サイトマップお問合わせ

  • 新規会員登録
  • ログイン

「育てるべき特性」として寄り添う発達障害
五十嵐小児科 院長
今 公弥 先生

神経・発達専門外来を有する小児科クリニックで長年、発達障害診療に取り組まれている今公弥先生に、発達障害に対する見解や当事者支援に力点を置いた診療・支援のポイントなどを伺いました。
発達障害の「障害」の意味とは
うまくいかないことを「障害」と考えると、視覚障害などの身体障害や精神障害については理解しやすいのですが、発達障害を「発達そのものが障害されている」と考えるのは妥当ではないと感じます。発達には特性(発達上のくせ)に応じた多様なマイルストーンがあるためです。ただ、特性が周囲に理解されずに適切な援助がなされないまま、生活に障害が及ぶことはあります。このため、発達障害とは「生活の障害」が起き、社会生活上の困難が本人とその周囲に起きている状態だと考えています(図1)。
通常の疾患ならば、同じ診断名で重症度が同程度であれば、同じような症状を呈すると考えられます。しかし、発達障害(=生活の障害)は本人の発達特性のみならず、その児が生きている環境との関係やかかわりで生じる症状や問題が異なります。ですから、発達特性そのものを変えていくというよりは、どういう環境で生きていくかという部分を調整することが必須なのだと考えます。
環境調整を治療の軸として、そこに薬物治療を追加する場合もありますが、薬物治療だけで発達障害を治療できるとは思えません。その児らしく、生活の中で自身の持ち味を活かしながら生きていくためのお手伝いをすることが発達障害の診療・支援だと思うのです。
図1 発達障害のとらえ方
発達特性+生活の障害=発達障害
発達上のくせがなかなか理解されず、適切な援助や練習の工夫がうまくなされないことで、社会生活上の困難が、本人とその周囲に起きている状態
単なる「早期発見」というよりは、子育て支援を充実させ、生活障害への予防策が取られる中で「適正発見」するほうが望ましい(発見できなくても対応できるスキルの獲得)
生きる力を育てることが大切
今公弥先生ご提供資料より作成
早期発見を急ぐより特性の早期把握を
発達障害を発見する上では健康診査などが重要な機会になりますが、単純に早期発見すればいいかというとそうともいえないと考えています。小児科医として診療を続けていると、成長とともに発達特性が薄れ、適応力を身につけていった─というような症例も経験します。また、発達障害=生活の障害という立場に立つと、特性だけで診断していいのだろうかと思う部分もあります。発達特性が顕著で明らかに医学的な治療対象となる症例もあるので一概にはいえない部分もありますが、いずれにしても重要なことは、どのように介入するかという点だと思います。
発達特性をより早期に知ることができれば、うまくいきにくい部分の予想がつき、困り事が生じる前に対応できます。診断名に関心を向ける保護者が少なくないと感じますが、私は保護者に「発達障害を見つける技術よりも対応できる技術を持ちましょう」と伝えています。要するに子育ての技術です。
発達障害の診断は、その児のだめなところやできないことを見つけて集めていく作業という側面もあります。だめなところばかりに目を向けて、だめなところをなくしたらその児の中に何もなくなってしまうというような結末は誰も望んでいないはずです。まずは、苦手なことと同じくらいに得意なことにも目を向けて、その両面を公平に知ろうとすることが大切です。
発達特性がある児とのかかわり方
受診する子どもたちは、同じ失敗を繰り返していたり、保護者との関係が悪化していたりすることが少なくありません。ですから初診時にはできるだけ、「あなたは全然悪くない。やっていることが悪いのだからそれを変えればいい。すぐには立派にならないけれど、時間をかけて、将来のあなたを大事にしてほしい」というメッセージを伝えるようにしています。わかってくれる場合もあれば、そうでない場合もありますが、うまくいかない部分を自分自身が認識して、工夫したり、練習したりすれば、変わることができることを子どもたち自身に理解してほしいと思っています。
自分自身の得意なことと苦手なことを公平に知ることの重要性は、当事者本人にも伝えます。診察ではさらに、人の考え方は多様でそれを認め合うことが大切であること、周囲に協力を求めたり相談したりすることの重要性なども伝えるようにしています(図2)。
特に自閉スペクトラム症(ASD)の児では、他者の考え方を受け入れにくい傾向があるため、「私はあなたがそう考えることを認めるけれども、それならばあなたも別のことを考える人を認めないとね」と話します。また、逸脱行動を起こしそうな場合には、思いと行動を分けられるようにしてほしいと伝えます。
図2 発達特性のある児とのかかわり方のポイント
  • 自分の良さと苦手なことを公平に知ることの大切さを伝える
  • 相談することの大切さと同時に、相談することの心地よさを感じさせる
  • 多様性があることとそれが保証されることの大切さを伝える
  • 伝えるときに相手が感じ取れるように、伝え方を工夫する
今公弥先生ご提供資料より作成