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Torch トーチ  Voice 全国の有識者との対話から

希少疾患のエキスパートに話を聞く
希少疾患の早期診断と診断率の向上に
向けて、いま私たちができることを考える
家子正裕 先生
岩手県立中部病院 医療局参与兼臨床検査科長
いえこ
まさひろ
岩手県立中部病院医療局参与兼臨床検査科長。専門領域は血液内科(血栓止血学)。後天性血友病などの希少疾患の診療にも詳しい。日本血液学会血液専門医。
希少疾患の早期診断の課題

希少疾患を巡る課題の一つに「発症から診断までに長期間を要する」という問題が指摘されています。なぜ希少疾患の早期診断は難しいのでしょうか。

理由の一つは、希少疾患の認知度が低く、医療者が希少疾患について学ぶ場面が少ないことです。希少疾患は患者数が5万人未満と定義されますが、患者数が少ないため臨床医の多くが希少疾患を診療する機会はないと思いがちです。しかし実際は、患者さんは多彩な臨床症状を認め様々な診療科を受診しています。また、患者さん自身も希少疾患に詳しいわけではなく、たとえ現在の治療で症状が適切に改善していなくとも、「まだ大きな問題は起きていない」という理由から現在の診断を疑わず、同じ治療で我慢している事例も多いと考えられます。さらに患者さんが主治医に症状を十分説明できなかったり、これ以上の診療を諦めている場合もあり、これも早期診断を難しくさせているといえます。

遺伝性血管性浮腫(HAE)診断の遅れ
  • 欧州の研究によると、診断の遅れは平均8~16年であるが1~5、50年超の遅れも報告されている2,4,5
  • 国内の研究によると、初期症状の出現から診断までの平均期間は13.8年、範囲0~58年と報告されている6
  • HAE患者を対象とした国際調査(米国、英国、フランス、ドイツ、オランダの患者を含む)によると7
    • 診断が確定されるまでに平均8.3年にわたって平均4.4人の医師を受診していた。
    • 65%は当初から誤診されており、誤診例として最も多かったのはアレルギー/アレルギー反応(38%)または虫垂炎(17%)
      であった。
HAEの診断・治療の典型的な流れ
  • 1. Caballero T, et al. Allergy Asthma Proc. 2014; 35 (1): 47-53.
  • 2. Bygum A. Br J Dermatol. 2009; 161 (5): 1153-1158.
  • 3. Roche O, et al. Ann Allergy Asthma Immunol. 2005; 94 (4): 498-503.
  • 4. Zanichelli A, et al. Allergy Asthma Clin Immunol. 2013; 9 (1): 29.
  • 5. Jolles S, et al. Clin Exp Immunol. 2014; 175 (1): 59-67.
  • 6. Ohsawa I, et al. Ann Allergy Asthma Immunol. 2015; 114 (6): 492-498.
  • 7. Lunn ML, et al. Ann Allergy Asthma Immunol. 2010; 104 (3): 211-214.
希少疾患の診断率向上に向けて

早期診断の実現に向けては、どのような対策が必要でしょうか。

まずは、希少疾患の認知向上が不可欠です。私も機会があれば希少疾患について話をしています。大切なことは、希少疾患の多くはありふれた症状であり、患者さんが訪問する診療科は多岐にわたるという点です。話をお聞きになられた先生の中には、過去に同様の症状を訴える患者さんを診療した経験のある方もいるでしょう。過去に希少疾患の患者さんと遭遇していたかもしれない、あるいはこれから診療する可能性があるかもしれないと知ると、熱心に話を聞いてくださいます。より多くの医療者が希少疾患の存在を知れば、早期診断も可能になるはずです。さらに、専門医が少ない地方では、診療ネットワークの存在も重要です。希少疾患の中には、専門医でなければ治療に難儀する場合もあります。現在の治療では奏功しない、副作用で治療が継続できないといった問題が生じた時には、専門家がチームを組み、責任をもって解決策を提示できる体制があることは、すべての医療者にとって非常に心強いことといえます。

希少疾患の患者さんが受診する診療科(遺伝性血管性浮腫の場合)
早期診断には関係者の協力が不可欠

希少疾患の早期診断の実現に向けて、メッセージをお願い致します。

私たち医療者には、未診断の患者さんを1人でも減らす責務があります。もちろん、悪性腫瘍のように患者数が多く、致命的な転帰をたどる疾患の早期診断も非常に重要です。しかし希少疾患の中にも、後天性血友病やHAEなど、患者の数こそ少ないものの、診断の遅れが命にかかわる疾患があります。早期診断の実現には、医療者同士の連携も重要です。まずは医療者が希少疾患を知り、希少疾患が疑わしい患者さんの存在に気づき、適切に専門医に紹介する。専門医につながれば、正確な診断も可能です。どんな疾患も、命の重さに変わりはありません。多くの医療者の方々に、知識習得の機会を逃さず、希少疾患の診療にも関心を寄せてほしいと期待しています。

(2021年5月取材)