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Torch トーチ  Voice 全国の有識者との対話から

希少疾患のエキスパートに話を聞く
見逃されがちな血液の希少疾患
本態性血小板血症(essential
thrombocythemia:ET)を知る
桐戸 敬太 先生
きりと けいた
国立大学法人山梨大学 血液・腫瘍内科学講座 教授

本態性血小板血症とはどのような疾患なのでしょうか?

骨髄増殖性腫瘍の一つで、血小板が異常に増加する本態性血小板血症は、血栓症や出血性の合併症を発症しやすく、さらに骨髄線維症や急性白血病に移行することもある疾患です。この疾患は20代~30代くらいの若年女性にも小さいですが発症のピークがあることが特徴です。そのくらいの年齢の方で血小板増加がみられた場合、鉄欠乏性貧血に伴う反応性血小板増加と考えられてしまい見落とされるケースもあると思われます。しかし、そこで問題となるのが、本症の妊娠出産への影響です。本態性血小板血症の方が無治療で妊娠過程を進んでしまうとかなりの高率で流産・死産を引き起こしますので、こういう疾患をしっかり見つけ出す必要があります。実際に以前から健康診断で血小板増加を指摘されていたもののあまり重要視されておらず、流産を繰り返していた患者さんや30代で脳梗塞を発症してしまった患者さんもいます。

患者さんの困りごとにはどのようなものがあるのでしょうか?

地域によっては血液内科の医師が非常に少ないという専門医偏在の問題も関わってきますが、本態性血小板血症自体は直ちには生命に関わる疾患ではないことなどから、診察が短時間で終わってしまうという不満や、担当医が長期間に渡る薬物治療に伴って生じてくる副作用について詳細に伝えてくれないことへの不安などの意見が、私が医学顧問代表をしている「骨髄増殖性腫瘍患者・家族会」に寄せられています。また、医師の異動などにより途中で担当医が変わってしまうことによる長期的な診療フォローに対する不安をもたれている方も多いようです。骨髄線維症への移行を診るためには、脾臓の腫れや血液データの長期的な変化を捉える必要がありますが、担当医の交替により必ずしも継続的なフォローアップがなされていないのが現状だと思われます。
また、血液の希少疾患ではありますが、医療費助成の対象疾患ではありませんので、長期的な医療費負担も大きくなります。自覚症状がないことも多いのですが、倦怠感や頭痛、集中力の欠如などの症状を有する患者さんもいます。そのような患者さんでは、それらの症状によりそれまで通りの仕事内容を続けることが難しくなり離職せざるを得なくなる方もいます。経済状況が悪化する中での医療費負担でさらに苦労されることになりますので、職場の理解が向上するよう医師も患者さんと一緒に考えていくことが大事だと思います。

本態性血小板血症の診療を取り巻く課題としてどのようなことがあげられますか?

血小板数100万/μLなど血小板増加が著しい場合には、すぐに血液内科にご紹介いただくことも多いのですが、45万/μLくらいであれば、上限値を少し超えたくらいと捉えて様子をみてしまうこともあると思われます。しかし、WHOの診断基準では、血小板数45万/μL 以上が一つの基準になっていますので、血小板の増加を軽視しないこと、見逃さないことが非常に重要です。さらに、治療においても医師は血液の状態を保って血栓症の発症を予防することが治療の目標としがちですが、患者さんは倦怠感や頭痛、集中力の欠如など様々な症状を抱えており、それらの症状の改善も望んでいます。つまり医者側が考えている治療のゴールと患者さんが考えている治療のゴールには乖離があるといえます。骨髄線維症や急性白血病に移行するかもしれない、血栓症を引き起こすかもしれないという不安だけでなく、患者さんは様々な症状を抱えているということを認識した上で診療にあたることが重要だと考えています。

(2021年8月取材)