
知っておきたいうつ病評価尺度
うつ病に関する評価尺度を紹介します。日常診療から論文読解まで、幅広く活用できる評価尺度をまとめました。
QIDS-J1)
簡易抑うつ症状尺度(Quick Inventory of Depressive Symptomatology:QIDS-J)は、16項目からなる自己記入式の評価尺度で、DSM-IV の大うつ病性障害の診断基準に対応しているという特徴があります(図1)。
図1:QIDS-Jによるうつ病評価方法
各評価項目の評価
下記16項目について、0〜3点の4段階で評価
❶ 寝つき |
❷ 夜間の睡眠 |
❸ 早く目が覚めすぎる |
❹ 眠りすぎる |
❺ 悲しい気持ち |
❻ 食欲低下 |
❼ 食欲増進 |
❽ 体重減少(最近2週間で) |
❾ 体重増加(最近2週間で) |
❿ 集中力/決断 |
⓫ 自分についての見方 |
⓬ 死や自殺についての考え |
⓭ 一般的な興味 |
⓮ エネルギーのレベル |
⓯ 動きが遅くなった気がする |
⓰ 落ち着かない |
睡眠(①〜④)
食欲や体重(⑥〜⑨)
精神運動(⑮〜⑯)
に関する項目は、それぞれ最も点数が高いものを1つだけ選んで加点する(最大9点)
⑤、⑩、⑪、⑫、⑬、⑭はそれぞれの点数を加点する(最大18点)
HAM-D17
ハミルトンうつ病評価尺度17(Hamilton Rating Scale for Depression 17:HAM-D17)は、すでにうつ病と診断された患者さんの重症度について、定量的な評価と経過観察に用いられる、17項目からなる評価尺度です(図2)2)。HAM-Dには、HAM-D21(21項目版)もあり、広く知られていますが、重症度ではなくうつ病のタイプをみる「日内変動」の1項目と、高い頻度では認められない「離人症」、「妄想症状」、「強迫症状」の3項目を除いた17項目版(HAM-D17)が、抗うつ薬の薬効評価に際して解析対象となることが多いとされています3)。
図2:HAM-D17によるうつ病評価方法
各評価項目の評価
❶ 抑うつ気分 |
❷ 罪業感 |
❸ 自殺 |
❹ 入眠障害 |
❺ 熟睡障害 |
❻ 早朝睡眠障害 |
❼ 仕事と趣味 |
❽ 精神運動抑制 |
❾ 激越 |
❿ 精神的不安 |
⓫ 身体についての不安 |
⓬ 消化器系の身体症状 |
⓭ 一般的な身体症状 |
⓮ 生殖器症状 |
⓯ 心気症 |
⓰ 体重減少 |
⓱ 病識 |
中根允文ほか 編:うつ病診療の要点-10, JCPTD, 2010より作図
MADRS4)
Montgomery-Åsberg うつ病評価尺度(Montgomery-Åsberg Depression Rating Scale:MADRS)は、抗うつ薬治療の新しいうつ病評価尺度として開発された、10項目からなる評価尺度です(図3)。MADRSは、うつ病の重症度変化を鋭敏に反映する症状評価項目が選ばれており、抗うつ薬の薬効比較において、抗うつ効果をより的確にとらえることができると考えられています。そのため、抗うつ薬の薬効評価などにおいて広く使用されている評価尺度の1つとなっています。
図3:MADRSによるうつ病評価方法
各評価項目の評価
❶ 外見に表出される悲しみ |
❷ 言葉で表現された悲しみ |
❸ 内的緊張 |
❹ 睡眠減少 |
❺ 食欲減退 |
❻ 集中困難 |
❼ 制止 |
❽ 感情を持てないこと |
❾ 悲観的思考 |
❿ 自殺思考 |
髙橋長秀ほか:臨床精神医学 44:354-358, 2015より作図
CGI-SおよびCGI-I5)
臨床全般印象度(Clinical Global Impression:CGI)は、治療効果を判定するために標準化された評価尺度です。3つのサブスケール、「重症度(CGI-S)」、「全般改善度(CGI-I)」、「治療の有用性」から構成されています。CGI-SおよびCGI-Iは、7つの評価区分を用いた自身の臨床経験に基づく評価です(図4)。極めて単純な評価であり、問診後の1~2分で評価が可能であることが特徴です。医師の経験に頼る部分が多いため、医師間における結果に差が生じやすいことがデメリットとしてあげられます。
図4:CGI-SおよびCGI-Iによる評価方法※
CGI-S(病気の重症度)の評価
あなたのこれまでの臨床経験を基に判断すると、評価対象患者は本疾患の患者のなかでどの程度重症ですか?
CGI-I(全般改善度)の評価
あなたの判断では、治療によって全般的にどの程度改善、あるいは悪化しましたか?この治療にとりかかる前の状態と比較してください。
藤本健一:日本臨牀 69(8):443-449, 2011より作図
※Early Clinical Drug Evaluation Unit版
SDS6)
シーハン障害尺度(Sheehan Disability Scale:SDS)は、機能障害を評価するために開発された、自己記入式の評価尺度です。SDSは、日常生活(仕事/学業、社会生活、家庭)の機能に関する3項目から構成されており、記入が容易である視覚アナログ尺度を採用していることが特徴です(図5)。
図5:SDSによる評価方法
各評価の評価
- ❶ 仕事*/学業
- 仕事や学業などにおける障害度
*仕事にはボランティア活動およびトレーニングを含む
- ❸ 家庭
- 家庭内および家庭的責任における障害度
- ❷ 社会生活
- 社会生活やレジャー活動における障害度
1)厚生労働省ホームページ(https://www.mhlw.go.jp/bunya/shougaihoken/kokoro/dl/02.pdf)(2019/10/03アクセス)
2)中根允文ほか 編:うつ病診療の要点-10, JCPTD, 2010
3)山本暢朋ほか:医学のあゆみ 219(13):911-916, 2006
4)髙橋長秀ほか:臨床精神医学 44:354-358, 2015
5)藤本健一:日本臨牀 69(8):443-449, 2011
6) Sheehan KH. et al.:International Clinical Psychopharmacology 23(2):70-83, 2008