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Torch トーチ  Voice 全国の有識者との対話から

日本の希少疾患の課題解決に向けて
スティグマの解消に、
当事者の視点を活かす
熊谷晋一郎 先生
東京大学先端科学技術研究センター 准教授
くまがや
しんいちろう
1977年生まれ。新生児仮死の後遺症で脳性まひに。東京大学医学部医学科を卒業後、小児科勤務、研究生活を経て2015年より現職に。専門は小児科学、当事者研究、発達障害。

希少疾患の患者さんは、疾患に対する周囲の誤解や偏見から、様々なスティグマを経験します。スティグマは、社会生活だけでなく精神的・身体的健康をも損なうことが報告されており、その解消方法として、当事者が自身の困難について研究する「当事者研究」が注目されています。本日は障害を持つ当事者である私自身の経験も交えながら、スティグマについて一緒に考えたいと思います。

私たち人間には、十人十色であるはずの人々を十把一絡じっぱひとからげに扱い、偏見や差別を行う認知や行動の癖があり、これらを総称してスティグマといいます。身体的な特徴だけを取り上げてカテゴライズしたり、その集団に対してネガティブなレッテルを貼り、彼らに同化的・差別的な言動を向けたりします。一般には他者から向けられるスティグマがよく知られますが、困難を抱える当事者が自らを貶めてしまう「自己スティグマ」も、本人のウェルビーイングを大きく損なう問題です。

私自身、脳性まひのために生まれつき障害があります。この障害のために、研修医時代は様々なスティグマを経験しました。乳幼児の採血では、同僚と同じような確率で失敗しても、私の失敗は重く受け止められ、患児の保護者から「担当医を変えてほしい」とクレームをいただくことがしばしばありました。障害を持つ自分が医師を目指すせいで、周囲に迷惑をかけているのではないかという、自己スティグマにも陥りました。自己スティグマから抜け出すための有効な対処のひとつは、理解ある他者と一緒に自己の価値を取り戻し、他者の評価から自由になることです。私の場合も、誰も万能でないことを受け入れる風土が勤務先にあったことで、自分の障害を特性のひとつとして受け入れられるようになり、自己スティグマから抜け出せました。そもそも、医療は医師1人で行うものではありません。周囲の人々とのチームプレイのおかげで、私は今も小児科医を続けられています。

私は今、スティグマの当事者が自らの困難について研究する「当事者研究」が、スティグマを改善し、さらに人々のウェルビーイングやパフォーマンスを高めるのに有効な手段になるかを検証する研究に取り組んでいます。マイノリティもマジョリティも、誰もが弱さを抱える中で、弱さを隠さず語り合い、より良い方法を一緒に研究する姿勢こそ、スティグマに対するソリューションになるのではないでしょうか。