サイトマップお問合わせ

  • 新規会員登録
  • ログイン

“common disease”として診る発達障害
安房地域医療センター 小児科 部長
市河 茂樹 先生

小児科診療の中で発達障害診療に取り組まれている市河茂樹先生に、小児科臨床における発達障害の位置づけや介入・診療のポイント、多職種連携の意義について伺いました。
「発達障害」のとらえ方
発達障害は、DSM-5では神経発達症群として6つの疾患群に分かれ、厳格な診断基準が示されていますが、とても幅の広い概念です、重症度も様々で、疾患として扱うのか、障害として扱うのか、ホモ・サピエンスが持つ多様性として扱うのか、ケースバイケースだと思いますが、発達障害という概念が加わることで、人柄や成育歴、精神疾患で説明がつかなかった部分が理解しやすくなると感じます。医学教育においても、1つのことに強いこだわりを持ったり、優先順位付けが難しかったりする学生や研修医に時折、出会います。発達障害の視点がないと当たり前のことができず、能力が低いと評価されますが、発達障害の視点を持つことで、視覚刺激を増やすなどの工夫ができます。発達障害という概念は、診断がつくかどうかにかかわらず、その人を理解したり、悩み事の相談に乗ったりする上で、とてもわかりやすい説明の方法・カテゴリーではないかと感じています。
小児において、発達障害は、頻度の面から考えても、気管支喘息や乳幼児期の食物アレルギーと同程度のcommonな存在だと思います。気管支喘息の診断も食物アレルギーの負荷試験も今では重症例を除けば、小児科診療所で行われるようになりました。単純に比較できない部分はありますが、発達障害は小児科医や精神科医なら誰でも扱う存在にシフトしつつある段階ではないかと思います。
発達障害診療が目指すもの
診療においては、本人が持っている力を十分に活かして生きていけることを最大の目標としています。二次的障害を起こすことなく社会人になり、納税者になってほしいという立場で診療を行っています。
初診が1~3歳の場合は家族と一緒に発達を見守り、10~12歳を過ぎて問題行動が目立つようになってからの場合は、まず問題解決を優先し、居場所を見つけて生き方を一緒に探していきます。中学生くらいになると徐々に本人主体の治療にシフトしていきます。従来は概ね15歳で成人科に紹介するスタンスをとってきましたが、最近は、本人が自らの特性をある程度理解し、人に助けを求めたり、こちらの話に耳を傾けたりできるようになった段階でご紹介するようにしています。時折、「親ばかり話している不思議な外来」というフレーズを耳にするように、治療の主体が本人でないまま移行しても紹介先の先生がお困りになると思うのです。本人が自分の問題に向き合えるようになる時期を考えると、移行のタイミングは高校生から20歳前後がふさわしいように感じます。
また、発達障害の治療─特に薬物治療を併用する場合─においては、治療ターゲットを明確にすることも必要です。発達障害治療は人生相談のような側面もありますが、やはり医療です。本人や保護者を含めた関係者が、どこに向かおうとしているのか認識を擦り合わせ、明確にすることが重要だと強く感じます。
介入のポイントと早期介入の意義
将来、困り事を抱える人を減らしていくためには、できるだけ早期の介入が望ましいと考えます。早期介入して保護者とともに成長を見守り、発達障害に該当しないと診断された場合は、その時点で診療を終えればいいのです。
幼いころからかかわることで、本人と医師との信頼関係が構築しやすくなる点も早期介入のメリットです。親と話さなくても医師とは話すという子もいます。医師を信頼して相談できることは、本人中心の治療に移行する上でも有用です。
ただ、保護者にニーズがない中での介入は、抵抗感を強めて受診を遅らせる原因になりかねませんので、「適時介入」であることも重要です。違和感のある部分を保護者に話したときに「私も気になっていました」という反応が返ってくると次につながりやすいですが、こうした反応があるのは3割程度と実感します。ニーズがない場合には、自然な会話の流れの中に「発達障害」というキーワードを入れて、「私は対応しますよ」というメッセージを送っておきます。実際に、1年後に相談に来られるケースも経験しています。
十分な診察なしに「大丈夫」と伝えることも受診を遅らせる原因になりかねないため、注意が必要です。「うちの子、大丈夫ですよね(発達障害ではないですよね)」という質問には「もう少し情報をください」と応えています。発達障害は幅の広い概念のため、話す相手との間で「発達障害」という言葉を同じ意味で使えているかにも留意する必要があります。