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地域包括ケアシステム 課題解決スクエア
有識者インタビュー

秋山正子
暮らしの保健室 室長
秋山正子 先生 Masako Akiyama
  • 1973年聖路加看護大学卒業
  • 実姉の末期がんの看取りを経験し、在宅ホスピスケアに出合い、1992年から東京都新宿区にて訪問看護を開始
  • 2011年、高齢化の進む同区の団地に“暮らしの保健室”を開設し、住民の健康や介護の相談に乗り、地域に根差した活動を行う
  • 2016年、江東区豊洲にがん相談支援センター“マギーズ東京”をオープンし、センター長を務める

訪問看護師は病院・患者さん・地域の意見をつなぎ、
新たな価値を創造する必要がある。

在宅療養支援における医療面で中心的な活躍をするのが訪問看護師です。地域には大小さまざまな訪問看護ステーションが存在し、在宅医、保険薬局の訪問薬剤師、ケアマネジャー、介護関係者などと連携しながら患者さんとご家族を支えていますが、地域包括ケアシステムの構築にあたっては解決しなければならない課題も多く存在しています。

訪問看護師の視点から、地域包括ケアシステムの構築には何が重要だとお考えでしょうか。

地域包括ケアシステムとは、在宅療養支援を要する患者さんはもちろんのこと、そのご家族および地域全体に必要なものです。在宅介護を経験したご家族が、後に地域の力となって循環していくような、“点が線になり、面となって拡大していく仕組み”が重要となります。そのため、地域包括ケアシステムの構築においてとくに重視すべき点は、“住民主体”であることです。患者さんや地域のニーズが吸い上げられ、下から上へと向かう“ボトムアップ型”の仕組みづくりが不可欠であると思います。
もちろん、自治体側が受け身であってはならず、地域に出向いて住民の声に耳を傾け、これを把握して具体化する必要がありますが、やはり重要なのは住民の声を地域包括ケアシステムにつなげることです。団塊の世代が高齢者となることで、自分がどんな治療を望み、地域の中でどう生きたいかなどの意見をはっきりと言う人が増えてくるはずです。そのような状況の中で、患者さんとそのご家族、そして地域全体をケアする役割を担う訪問看護師は、住民のニーズを吸い上げ、多職種および行政に結びつけることも可能であり、またその役割を求められている立場だと考えています。

地域包括ケアシステムを構築する上で、訪問看護ステーションおよび訪問看護師の果たすべき重要なポイントは何でしょうか。

【図1】訪問看護ステーション都道府県別事業者数(平成28年4月1日現在)
※東京都八王子市所管分除く
出典:厚生労働省「介護サービス施設・事業所調査(平成28年)」
地域包括ケアシステムにおいて、訪問看護ステーション(※図1・図2参照)は24時間・365日の体制が求められますが、実際には訪問看護師が各家庭にずっと張り付いていることなど不可能です。そのため、訪問看護師が行うべきことは、私たちが伺っていない時間も安心して暮らせる状態、仕組みをつくることだと考えます。
例えば、病院では高度な感染症対策ができますが、自宅でそれは不可能です。それならば、できる範囲の中でご家族と一緒に感染を防ぐ方法を考えていく姿勢が大切となります。患者さんが熱発を繰り返すならば、その原因を探り当てて排除する仕組みをつくるなど、セルフケアができる状態を構築するお手伝いをしていきます。
そうすることで、患者さんとご家族が一定のレベルにまで成長し、重篤な変化が起きる前に手を打つことにも役立ちます。穏やかな経過を辿るように導くことが私たち訪問看護師の役割であり、これが住み慣れた地域で最期まで暮らし続けられるという地域包括ケアシステムの構築へとつながっていくと思います。

【図2】指定訪問看護ステーション事業者数の推移(全国)
出典:厚生労働省「介護サービス施設・事業所調査(平成28年)」

訪問看護師という社会資源の確保やスキルの課題にはどのような取り組みがあるのでしょうか。

訪問看護ステーションはそれぞれの地域で大型化が進んでいます。“機能強化型訪問看護ステーション”の要件(※図3参照)を満たす大規模事業所が、ターミナルケアや24時間対応などを担う他、地域住民に対する情報提供や訪問看護師の教育機能を兼ね備えることを想定しています。訪問看護体制の強化につながる他、訪問看護師の休日の確保や教育の充実なども実現でき、地域包括ケアシステムの中で重要な役割を担うことが期待されています。
また、東京都の事業では、訪問看護に関心のある看護師を対象に、同行訪問や手技演習等の研修を行う教育ステーション事業を実施しています。訪問看護師の人材確保をめざすものですが、たとえ訪問看護ステーションに転職せず病院に勤務していても、病院と在宅をつなぐ視点を持つ人材の育成につながっています。在宅へ移行する際の情報共有の促進にも役立つでしょう。
現在、短い期間での退院調整が進められる中、病院としても患者さんをどうやって地域に戻せば良いのかという手掛りを摸索する状況で、自宅に戻りたいという患者さんの意思に反して高齢者介護施設に移さざるを得ないなどの事態も起きています。訪問看護師は、病院・患者さん・地域の意向をつなぐ役割も十分に担える存在であり、そのための教育や体制づくりは地域包括ケアシステムの構築に不可欠であると思います。

【図3】機能強化型訪問看護ステーションの要件
出典:厚生労働省中央社会保険医療協議会「診断報酬改定案件」を基に作成

訪問看護師のお立場から、多職種連携の課題はどのようなことだと思われますか。

ケアマネジャーとの連携はとくに重要だと考えます。在宅で訪問看護を入れた場合、予防的な役割を果たして患者さんの負担も軽くなり、またケアマネジャーも看護に関する学びが増え、良い結果をもたらします。しかし、訪問看護師との接点がないケアマネジャーは費用の関係から看護師ではなく、ヘルパーを選びがちです。多職種連携には訪問看護師の役割をケアマネージャーに認知してもらうことが不可欠であり、病院や介護スタッフ、行政担当者に対して各地区の訪問看護ステーション、訪問看護ステーション協議会などから情報発信することも重要ではないでしょうか。

地域包括ケアシステムの構築が進まない場合の打開策はあるのでしょうか。

やはり、地域包括ケアシステムがうまく機能している地域を参考にするのが良いでしょう。訪問看護ステーションが一事業所だけで取り組むには無理があるため、多方面と連携を持ち、不足している機能をお互いに補いながら新しい価値を生み出す方法を考えるべきです。
地域の訪問看護ステーション同士で連携を進めていくことも大切だと思います。訪問看護師は、例えば自身の妊娠出産や家族の問題などで人員不足に陥るケースもありますが、訪問看護ステーション同士の連携があれば、協力して補い合うことも可能です。
また、地域包括ケアシステムを構築するには、多職種で集まり、具体例を挙げての症例検討会などを行うことも大切です。今後はデイサービスなど、病院や自宅以外の場所で急変して救急搬送されるというケースも増加してくることが予想されます。そのような場合では多職種間でどのような連携が行われ、どのように判断が下されるのかなど、具体的な事例を通して検討を行い、情報をシェアすることが有効です。このような取り組みを繰り返すことで、地域包括ケアシステムの課題も洗い出され、多職種による検討会による顔の見える関係から連携のスムーズさも実現するはずです。

医師やケアマネジャー、介護従事者に向けたメッセージをお願いします。

地域包括ケアシステムは、けっして“他人事”ではないと認識することが必要だと思います。つまり、私たちは医療・介護従事者でありながら、1人の住民でもあり、その地域で暮らし続け、命を全うするには、何が必要かを“自分事”として考えることが求められます。そこから、医療・介護従事者として何ができて、何をめざすのかを考えていくことが、地域包括ケアシステム構築の第一歩となるのではないでしょうか。