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地域包括ケアシステム 課題解決スクエア
有識者インタビュー

鈴木順子
北里大学薬学部 薬学教育センター社会薬学部門 教授
鈴木順子 先生 Junko Suzuki
  • 社会人を経て1990年、北里大学薬学部入学、1994年同大卒業
  • 2000年、同大薬学教育研究センター学習支援部門の立ち上げに尽力
  • 2008年、同大社会薬学部教授に就任
  • 日本緩和医療薬学会理事、日本社会薬学会幹事、全国薬剤師・在宅療養支援連絡会監事、港区在宅緩和ケア支援 推進協議会委員 等を務める

薬剤師の本来業務を見つめ直して取り組むことが、
地域包括ケアシステムに“自然に入ること”につながる。

薬剤師は薬剤師法によって3つの業務が規定されています。しかし、現在、薬剤師が実際に行っている業務は調剤に大きく偏っています。本来、薬剤師法に規定された薬剤師の任務は、地域包括ケアシステムの理念にとても近いものです。それだけに、地域包括ケアシステムに参加するためには、薬剤師の本来業務を見つめ直し、改めてそれに取り組むことが大切となります。

薬剤師の視点から、地域包括ケアシステム構築における課題をどのようにお考えでしょうか。

地域包括ケアシステムは、少子超高齢社会において社会保障をどのように永続的なシステムとして構築するかをめざすものです。ただし、その議論は医療法、医療計画、地域医療構想という枠組みの中で進められてきたため、医療法に明確な根拠を持たない薬局は、その担い手として当初は想定されていませんでした。
一方で、薬局は医療提供施設であり、近年は“かかりつけ薬剤師”“健康サポート薬局”という形での制度誘導も進められ、薬剤師は地域包括ケアシステムにおいて大きな役割を果たすことが求められています。
この“制度上のねじれ”こそが、現状における薬剤師にとっての最大の課題、あるいは障壁であるように感じています。地域包括ケアシステムの担い手であるという認識が外部からも、自らも芽生えづらかったために参画が遅れました。どのような形で自らの専門性を活かせばよいのかということに戸惑いがまだ残っており、薬剤師は地域包括ケアシステム関連の会合にも及び腰になってしまっているという話をよく聞きます。
しかし、もはや“制度上のねじれ”を言い訳にしていられる段階ではありません。薬剤師は、自らの職務を全うするためにも、地域包括ケアシステムの中に“自然に入っていくこと”が求められています。同時に、制度としての地域包括ケアシステムにも、薬剤師を不可欠なものとして受け入れる意識転換が必要であると考えています。

【図1】健康サポート薬局になるために必要な要件
出典:日本薬剤師会「健康サポート薬局のあり方について」を基に作成

地域包括ケアシステムを構築する上で、薬剤師の果たすべき重要なポイントは何でしょうか。

最も重要なことは、「地域包括ケアシステムを構築するためには、薬剤師は変わらなければならない」などと考えないことです。“かかりつけ薬剤師”の制度化とともに、残薬確認の重要性がクローズアップされています。しかしそれは、元来果たすべき、薬剤師として当たり前の業務であり、地域包括ケアシステムを構築するために行うことではありません。

【図2】薬剤師の任務
鈴木氏コメントを参考に作成
薬剤師には、“調剤”“医薬品の供給”“その他薬事衛生”という3つの法定業務が規定されています。そして、それらの業務によって“公衆衛生の増進に寄与し、もって国民の健康な生活を確保する”というミッションも明示されています。しかしながら、薬剤師が実際に行う業務は調剤に極めて偏ってきました。その理由は、調剤業務のみに明確な保険点数が設定されており、一方で他の2つの業務内容があまりに曖昧だからなのだと思います。数字に反映される仕事は評価が容易なため、薬剤師はその枠から出ようとしません。しかし、数字にしか反映されない仕事のみで終わるなら、プロフェッション(※)と呼ぶことはできないでしょう。薬剤師法に規定された任務を全うするには、3つの業務を適切にフル活用することが不可欠です。地域住民の個別の生活に積極的にアプローチし、1人の患者さんをシームレスに支えるために薬剤師のプロフェッションを生かすという視点が必要です。そして、それこそが薬剤師の本来の仕事なのです。
ですから、地域包括ケアシステムへの参画がきっかけとなって、薬剤師が本来の業務を見つめ直すことが重要なのであって、地域包括ケアシステムへの参画が目的であるべきではありません。“自然に”という言葉を使ったのはそういう意味です。

※プロフェッション(Profession)とは、西欧社会でもともと聖職者・医師・弁護士の三大職種を指していたものが、その後、他のさまざまな職種にも用いられるようになった言葉。語源は、Profess(=神の前で告白する・誓う)で、「人のために尽くすよう天地神明に誓うことが求められる専門職」を意味する。

薬剤師の資源やスキルに関してはどのような課題があるとお考えですか。

資源という言葉ですが、“resource(資源)”ではなく“asset(財産)” と捉えるべきでしょう。この“asset”は、全体としての数や平均的なスキルの問題とは別に、量的にも質的にも偏りが生じている現状があります。
 例えば、薬剤師が充足している薬局もあれば、不足している薬局もあります。在宅医療を担うスキルを持つ薬剤師が充実している薬局もあれば、1人もいない薬局もあります。これを完全に解消し均てん化をめざすことは難しいでしょう。重要なことは、地域全体として充足する状態をつくることです。つまり、“薬局間でのバックアップ体制づくり”です。
かかりつけの患者さんが在宅に移行して訪問が必要になった時、それに対応できる薬剤師がいないのであれば、地域の他の薬局がサポートしてくれる体制をつくるしか方法はありません。地域医療を担う一員として患者さんのために何が『必要なのか』を最優先に考えれば、会社の利益を超えて、地域の薬局が連携することを考える時期に来ていると思います。
これは職種を超えた“asset”の課題解決にも共通すべき考え方だと思います。1人の患者さんに何が『必要か』を考え、各職種が自分たちの専門性を活かしつつ、時にはその枠を超え、隙間を埋めながら地域住民の生活を支えるという姿勢が重要なのではないでしょうか。
薬剤師としての根源的“asset”である「『薬学的管理・薬物療法』の引き出しを増やすこと」に加え、薬剤師の業務特性から「経済性に長けている」という強みを資源として活かしていけることが、多職種連携の場では期待されると思われます。

薬剤師のお立場から、多職種連携にはどのような課題があるとお考えですか。

患者さんに何が必要で、何ができるかを考える上で“多職種協働”はとても重要です。これを円滑に進めるには、2つの意味での情報共有が必要になります。
1つは、地域にどのような専門職が存在し、それぞれにどのようなことができるのか、それぞれがどのような人であるのかについての情報共有で、もう1つは、患者さんに関する情報共有です。前者では顔を合わせる機会を増やすことが重要です。後者ではITが有効なのも確かですが、それだけに頼ると伝わり方が平板になり、誤解や不足を招きやすくなるかもしれません。患者情報の共有においても、声で伝えること、顔を見て話すことをおろそかにすべきではないと思います。
また、薬剤師にとって特に重要なことは、“薬剤師発の多職種協働を推進する姿勢”です。現状の多職種協働において薬剤師は受動的です。医師との関係はもちろんですが、他の職種との協働においても受け身に過ぎるように感じます。しかし、薬剤師のプロフェッションは、医師も含めた他の職種に対して能動的にアプローチすべき特性を持っています。薬剤師は他の職種にはない、“モノ”と“情報”を持っています。
薬剤師は、既に地域の患者さんの情報を沢山持っているにも関わらずそれを分析できていません。地域の特徴を知り、患者さんの生活ニーズを知った上で、こうした情報を分析し、患者さんへのより良いサポートの実現に向けて具体的に提案することが大切です。


【図3】薬剤師が地域包括ケアを担うために・・・

◆地域の患者さん情報を分析
◆「薬学的知識」「分析された患者情報」「職能として長けた経済性」を活かしての多職種連携への参加
◆地域における薬局同士の連携の確立
鈴木氏コメントを参考に作成

薬剤師や多職種に向けたメッセージをお願いします。

たくさんの友達をつくってほしいですね。医師や他の職種、介護従事者、そして患者さんとも友達になり、一緒に飲みに行けるくらいの関係をつくることはとても重要だと思います。医療は協働作業であり、1つの職種だけが頑張って何かを変えていこうとしてもできるものではありません。他の職種と話すことで、薬剤師の視点からは見えなかったことを教えられることもあり、新たなアイディアが生まれることもあります。ぜひ友達をつくりましょう。