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- Interview -
小坂浩隆先生|社会適応力と発達特性の現れ方
監修 小坂 浩隆 先生 福井大学医学部精神医学教室 教授

神経発達症は環境によって見え隠れすることを理解し、
患者さんの支援者として寄り添う

近年、大人になってから神経発達症(発達障害)と診断される方が増えています。成人期の神経発達症では併存疾患を有することも多く、診断が難しいうえに、就労や自立支援など必要とされるサポートも多岐にわたります。一方、成人の神経発達症を診療する専門医の不足などが課題となっており、今まで神経発達症の診断をつける経験が少なかった一般精神科医に求められる比重が大きくなっていくと予想されます。

福井大学医学部精神医学教室教授の小坂浩隆先生は、児童青年精神医学、神経発達症(自閉スペクトラム症[ASD]、注意欠如多動症[AD/HD])、脳機能画像学をご専門とし、子どもから成人の神経発達症を診療されています。今回は、成人期における神経発達症の概要や診断のポイント、診療における留意点を中心にお話を伺いました。
神経発達症の特性は環境によって見え隠れし、
診断がつくか否かも変化する
― 発神経発達症の診療で、先生が重視されている点を教えてください。
 当院では一般的な神経精神疾患に加え、子どものこころ診療部を設けて神経発達症や不登校などのお子さんも診療していることが特徴です。私自身も子どもから大人まで幅広く担当しています。
 私は、神経発達症の診療では診断をつけること以上に、当事者やご家族の困りごとに耳を傾け、一つひとつ解決していくことを大切にしています。その一環として、困難の原因が神経発達症の特性によるものとご理解いただけるよう、診断書を作成したり、学校関係者や職場の上司に直接説明したりすることもあります。
― 最近注目されている「成人期の神経発達症」について、概要を教えてください。
 成人期の神経発達症には2つの意味合いが含まれ、子どもの頃から診断がついていて引き続き悩んでいる場合(図1 、1 段目)と、子どもの頃は問題なく大人になって初めて診断がつく場合(図1、3段目)があります。
 図1は、こころの器に社会適応能力の水が入っているイメージです。知的レベルが高いほど、また、周囲からのサポートが手厚くなると水は増えますが、周囲からの要求水準が高かったり、強いストレスがかかったりすると水は減っていきます。人はそれぞれ得意分野や苦手分野がありますが、定型発達者では、周囲からの要求水準が高くなり強いストレスがかかって水が減ったとしても、その人個人の苦手分野はさほど目立ちません(図1、4段目)。一方、神経発達症では得意分野と苦手分野における元来の個人内能力の差が激しく、社会適応能力の水が減ると苦手分野が露呈しやすくなります。
 つまり、神経発達症の特性は、子どもから大人への連続性を有するなかで環境によって見え隠れし、診断がつくか否かも変化するということです。例えば、大人になって初めて診断がつく場合は、子どもの頃は家族などの周囲のサポートが手厚く、義務教育という環境でうまく適応できていたものの、大人になってサポートが薄くなり、すべての行動に自主性を強いられた結果、元来の知的レベルではカバーしきれなくなり、苦手分野が露呈して神経発達症の診断に至ると考えられます。
 一方で、子どもの頃に神経発達症の診断を受けても、大人になって本人の特性に合わせた環境や支援などが得られた場合は、自尊心が育ち、苦手分野も目立たなくなり、診断がつかなくなることもあります(図1、2段目)。

周囲に神経発達症と指摘されて受診するケース、
精神疾患の背景に隠れているケースがある
― 大人になってから神経発達症と診断される場合、どのような経緯で発覚するのでしょうか?
 神経発達症の特性のために適応困難や生活困難感が生じ、問題点を主訴に受診されることが多いです。例えば、AD/HDでは昼夜のリズムがとりくにい特性がありますが、遅刻だけでは済まず、そのまま学校を休みがちになり、大学生の場合は結果的に留年が続いて教員が「AD/HDでは?」と疑い、受診につながるケースがあります。また、就職活動の面接がうまくいかずにハローワークでASDの存在に気づかされて受診するケース、引きこもり状態になって保護者に連れてこられるケースのほか、最近では会社の上司に連れられて受診する方も増えました。メディア等により、一般の方にも「神経発達症」という言葉が普及した影響もあると思います。
 また、抑うつ気分、不安、アルコール依存などを主訴に受診した方で、その背景に神経発達症が隠れている場合もあります。例えばAD/HDの併存症として表1が挙げられ、気分障害患者さんの11.1%、不安障害患者さんの9.9%、物質使用障害患者さんの12.5%にAD/HDの診断がつく方々がいると報告されていますが1)、私自身の経験ではもっと多く、これらの精神疾患の2~3割が該当するのではないかと思います。特に、抗うつ薬が全く効かないうつ状態の方はまず、神経発達症を疑ってもよいと思います。

― 子どもから成人期への診療の移行で注意すべき点や、成人期の社会的支援のポイントを教えてください。
 子どもの頃から神経発達症を診断されていた方では、小児科・児童精神科から一般精神科への移行が課題となることがあります。当院では、小児科や子どものこころ診療部で診療していた神経発達症の子どもは、成人期以降は精神科へ移行し、切れ目のない医療の提供を目指しています。精神科初診時は改めて症状チェックシートをつけていただき、幼少期からのASDやAD/HDの傾向を把握したうえで、現在の困りごとなどを確認しています。
 また、子どもの神経発達症は社会的にも支援制度が充実していますが、成人年齢で気づかれてもそれらの制度が十分ではありません。困りごとを解消する手段としては、社会的制度の活用も重要になるため、個々の状況に合わせて自立支援や障害者手帳、障害者年金などを申請できるよう精神保健福祉士につなげることも大切なサポートであると考えています。
成人期のAD/HDの診断では客観的なエピソードを引き出
すために、通知表やアルバムの持参をお願いすることも
― AD/HDの診断時、12歳以前のエピソードを正確に引き出すポイントはありますか?
 AD/HDの診断基準がDSM-5(図2)に変わり、症状の出現時期が「12歳以前」になったことで幼少期のエピソードは拾いやすくなりましたが、子どもの頃の経験を克明に話せる方は少ないため、様々なエピソードを引き出せるよう、こちらからの質問力が求められます(図3)。
 私の場合は、「夏休みはどう過ごしていましたか?」、「授業に集中していましたか?」、「きょうだいは仲良かったですか?」と聞くようにしています。AD/HDの方では、夏休みの宿題を最終日にする、または提出したことがない、きょうだいや友達といつも喧嘩になった、というエピソードが多いです。
 また、ご自身の経験を客観的に話せない方も多いため、診察時はご家族にも同席していただきます。特に予約時、自らの主訴や紹介状で「ASDかAD/HDか調べてほしい」とおっしゃる方には「初診時は親御さんも一緒に受診してください」とお願いしています。未就学児の頃の様子なども客観的に話していただけるため、より正確にエピソードを引き出すことができます。
 ただし、ご両親が高齢である場合、すぐには思い出せないということもあるため、小学校の通知表やアルバムの写真をご持参いただくようお願いしています。それらをきっかけに記憶が蘇り、「先生にいつも落ち着きがないといわれていた」、「よくきょうだい喧嘩をした」、「外出先で迷子になった」などのエピソードが出てくることがあります。

― エピソードが「2つ以上の状況下」で存在することを確認するポイントはありますか?
 いま現在のエピソードであれば、職場や学校に加え、病院受診時も異なる状況下に該当します。例えば、予約時刻に来 院せず急遽キャンセルする、寝坊して受診を忘れる、診察の順番を待てない、待合室でイヤホンをせず動画を見る、頻繁に足を組み替える、診察室の机に勝手に荷物を置くなどのエピソードがあります。また、大人になってAD/HDが発覚する方では、忘れ物がないよう常にすべての荷物を携行するため、カバンが大きいことが特徴的です。小学校時代から全教科の教科書を常にランドセルに入れておくことで忘れ物を防ぐ対策をとっていたと思います。
 ただし、初診だけですべての特性を正確に把握し、診断をつけることは難しいです。診察を重ね、たくさんのエピソードを引き出しながら、ご本人を理解していきます。また、初診時にAD/HDの傾向があるとわかっても、いま現在の生活困難感がなければ「このままでよいでしょう」と伝え、再診の予約は入れません。一方、仕事に就けない、友人・夫婦関係でトラブルが絶えないなどの場合は、最近起きたエピソードをもとに、一つひとつ対処方法を確認していくようにしています。
神経発達症の診断が烙印とならないよう配慮し、
周囲からサポートを得られるように説明する
― 成人期に神経発達症と診断され、ご自身が受け入れられない場合はどのように対応すればよいでしょうか?
 私の臨床経験では、診断を受け入れられないケースはまれですが、「診断がつくかは環境によって変化し、見え隠れする」、「AD/HD(またはASD)という烙印を押されたわけではない」とお伝えしています。また、「あなたが得意とする環境にいけば症状は目立たず能力を発揮できると思いますが、いま現在、周囲で困っている人がいるため対策をとりましょう」と前向きな声かけを心がけています。
 単純にエピソードを聞き出し診断結果を押し付けるのではなく、困りごとに耳を傾け、「それがAD/HD(またはASD)の傾向ではないか?」と提案すると、当事者は「だから苦しかったのか」と人生がうまくいかなかった原因を理解できるようになり、診断を前向きに受け入れていただけるように感じています。
― 家庭や職場において当事者がサポートを受けられるよう、どのように説明されていますか?
 ご家族や上司が診察に同席される場合は、神経発達症の診断がつく、またはその傾向があることをご理解いただいたうえで「怒らないでください」とお伝えしています。神経発達症で注意散漫な方に「気をつけなさい」というのは達成困難なことであり、できないことに対して怒ることは本人のやる気を削ぐうえ、怒る側も疲弊していきます。また、神経発達症では完璧主義な方も多く、一度うまくいかないと「もうやめた」と大学や職場に行けなくなってしまうこともあります。例えば、ご家族には、朝起きられないのであれば、毎日起こしてあげることがサポートであり、「もう大人なのに」という考え方を手放すよう伝えています。上司に対しては、「こうするとこの方のやる気が出るのではないでしょうか」、「この方はこれが少し苦手です」と、一つひとつ丁寧に説明することを大切にしています。
 当院では、これらのサポートについても医師からご本人と同席者に説明しています。神経発達症の方では、耳で聞くよりも文字やイラストで見る方が理解しやすい傾向があるため、説明時は製薬企業のパンフレットを活用しています。また、待合室にはイラストが豊富な書籍を置き、待ち時間に読んでいただくよう伝えています。
神経発達症の診療では、困りごとに耳を傾け
支援者となることが望まれる
― 最後に、神経発達症の診療を行っている先生方や、これから診療を行おうとお考えの先生方へのメッセージをお願いいたします。
 神経発達症の有病率は人口比で見れば数%ですが、大人になって精神科を受診する患者さんでは、神経発達症がベー スになっている割合が高くみられます。典型的なうつ病や双極性障害、アルコール依存症、ギャンブル依存症などでも、AD/HDやASDの診断がつく方は多く、一方で非典型例であればまずは神経発達症を疑ってほしいと思います。
 神経発達症の診療において医師は、当事者の困りごとを傾聴・受容・共感し、支援者となることが望ましいですが、精神科医1人ですべてをサポートすることはできません。コーディネーターとして精神保健福祉士や発達障害者支援センター、ハローワークなどにつなぎ、支援者を増やせるよう尽力することが医師の役割であると感じます。精神科の先生方には、患者さんの味方として困りごとをどのように解消したらよいか、一緒に考えてあげてほしいと願っています。
    参考文献
    1)Fayyad J et al.; Br J Psychiatry, 2007, 190, 402-409.

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2022年12月20日(火) 19:00~19:50

成人期ADHDを見逃さないために~ASRSから見えたこと・薬物療法の届け方~

演者:医療法人社団宙麦会 ひだクリニック 院長 肥田 裕久 先生

内容:精神科クリニックの喫緊の問題とはなんであろうか。統合失調症の生活支援、うつ病圏の就労支援等であろうか。

また複雑化する社会情勢、コロナ禍の影響を受けない精神科クリニックはないと思われる。

そういった日常的な臨床の中、目の前の患者に目を転じると思いもかけないことも見えてくる。それは発達障害の併存である。

どこか主病名だけでは説明のつかないことも多い。

そこで当院では外来患者にASRSを実施したところ、患者自記では併存の可能性が30%強にものぼった。つまり見過ごしていた、あるいはその目でみないとわからない事象であろうか。当日は成人期ADHDの治療意義、薬物療法の展開等も考えて行きたい。