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がん検診の「受診率向上施策ハンドブック」を作成
ナッジ理論を応用し、がん検診受診率の向上へ 2019.05.07健康・医療

厚生労働省(以下、厚労省)は2019年4月11日、がん検診対象者を主なターゲットとしたうえで、「受診率向上施策ハンドブック(第2版)」を作成、公表した。サブタイトルは「明日から使えるナッジ理論」。ナッジ(nudge)とは「ひじで軽く突く」などと訳されるが、同ハンドブック(第2版)では、対象者に選択の余地を残しながらも、より良い方向に誘導する手法を意味するという。がん検診対象者に対し、受診に至るきっかけを提供することを目的として、行動経済学のナッジ理論に基づいた好事例を紹介している。

ポイント

  • ナッジ理論は「人の行動は不合理」を前提とする
  • 選択の自由を阻害せず、より良い選択を行うよう工夫
  • 検診の受診勧奨・再勧奨、要精検の対象者などに応用

政府全体がナッジ理論を応用へ

厚労省は2016年2月、がん検診の受診率を向上させるため、その効果的な方法や好事例などをまとめた「今すぐできる 受診率向上施策ハンドブック」を作成し、市町村を対象としたセミナーなどを通して配布、普及させてきた。その改訂版となるのが今回の「受診率向上施策ハンドブック(第2版)」(以下、ハンドブック)で、ナッジ理論を取り入れているのが大きな特徴である。

厚労省が、健康寿命を伸ばすという大きな目的のもと、ナッジ理論を明確に意識し、それを施策に積極的に取り入れようとし始めたのは2018年になってからだが、これは政府全体の動きと軌を一にしている。例えば、政府が2018年6月に閣議決定した「経済財政運営と改革の基本方針2018」(骨太の方針2018)では、ナッジ理論に注目していて、「個人の選択の自由を阻害することなく、各自がより良い選択を行うよう、情報発信や選択肢の提示の方法を工夫するもので、政策分野においても応用されている」と説明している。

ハンドブックでは、ナッジ理論について「人の行動は不合理だ」という前提のもとに人間の行動をより良い方向へ導く一つの方向性を示すものであるとしている。2017年にセイラー教授がナッジ理論でノーベル経済学賞を受賞したことを皮切りに、実社会のさまざまなシーンで利用が始まっている。

簡単に、正しい行動を示して、タイムリーに

ハンドブックでの主要な項目は、ナッジ理論のフレームワークであるEAST(Easy、Attractive、Social、Timely)に対応させ、下表のとおり、各項目に対応した見出/キャッチフレーズが掲げられている。

簡単に、正しい行動を示して、タイムリーに

項目 見出/キャッチフレーズ
Easy
簡単に
  • "選ばなくていい"は、最強の選択肢
  • 明確な指示には素直に従う
Attractive
正しいインセンティブを
  • 得る喜びよりも、失う痛み
Social
正しい行動を示して
  • みんな気になる、みんなの行動
  • 約束は守りたくなるのが、人のさが
Timely
タイムリーに
  • 狙うのは、心の扉がひらく瞬間

それぞれの項目(上記)の要点は次のとおりである。

  1. (1)簡単に

    特定健診とがん検診の違いについて受診者は理解していない。特定健診を受ける際に当たり前のようにがん検診を受けてもらえば、がん検診の受診率は改善する。今までオプションのように見えていたがん検診を検診セットのように見せることで、申込時の「選択肢」をなくし、集団検診の予約を促進させる。福井県高浜町では、セット検診を実施するうえで、特定健診とがん検診を同日に実施できる総合検診としての体制を整えた。また、体制を見直し、特定健診の受診時間を平均約40分に収めることに成功した。

  2. (2)正しいインセンティブを

    大腸がんの発見には毎年のリピート受診が必要であり、東京都八王子市では、前年度の受診者に採便容器(検査キット)を送付し、受診を促していたが、送付対象者の受診率は約7割だった。その送付には費用もかかるので、ナッジ理論を用いた受診勧奨通知を開発した。まず、2016年において検査キットを送付したが同年10月時点で未受診の者をA・Bの2群に分け、Aグループ(1,761人)には「検診を受けてもらえれば、来年も検査キットを送ります」というように、利得があることを訴えるメッセージを付けた。一方、Bグループ(1,761人)には「受診しないと来年は検査キットは送付されなくなります」というように、損失回避に働きかけるメッセージを付けた。その結果、損失回避に訴えたBグループの受診率は29.9%で、Aグループよりも7.2ポイント高くなった。

  3. (3)正しい行動を示して

    人は社会の影響を受けながら生活していて、ネットよりも友達の口コミに大きく影響される。これは、自分の周囲の社会と同化したい意識があるためである。高知県高知市では、「近所の○○さんも健診にいっているのか」と感じてもらえる受診勧奨メッセージを作成し、受診率を改善している。例えば「○○町民の2人に1人が特定健診を受けています」というメッセージでは、自分が住んでいる地名が記載されているので、情報に対する興味・関心度が上がる。また、「2人に1人」の記載は、健診に行くことは一般的なことであるという印象を受ける。

    ある意向調査では、検診前には「受診する」としていた人のうち約20%は未受診となっている。この場合、「受診」に対する意向はあるので、「受診」の前の「予約」、その前の「予定」をイメージしてもらうことを目的に、受診日を決めてもらうようにする。そのような観点から、東京都立川市では、乳がん検診の再受診勧奨のために「受診計画カード」を作成した。これは、検診を受けましょうと訴えるのではなく、「計画カード」とすることで、受診のプランを立てることを訴求している。また、同カードに、検診を受ける場所、日時を記入してもらう。これで、自分に対する「約束」が完了したことになる。

  4. (4)タイムリーに

    東京都八王子市では、大腸がん検診で「要精密検査」の対象になったにもかかわらず約2割が精密検査を受けていなかった。その理由は「検査が大変そう」、「費用がかかりそう」など。一方、受診した人の多くは、家族、会社、医師など周囲の人から勧められたことがきっかけとなっていた。そこで、同市では、医師(かかりつけ医)から検診の結果を聞くタイミングで、かかりつけ医に「要精密検査」であることとともに精密検査の内容や必要性を説明してもらい、その場で精密検査の予約もしてもらう、という方法をとっている。

ソーシャルマーケティングの視点も含めて

これまで厚労省は、がん検診の受診率の向上策については同省の「がん検診のあり方に関する検討会」で検討してきた。2013年8月に取りまとめられた「がん検診のあり方に関する検討会中間報告書ーがん検診の精度管理・事業評価及び受診率向上施策のあり方についてー」では、ソーシャルマーケティングの手法を応用することについても提案している。ソーシャルマーケティングの目的は社会全体の利益向上であり、その実現のためには生活者のニーズを把握して的確なサービスを提供する必要がある。同検討会において、そのソーシャルマーケティングの手法について具体的に紹介・報告したのは、国立がん研究センターのスタッフである。

今回のハンドブックも、国立がん研究センターの保健社会学研究部が協力・監修を行っている。また、同ハンドブックの最終ページには大きな文字で「ソーシャルマーケティングやナッジ理論に基づくがん検診受診勧奨資材を提供しています by国立がん研究センター」と記載し、「ソーシャルマーケティングを活用したがん検診の普及プロジェクト」のURLなども掲載している。

狭義の「ナッジ理論」にこだわることなく、ソーシャルマーケティングも含めて、がん検診の受診率向上策について幅広い視点で検討することが望ましい、といえそうだ。