うつ病患者さんの総数72.9万人(2014年)
厚生労働省による平成26年(2014年)の患者調査(傷病分類編)1)では、国内のうつ病患者さんの総数は推定72.9万人と報告されています1)。
また、厚生労働省は3年ごとに患者調査を実施しており、年々うつ病患者さんが増加していることが明らかになっています(図)1)。
図:うつ病の推定総患者数の推移
注:平成23年(2011年)は宮城県の石巻医療圏、気仙沼医療圏および福島県を除いた数値
厚生労働省:平成26年患者調査(傷病分類編)より作図
生涯罹患率5.7%(2013-2015年)
国内の2,450人を対象とした疫学調査において、DSM-Ⅳの診断基準を用いた場合、うつ病の生涯罹患率(有病率)は5.7%と報告されています2)。
これは、実に日本人の18人に1人以上が、一生のうちにうつ病を発症することを示しています。また、男女別のうつ病の生涯罹患率は男性は4.3%、女性は6.9%であり、生涯でうつ病を発症する割合は女性の方が高いことが示されています2)。
さらに本調査では、うつ病の12ヵ月罹患率が2.7%(男性2.2%、女性3.2%)、30日罹患率が0.3%(男性0.3%、女性0.2%)と報告されています2)。
図:うつ病の生涯罹患率
川上憲人(主任研究者):精神疾患の有病率等に関する大規模疫学調査研究:
世界精神保健日本調査セカンド総合研究報告書, 2016より作図
【対象・方法】
2013-2015 年までに、関東地方、東日本、西日本、関東地方補充調査の回答者2,450 人を対象に面接調査と自己記入式調査票による調査を行った。WHO 統合国際診断面接により精神障害を診断し、それぞれ生涯罹患率、12 ヵ月罹患率、30日罹患率を求めた。
抗うつ薬治療開始後6ヵ月における治療継続率は44.3%(2006~2007年)
カルテレビューを行い、抗うつ薬治療継続率を調査した結果、抗うつ薬治療開始後6ヵ月における治療継続率は44.3%と報告されています(図)3)。
また、本調査では、1、3、6ヵ月後までの治療継続率が、それぞれ72.8%、54.0%、44.3%であり、最も中断率が高い期間は、治療開始後1ヵ月間であることが示されました3)。うつ病では「急性期」で6~12週間、「継続治療期」で4~9ヵ月、「維持治療期」で1年以上の治療が必要である4)とされていることから、抗うつ薬による治療継続率の向上は、うつ病治療における重大な課題の1つであるといえます。
図:抗うつ薬による治療継続率
Sawada N, et al.:BMC Psychiatry, 9:2009. DOI: 10.1186/1471-244X-9-38より作図
【対象・方法】
2006年4月1日-2007年3月31日にかけて初来院したうつ病患者さん(ICD-10:F32またはF33)のうち、過去6ヵ月間に抗うつ薬による治療歴がなく、他の精神疾患または身体疾患がみられない患者さん367例を対象に後向きカルテレビュー調査を行い、6ヵ月間の治療継続率を求めた。
うつ病の重症度が高い患者さんでは、
低い患者さんと比べて仕事への障害度が1.57倍(2011年)
国内の労働者17,820人を対象にした調査において、うつ病の重症度をサブグループとした、うつ病による仕事への障害度が報告されています5)。本調査では、過去12ヵ月間でうつ病の既往歴がある患者さんのうち、うつ病が軽度(PHQ-9※1スコア<10点)の患者さんは仕事の障害度(WPAI※2)が33.0%であったのに対し、うつ病が中等度~重度(PHQ-9スコア≧10点)の患者さんでは51.9%であり、重症度が高い患者さんでは、低い患者さんと比べて仕事の障害度が1.57倍であることが明らかとなりました(図)5)。
また、過去12ヵ月間のうつ病の既往歴がない人で、PHQ-9スコアが低い人(<10点)は仕事の障害度が14.8%であるのに対して、PHQ-9スコアが高い人(≧10点)は33.3%でした。この結果は、うつ病と診断された経験がなくても、うつ病が疑われる人はそうでない人と比べて、仕事の障害度が高いことを示しています。
※1:Patient Health Questionnaire-9
※2:WPAI(Work Productivity and Activity Impairment questionnaire)におけるOverall Work impairment
図:仕事の障害度
平均値±信頼区間(共変量補正)
Asami Y, et al.:J Occup Environ Med, 57(1):105-110, 2015
【対象・方法】
17,820人の日本人労働者を対象に、インターネットを用いた横断研究を行った。対象者を「過去のうつ病の診断の有無」と「現在のうつ病重症度(PHQ-9スコアが<10点または≧10点)」で4群に分けた。仕事の障害度はWPAIを用いて評価した。
【解析計画】仕事の障害度における平均値および信頼区間は、リンク関数を用いた負の二項分布の一般化線形モデルを用いて導き、共変量による補正を行い、多変量解析を行った。(共変量:年齢、性別、婚姻、教育、家庭収入、BMI、喫煙、アルコール摂取、運動習慣、Charlson comorbidity index scores)
日本におけるうつ病による社会経済的損失は合計約2兆円(2005年)
日本における成人のうつ病による社会経済的損失は、合計約2兆円(2005年)であったことが報告されています6)。
その内訳は、外来費用や入院費用、薬剤費用などの直接費用が約1,800億円、欠勤や休業および生産性の低下による損失(罹病費用)が約9,200億円、患者さんの自殺による期待生涯賃金の消失(死亡費用)が約8,800億円であり、罹病費用と死亡費用を含めた間接費用が社会経済的損失の大半を占めていました。罹病費用に関しては、算出にあたり国内のデータが不足しているなどの限界によるバイアスの存在が否定できず、さらなる研究が必要であると考えられました。しかしながら、死亡費用に関しては自殺者数に左右されるため、効果的な自殺対策を講じることは喫緊の課題であるといえます。
図:日本のうつ病による社会経済的損失
直接費用:約1,800億円
外来費用、入院費用、薬剤費用が含まれる
間接費用
罹病費用:約9,200億円
Absenteeism(a)およびPresenteeism(b)による損失
死亡費用:約8,800億円
患者が平均余命を下回る年齢で自殺した場合に発生する費用(期待生涯賃金)
(a)Absenteeismによる損失:欠勤・休業することによる損失
(b)Presenteeismによる損失:健康が優れない状態での出勤による生産性の低下が原因の損失
Sado M, et al.:Psychiatry Clin Neurosci, 65(5):442-450, 2011より
【対象・方法】
WMH-J (World Mental Health Japan Survey)や患者調査などの公表されているデータベースおよび文献からデータを得て、直接費用(外来費用、入院費用、薬剤費用)および間接費用(罹病費用、死亡費用)を求めた。失業による損失は、推計に必要なデータが存在しなかったため除外した。
1) 厚生労働省:平成26年患者調査(傷病分類編)
2)川上憲人(主任研究者):精神疾患の有病率等に関する大規模疫学調査研究: 世界精神保健日本調査セカンド 総合研究報告書, 2016(http://wmhj2.jp/report/)(2019/10/03アクセス)
3)Sawada N, et al.:BMC Psychiatry, 9:2009. DOI: 10.1186/1471-244X-9-38
4)Kupfer DJ:J Clin Psychiatry, 52 Suppl:28-34, 1991
5)Asami Y, et al.:J Occup Environ Med, 57(1):105-110, 2015
6)Sado M, et al.:Psychiatry Clin Neurosci, 65(5):442-450, 2011