サイトマップお問合わせ

  • 新規会員登録
  • ログイン

地域包括ケアシステム 課題解決スクエア
有識者インタビュー

新田國夫
全国在宅療養支援診療所連絡会 会長
医療法人社団つくし会 理事長
新田 國夫 先生 Kunio Nitta
  • 1967年早稲田大学第一商学部卒業
  • 1979年帝京大学医学部卒業
  • 帝京大学医学部附属病院第一外科等を経て、1990年新田クリニック開業
  • 1992年医療法人社団つくし会設立
  • 1998年に通所リハビリテーション施設、2000年居宅支援事業所を開設
  • 2012年全国在宅療養支援診療所連絡会会長就任
  • 日本臨床倫理学会理事長、日本在宅ケアアライアンス議長
    はじめ役職多数

地域包括ケアシステムに求められるかかりつけ医機能には、
在宅医療も含めたトータルな診療が含まれる。

地域包括ケアシステムでは、開業医にかかりつけ医機能を発揮することが強く期待されています。超高齢者が増えていく中で、そのかかりつけ医機能では在宅医療にも取り組むことが不可欠になりますが、全国には実際に携わったことのない開業医が数多くいます。在宅医療に新たに取り組もうとする際に求められるのは、“治す”だけでなく“支える”という視点です。

在宅医療を担う開業医の視点から、地域包括ケアシステム構築における課題をどのようにお考えでしょうか。

現在、在宅医療に携わっている開業医には、“それを専門として100人以上の患者さんを訪問診療している医師”と“外来診療を行いながらかかりつけ医として訪問診療を行う医師”という2つのタイプがあります。問題は後者の数が圧倒的に少ないということです。全国にある約8万の診療所のうち、5万5千以上は在宅医療に関与していないことが実態として示されています。在宅医療に関する診療報酬点数が整備されてから20年以上が経過しました。それでも、在宅医療に携わる医師が十分に増えていないことには複合的な理由があるでしょう。
①自院の通常診療が忙しく、時間がない。
②24時間体制を確保することが難しい。
③訪問診療の知識やスキルが不足している。

多くの開業医が、総合診療医ではなく専門医として養成されてきたことも影響しているかもしれません。
しかし、“少子超高齢社会”に対応するために地域包括ケアシステムを構築する中で、強く求められているのはかかりつけ医機能を発揮することです。私たち地域で診療を行う医師には、かかりつけ医として地域社会に貢献することが求められています。そして、かかりつけ医機能は外来だけで果たすことはできません。病気やフレイル(frailty:高齢になることで筋力や精神面が衰える状態)あるいは閉じこもりなどを理由に通えなくなる患者さんが必ずいます。そうした患者さんに対しても責任を果たすことがかかりつけ医機能です。近年は、日本医師会が在宅医リーダー研修やかかりつけ医機能研修を展開し始めたことで、その環境は大きく変わってきました。

【図1】在宅医療の現状(診療所)
出典:医療施設調査(厚生労働省)第1回全国在宅医療会議参考資料2 在宅医療の現状より
出典:厚生労働省医療施設調査

地域包括ケアシステムを構築する上で、開業医が新たに在宅医療を始める際のポイントをお聞かせください。

これまで医師は“治す”ことに終始してきましたが、在宅医療では“治す”ことと同時に“生活を支える”ことが求められます。例えば、肺炎の治療において、患者さんを治して終わるのではなく、その後の生活を見据え、機能保持をめざす視点が重要になるのです。

【図2】多職種連携図
新田氏コメント参考によるイメージ図

【図3】在宅患者訪問診療の年齢階級別の構成比
第1回全国在宅医療会議参考資料2 在宅医療の現状より
出典:社会医療診療行為別調査(厚生労働省)
在宅医療の現場では、疾患以外にも患者さんとご家族の負担を増大させるさまざまな出来事と直面します。例えば、排泄の問題はご家族にとって最も大きな負担を生じさせています。排泄への対応は医師の専門性と無関係に見えるかもしれません。しかし、医師には適切にアセスメントする能力があり、それに基づいて介護につなげば、その分野のプロフェッショナルである多職種が適切に対応してくれます。その結果として、ご家族の負担を減らすことができるのです。“生活を支える”ということは、こうした視点を持つことです。
また、病院から在宅に移行する高齢者の多くは75歳以上です。その5分の1は“認知症”を持ち、さらに“がん”を患う人が増えています。こうした方への適切な医療については個別の判断が求められ、若年層に対する医療判断とは異なるものです。もちろん、その判断は医師1人で背負うのではなく、ご家族や多職種との話し合いで決めれば良いと考えます。ただ、そこには在宅医療に関わる医師と患者・家族と信頼関係を築き上げた上での倫理コンサルテーションも求められていることは理解しておくべきです。


在宅医療や地域包括ケアシステムに関する資源や財源の課題についてはどのようにお考えですか。

公的介護保険の保険料が8,000円まで上がれば、それ以上の負担を求めることは困難になります。財源はごく近い将来に限界を迎えますから、介護サービスを抑制しなければなりません。現在、要支援(1・2)の利用者さんには、介護予防・日常生活支援総合事業として給付されていますが、その中の掃除や洗濯などはヘルパーの手から地域住民の手に戻した方が良いと考えます。
これからは地域に“元気な高齢者”が増えていきます。彼らが地域で活躍することで、財源の問題だけでなく、生産人口が減少する中での資源の問題解決につながります。それが今後の介護予防・日常生活支援総合事業になると思います。一方、医療保険については、85歳以上の医療の在るべき姿について国民的なコンセンサスを形成することが急務だと考えます。

地域包括ケアシステムを担う医師のお立場から、多職種連携にはどのような課題があるとお考えですか。

病院や高齢者施設内では互いの顔が見え、人となりも理解していることから、その人には何ができ、何をやってくれるかを把握しやすいと思います。しかし、地域での多職種連携は所属も違えば、顔を合わせる機会も少なくなります。介護に携わる人の絶対数が増えたことで、その難しさは増しました。私自身、最近は一緒に働いている多職種の仕事の中身が見えにくくなったと感じています。同じ状態の患者さんに対し、同じような指示を出しているにもかかわらず、ヘルパーによってその対応が異なったりもします。
だからこそ、情報共有が重要になるのですが、本当に共有すべきことは、その患者さんに対して“何が必要か”という基本姿勢です。多職種連携は各職種が専門性を生かす“分業化”ですが、そこには必ず隙間があります。それが見落とされるならば“分断化”でしかありません。隙間をフォローするためにも、患者さんをチームによってトータルで診ることが必要で、その患者さんに“何が必要か”を共有することが不可欠です。
そして、この多職種連携のチームの中にご家族を加えることも重要だと考えます。どの専門職にもできないことがご家族にはできるということがあるからです。
また、今後は高いスキルと豊富な情報を持つ診療所の看護師も、在宅医療において重要な役割を果たしてくれると期待しています。

地域包括ケアシステムを構築する上での重要なポイントをお聞かせください。

地域包括ケアシステムについて地域住民の理解を促し、意識啓発を行うことが重要でしょう。地域住民一人ひとりが地域包括ケアシステムの理念を理解することで、各家庭でご家族が超高齢者になった時の“了解事項”をつくっておくことができるようになります。
その上で、要介護者が増える社会で誰が介護を担うのか、医療や介護の各職種は何を行うべきかが具体的に見えやすくなります。 
また、医療・介護提供者側の視点では、“この街にはどのような課題が有り、どう対応すべきかを協議会で議論し、見える化し実践した上で検証を行う”、いわゆるPDCAサイクルを回していく必要が有ることを理解すべきでしょう

医療や介護の従事者に向けたメッセージをお願いします。

私たちは歴史上初めての経験をしようとしています。他国にも例のない“少子超高齢社会”にあって、これまでの社会保障を支えてきた“公助”“共助”も限界を迎えました。これを乗り越える唯一の方法が地域包括ケアシステムの構築だと考えます。それは“共生社会”の構築とも言えます。
しかし、かつてのご近所付き合いに深く根差した“共生社会”を取り戻すことは不可能です。過去に戻るのではなく、これから“新しい社会”をつくるという意気込みで取り組んでいただきたいですね。