サイトマップお問合わせ

  • 新規会員登録
  • ログイン

発達障害の心理社会的治療の意義と実際
ハートランドしぎさん 子どもと大人の発達センター センター⾧
岩坂 英巳 先生

米国からペアレント・トレーニング(PT)を持ち帰り、日本でのPT普及に尽力されている岩坂英巳先生に、PTをはじめとする心理社会的治療の意義と取り組みについて伺いました。
心理社会的治療の意義
発達障害には、連続性や個別性、進学や就労・結婚など生活環境の変化による動揺性があります。長期にわたり、途切れのない支援を続けるためにも、心理社会的治療が治療・支援の基本になります。
注意欠如・多動症―ADHD―の診断・治療ガイドラインでは、ペアレント・トレーニング(PT)などの専門的な心理社会的治療について、2016年の改訂前には薬物療法・子どもとの面接・親ガイダンス・学校との連携の次の選択肢としていましたが、改訂後は、環境調整と心理社会的治療を行った上で、効果判定を行い、治療効果が不十分な場合に薬物療法の追加を検討する流れに変わりました。
薬物治療では、不注意などの症状の改善がみられても、成長を促すことはできません。できることを増やし、セルフエスティーム(自己肯定感)を伸ばしていくには、本人とともに目標を決めながら、成長を促す視点を持って心理社会的治療を継続することが重要です。
図1 ADHD(児・者)の心理社会的治療とは
心理面へのアプローチ

・本人(児・者)との面接、精神療法

・本人(者)への認知行動療法

・家族への心理教育

行動面へのアプローチ

・本人(児)への個別行動療法

・家族(児の親)へのペアレント・トレーニング(PT)

・本人(児・者)へのソーシャルスキル・トレーニング(SST)

社会生活面へのアプローチ

・環境調整(家庭)

・連携による環境調整(学校、職場など)

岩坂英巳先生ご提供資料より作成
心理社会的治療の取り組み
心理社会的治療には、心理面・行動面・社会生活面へのアプローチがあります(図1)。医師、看護師、心理士、作業療法士、ケースワーカーなどの専門職が連携して行いますが、専門職は“船長”ではなく“水先案内人”としての立場がふさわしいと考えます。今、どのような状況にあるのかを十分にアセスメントし、本人と家族の希望をもとに「行き先」を設定し、「行き方(生き方)」を一緒に考えて、応援していく立場です。
ペアレント・トレーニング(PT)
PTは、保護者(親)が発達障害のある児の行動面にアプローチする心理社会的治療です。保護者が子どもの最大の理解者・支援者となるために我が子の発達の特性や行動、気持ちへの理解を深めます。厚生労働省の発達障害者支援体制整備事業においても、家族支援として2019年度から地域におけるPT普及の活動が本格化しています。
PTは5、6人のグループで行います。当初は全10回で行っていましたが、現在は普及を考え、5回(+フォロー回)を基本パターンにしています(図2)。ポイントは、子どもの行動を「好ましい行動」「好ましくない行動」「許しがたい行動」の3つに分けて、保護者が一貫した行動をとれるようにすることです。行動の仕組みを「きっかけ→行動→結果」で整理して理解したり、ほめるチャンスを見つけて実践したりできるように後押しします。
図2 ペアレント・トレーニングの基本プラットホーム(例)
1)子どもの行動観察と3つの分け方
「行動」の理解、3つのタイプ分け、ほめることの提案
2)子どもの行動の仕組みとほめるパワー
「行動の仕組み」の理解、ほめる基準を変える
3)達成しやすい指示とスペシャルタイム
CCQ、ほめてできることを増やす
4)待ってからほめよう
待ってからほめる(注目を外す)
5)まとめ
振り返り、ほめるための準備と伝え方
フォロー回:ポイント復習(特にほめること)と近況報告【1~2ヵ月後の実施を推奨】
*CCQ:Calm(穏やかに)、Close(近くで)、Quiet(静かに)の略
岩坂英巳先生ご提供資料より作成
PTの効果を得るには、参加者の高いモチベーションが必要です。保護者本人が困り感を持って状況を変えたいと思ったときに、かかりつけ医の先生から、PTへの参加を促していただくと効果的ではないかと思います。
ソーシャルスキル・トレーニング(SST)
SSTは、発達障害のある人が協調性やコミュニケーション力をグループ活動で養うトレーニングです。当院では主に小学4〜6年を対象としています。怒りの感情をコントロールして、自分の気持ちや意見を言葉で伝えられるようになることが目標です。
一般的には、学習とロールプレイのあとに遊びのセッションを設けて、その中で学習内容を実践します。並行して、別室で保護者のプログラムも行い、その日の練習のポイントを理解してもらった上で、自宅で実践できたらほめてほしいと伝えます。保護者を通じて学校の先生とも情報共有し、練習したスキルを実践できる機会をつくってもらえるように依頼します。SSTは、日常生活での般化が最も重要です。
なお、当院では2019年から、遊びを冒頭に行うプログラムに変更しています。自閉スペクトラム症(ASD)の児の参加が増えたことで、練習課題に個別性が大きくなり、「気づき」を促す重要性が増したためです。まず遊びから入って、自身の課題への気づきを促し、課題ができていたかを視覚的に示して確認した上で、家庭や学校での実践につなげています。
感覚統合療法(SI)
発達障害のある児の多動、衝動、こだわりなどの特性の背景には、感覚の過敏さ・鈍感さ・バランスの悪さ、身体の不器用さ、全体を見る力の弱さなどがあります。感覚統合の視点から行動を観察し、仮説を立てることで、具体的なアプローチを行うことができます1)写真)。SIは診断の有無にかかわらず取り組めるため、早期診断・治療を促す受け皿としても有用です。
これらの心理社会的治療では、子どもの小さな頑張りに目を向けてほめることが何よりも重要です。
感覚統合療法を行う部屋。作業療法士とブランコやロッククライミングなどの遊びを行う中で、楽しみながら、適切な情報処理のためのトレーニングをする