナポータルで薬剤情報が閲覧できるようになったが、これにより、電子お薬手帳に関しても新たな状況が生じた。例えば、PHR(パーソナルヘルスレコード)の民間事業者(以下、民間PHRサービス)が利用者の了解のもと、API(Application Programming Interface)連携という方法でマイナポータルから薬剤情報を取得し、これを電子お薬手帳に反映させることも、技術的に可能となった。ただし、マイナポータルで得られる薬剤情報は電子レセプトに基づくもので、情報としては限られる(前述)。また、最新の電子レセプトにおける情報が反映されたとしても、時間的には1カ月ほど前の情報となる。
そのようなマイナポータルでの薬剤情報の状況を踏まえて、厚労省は10月25日、留意事項通知を改正する通知(以下、改正通知)を発出した。改正通知の構成は旧通知と基本的に同じだが、そこに新たな注意点などを追加した形になっている。(下表)
改正通知の構成
- 第一 お薬手帳の意義及び役割
- 第二 提供薬局等が留意すべき事項
- 1 薬剤師等による利用者への説明
- 2 お薬手帳サービスの集約
- 3 データの提供方法
- 4 データの閲覧・書込
- 5 お薬手帳サービスの選択及びデータの移行
- 第三 運営事業者等が留意すべき事項
- 1 全般的事項
- 2 データ項目
- 3 データの提供
- 4 データの閲覧
- 5 データの移行
- 6 個人情報保護
- 7 関連サービスについて
- 8 本通知の遵守について
- 第四 その他
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(別紙1)お薬手帳(電子版)の必須データ項目(第二の5、第三の5におけるデータの移行を行おうとする際にお薬手帳サービスにデータが入っている場合は、必ず移行が必要な項目。) (別紙2)お薬手帳(電子版)の運用上の留意事項について チェックシート |
提供薬局等、運営事業者等の留意すべき事項を明記
改正通知の内容は、①提供薬局等(利用者にお薬手帳サービスを提供する、またはその情報を閲覧する薬局および医療機関等)が留意すべき事項、②運営事業者等(アプリケーション提供やデータを保存するサーバー管理などを運営する者)が留意すべき事項――に、大きく分かれる。②に当たるのは、日本薬剤師会、お薬手帳アプリを提供している大手薬局(薬局チェーン)やIT関係企業などである。
まず、提供薬局等が留意すべき事項において、マイナポータルで薬剤情報が閲覧できるようになり、マイナポータルAPI連携等により電子お薬手帳に薬剤情報を取り込むことが可能となるとしたうえで、次のような趣旨の対応を求めている。
マイナポータルの薬剤情報は薬局等が提供する情報を補完しうるため、電子お薬手帳に取り込むことが望ましい。一方で必要な情報が不足している場合があるため、電子お薬手帳に薬剤情報を取り込む場合においても、提供薬局等は利用者に対し、「調剤年月日」、「薬品情報」、「用法情報」、その他必要な情報を提供すること。
改正通知や旧通知では「お薬手帳サービスの選択及びデータの移行」という項目を設け、薬局側の事情によりお薬手帳サービス(紙、電子版)の選択が制限されないようにするとともに、電子版から紙のお薬手帳への変更の希望があった場合は紙への切り替えを適切に実施すること、としている。
また、その項目において、次のような趣旨の留意点を追加した。
マイナポータルから得られる薬剤情報については、改正通知や旧通知で示している「お薬手帳(電子版)の必須データ項目」に掲げるデータ項目をすべて満たすものではないことから、マイナポータルAPI連携による薬剤情報の取り込みのみが可能となっているアプリケーションはお薬手帳(電子版)としては認められないことに留意すること。
改正通知では、お薬手帳(電子版)の必須データ項目(データの移行を行おうとする際にお薬手帳サービスにデータが入っている場合は必ず移行が必要な項目)について、下表のようにまとめている。
お薬手帳(電子版)の必須データ項目
データ項目 (JAHIS電子版お薬手帳データフォーマットver2.4の項目を参考に記載) |
お薬手帳サービスの項目として最低限必要なもの |
患者の基本情報 |
氏名 |
個人情報の取扱いに留意し必要な項目を設けること |
性別 |
生年月日 |
〃 |
郵便番号 |
〃 |
住所 |
〃 |
電話番号 |
〃 |
緊急連絡先 |
〃 |
アレルギー歴 |
〃 |
副作用歴 |
〃 |
既往歴 |
〃 |
調剤情報(調剤ごと) |
処方年月日 |
処方年月日 |
|
調剤年月日 |
調剤年月日 |
○ |
調剤医療機関・薬局情報 |
名称 |
|
都道府県 |
|
郵便番号 |
|
住所 |
|
電話番号 |
|
医科/歯科/調剤の種別 |
|
医療機関/薬局コード |
|
調剤医師・薬剤師情報 |
氏名 |
|
連絡先 |
|
処方医療機関情報 |
名称 |
|
都道府県 |
|
医科/歯科/調剤の種別 |
|
医療機関コード |
|
薬品情報 |
処方番号 |
○ |
薬品名称 |
○ |
用量 |
○ |
単位名 |
○ |
薬品コード |
○ |
薬品補足情報 |
○ |
薬品服用の注意事項 |
○ |
用法情報 |
処方番号 |
○ |
用法名称 |
○ |
調剤数量 |
○ |
調剤単位 |
○ |
剤型の種別 |
○ |
用法コード |
○ |
処方服用注意事項 |
○ |
服用注意事項 |
○ |
服薬情報 |
服用中に気づいたこと |
○ |
残薬情報 |
医療機関・薬局が確認した患者の残薬の状況およびその理由 |
|
連絡・注意事項 |
利用者から医師・薬剤師への連絡事項 |
○ |
医師・薬剤師から利用者への連絡・注意事項 |
○ |
入院中の情報 |
入院中の副作用情報 |
入院中に副作用が発生した薬剤の名称、投与量、当該副作用の概要、措置、転帰 |
|
退院後に必要な情報 |
退院後の薬剤の服用等に関する必要な指導、服薬の状況及び投薬上の工夫に関する情報 |
|
要指導医薬品、一般用医薬品 |
服用履歴 |
服用年月日 |
○ |
薬品名称 |
○ |
かかりつけ薬剤師 |
かかりつけ薬剤師情報 |
患者のかかりつけ薬剤師の情報 |
|
手帳メモ |
※手帳全体についてのメモ欄 |
|
備考 |
※その他事項の記入欄 |
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記入者 |
※上記の各項目について、作成者が利用者か医療関係者かを区別するもの |
|
- (注1)購入履歴・服用履歴の項目は調剤情報と同様に時系列で把握できること。
- (注2)個々の利用者に一意の識別子(ID)を付与すること。また複数の識別子(ID)が発行された場合に一つにまとめることができること。
- (注3)利用者が秘匿したい情報(服用している医薬品を知られたくない場合など)をコントロールできるように、処方箋単位の調剤情報ごとに情報開示の可否を設定できるようにすることが望ましいこと。
- (注4)電子版ならではの特性として、医薬品に関する最新情報を医薬品コードに紐付けて更新していくことが可能だが、データの更新によりかえって混乱を生じさせることも危惧されるため、そのデータの提供方法を十分に検討すること。
- (注5)調剤医療機関・薬局情報及び調剤医師・薬剤師情報のデータ項目は、利用者に対し医薬品を提供した者に関する情報を入力する項目となっている。
- 出典:厚生労働省通知「お薬手帳(電子版)の運用上の留意事項について」(令和3年10月25日)
参照すべき法令、ガイドラインなども更新
改正通知では、運営事業者等が留意すべき事項での「全般的事項」において、薬剤情報は薬局等が提供する情報を補完しうるため、マイナポータルAPI連携により、お薬手帳(電子版)に取り込むことができるようにすることが望ましい、と追記した。
「データの提供」については、マイナポータルから得られる薬剤情報は「お薬手帳(電子版)の必須データ項目」(前述)に掲げるデータ項目を全て満たすものではないことから、マイナポータルAPI連携による薬剤情報の取り込みのみが可能となっているアプリケーションはお薬手帳(電子版)としては認められないことに留意すること、としている。
また、マイナポータルから取り込んだ薬剤情報と薬局等から提供された情報が重複し、利用者や医療関係者の混乱を招く恐れがあるので、両者をわかりやすく区別して表示するなど、電子お薬手帳での表示方法を工夫すること、としている。
なお、改正通知では、お薬手帳サービスに関して参照すべき法令、ガイドラインなども更新し、①個人情報保護法およびその関係法令、②医療情報を取り扱う情報システム・サービスの提供事業者における安全管理ガイドライン、③医療・介護関係事業者における個人情報の適切な取扱いのためのガイダンス、④医療情報システムの安全管理に関するガイドライン、⑤民間PHR事業者による健診等情報の取扱いに関する基本的指針――を挙げている。