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- Interview -
成人期の発達障害
診断のポイントと留意点
昭和大学 発達障害医療研究所 准教授
太田 晴久先生

丁寧な問診と幼少期の情報が診断の柱
患者さんの「成長」をサポートする視点が重要
成人期における発達障害は社会的な関心が高く、診療を求める患者さんが多くいる一方で、医療体制が不足していること、併存疾患を抱える患者さんが多く診断が難しいことなどが課題になっています。昭和大学発達障害医療研究所准教授の太田晴久先生は、2008年に昭和大学附属烏山病院に開設された成人発達障害の専門外来で、開設翌年から診療を続けられています。成人期における発達障害の診断のポイントや留意点を中心にお話を伺いました。
成人の発達障害外来の受診動機は「就労に関する困難」が多い
ー 発達障害の専門外来を受診される方の背景を教えてください。
成人の発達障害外来開設以降、初診の患者さんは累計で7,000名ほどになります。年代別では20代の方が最も多くなっています。専門外来のため、初診の時点から本人が発達障害を疑って受診されます。義務教育課程においては生活に大きな支障がなく、知的能力障害を伴わない発達障害の患者さんがほとんどです。有名大学を卒業された方も多く受診されています。
私自身は現在、外来では1日50~60名の再診の患者さんを診ています。最近では大学生を中心に初診を受け入れています。大学生になると自らマネジメントして授業を受け、単位を取得することが求められますが、そうした生活に適応できずに卒業に至らない、就職活動で失敗して引きこもってしまうといった事例も多く、その背景に発達障害が隠れていることがあります。卒業後、自らの特性を活かして円滑な社会生活を送るためにも、大学時代は治療や医療的支援を開始する重要なタイミングの一つだと考えています。
ー 受診される方は何をきっかけに発達障害を疑うのでしょうか。
就労に関する困難が受診のきっかけになることが多いと感じます。発達障害には、注意欠如・多動症(Attention-Deficit/Hyperactivity Disorder:ADHD)や自閉スペクトラム症(Autism Spectrum Disorder:ASD)などが含まれ、ADHDであれば注意力散漫である、ASDであればコミュニケーションが取りにくいなどの障害特性があります。こうした特性が原因で、作業能力的な問題や対人関係の問題が生じ、面接を受けても上手くいかず就職できない、就職しても思うように仕事ができないなどの経験から、インターネットで調べたり、周囲の人から指摘されたりして、自ら発達障害を疑うケースが多いように思います。
ADHDは生活上の困り事や幼少期の状況を丁寧に問診して総合的判断によって診断する
ー ADHDの診断のプロセスと診断時のポイントを教えてください。
問診が中心となります。私はまず、現時点での生活上の困り事を丁寧に確認していきます。そして、困り事がADHD特性と結びつくかどうかを検討すると同時に、幼少期のエピソードも確認し、双方において障害特性が認められる場合にADHDと診断しています。
困り事については、上手くいかない部分をより詳細に確認することが大切です。例えば、「注意力に問題はありますか」や「忘れ物は多いですか」といった質問では、「はい/いいえ」で終わってしまいがちです。「どのくらいの頻度ですか」「どういった物を忘れやすいですか」など、情景が浮かび上がるように、なるべく具体的に聞くように意識しています。本人がADHDを強く疑っている場合、特性に合うように答える傾向もあるので、こうしたバイアスを取り除く狙いもあります。
幼少期のエピソードの確認においては、初診時に養育者に同行してもらう、母子手帳や小学校の通知表を持ってきてもらうなど、より客観的に評価できる情報が得られるように心掛けています。母子手帳からは出生体重や言葉の遅れの有無など、通知表からは知的能力が確認できます。また、通知表には担任や保護者からのコメントも書かれているので、「忘れ物が多い」などADHD特性に結びつくエピソードが得られる点も重要なポイントです。ただ、近年は通知表に改善点を書かない傾向もあり、注意深く確認する必要があります。「最近は忘れ物が少なくなって立派です」と褒め言葉として記載されているケースもあるので、こうした情報も参考にしながら幼少期の状況を判断していきます。
ー ADHDの診断が難しい症例などに対しては、どのように対応されていますか。
多くの症例では初診時にADHDの診断がつくかどうかが決まります。しかし、養育者からの情報が得られない場合や、話すことが苦手で問診が進まない場合は、初診での診断が困難なこともあります。また、本人が発達障害を強く疑っているためにADHD特性を疑う経験を過剰に主張したり、養育者の側に否認の気持ちが強く、本人からの情報との間に乖離があったりして診断が困難になる場合もあります。こうした場合には、必要に応じて標準注意検査法(Clinical Assessment for Attention:CAT)などの自記式評価尺度を使用したり、Wechsler成人用知能検査(WAIS)などの心理検査を行ったりすることもあります。しかし、心理検査はあくまでも参考材料の一つであり、検査結果のみで診断することはできません。診断が難しい場合は、診察を重ね、最終的に集まったさまざまな情報をもとに総合的に判断することが重要と考えます。
ADHDと他の精神疾患・障害は併存の可能性も検討することが重要
ー ADHDと他の精神疾患や障害との鑑別のポイントを教えてください。
ADHDとASDは併存する場合も少なくないので、両方の特性があるかどうかについて聞くことがスタートラインになると考えます。特性に伴う行動や困り事が類似している場合もあります。例えば、対人関係のトラブルはASDで生じやすいと認識されがちですが、ADHDでも主訴となる場合があります。ASDでは、相手の思考や感情が直感的に理解できないという特性により、場にそぐわない言動、いわゆる「空気が読めない言動」によって対人関係のトラブルが生じる一方、ADHDでは相手の思考や感情は理解できるものの、衝動性という特性により言動をコントロールできず、思っていることをすぐに口にしてしまうためにトラブルにつながると考えられます(図1)。併存している場合は、対人関係のトラブルに両方の特性が関連してきます。
図1 同じ困り事の背景にあるASD、ADHDそれぞれの特性(例)
太田晴久先生ご監修
また、不注意という特性が知的な問題によって生じる場合もあるので、知的能力障害や境界知能であるかの検査が必要になることもあります。大学を卒業していても知能指数(Intelligence Quotient:IQ)が70~85程度ということもありますので数値化してみることが重要です。
双極性障害は、ADHDと類似点が多いため、鑑別が特に重要になります。米国における調査によると、ADHD患者さんの双極性障害有病率が19.4%、双極性障害患者さんのADHD有病率が21.2%となっています1)図2)。
図2 米国の18~44歳の成人を対象とした調査における過去12ヵ月間のADHDと精神疾患の有病率(海外データ)
【対象・方法】
米国の18~44歳の成人3,199名を調査し、①小児期ADHDの症状を経験していない群、②小児期ADHDの症状を経験しているものの完全な基準を満たしていない群、③小児期ADHDの患者で成人期ADHDの症状がない群、④小児期ADHDの患者で成人期ADHDの症状を報告した群の4群に分けた。①~③の各群の30名、④の群の60名について、過去12ヵ月間のADHDと精神疾患の有病率に関する医師面接調査を計画した(154名が参加)。
【limitation】

・本調査はDSM-IVの基準を用いて実施された。DSM-IVにおけるADHDの診断基準は小児のADHDを念頭に開発されたものであり、成人については最小限のガイダンスを提供しているのみである。

・成人ADHDは、臨床的再評価サブサンプルでのみ包括的に評価された。

・CIDIおよび臨床的再評価面接は自己報告に基づいていた。

・臨床的再評価面接で使用された半構造化面接であるACDSは、成人ADHDの臨床研究で使用されていたが、成人ADHDの臨床検証の標準的な方法は存在しない。

Kessler RC et al.; Am J Psychiatry, 2006, 163(4), 716-723.より作図
【参考文献】

1)Kessler RC et al.; Am J Psychiatry, 2006, 163(4), 716-723.

ー ADHDにおける「過小診断」と「過剰診断」の問題についてご見解をお聞かせください。
成人の発達障害の方は、併存疾患を有していることが多く、先にうつ病や適応障害などの精神疾患を疑って精神科を受診されることもあるため、医師が積極的に問診を行わなければ潜在的な発達障害を見つけることができない可能性があります。「仕事で失敗してうつ病になってしまいました」という訴えがあった場合、うつ病を来す要因が不注意で、ADHDが背景にあると類推できれば、詳しく聞いてみることが重要です。依存症もADHDを背景とする場合があるので、依存症と診断をしたら、まずは2~3問でいいので、ADHDに関する質問をしてみてほしいと思います。
「過剰診断」の方にも留意しなければなりません。単純に診断閾値を満たしているかどうかという程度であれば対処法自体は同じであるために本人の不利益になりづらいのですが、パーソナリティー障害など対応の仕方が異なる疾患の方に発達障害の診断をつけてしまうことは、本人が適切な治療を受ける機会を失ってしまうことにつながりかねませんので意識しておく必要があります。
ー 発達障害である旨を告知する際に注意すべき点はありますか。
発達障害に対してどのような認識を持っているかは患者さんごとに大きく異なりますので、まずはその認識を確認します。過度にネガティブに捉えている場合は、障害告知によって頭が真っ白になってしまうこともあるので、初めに認識を修正したうえで告知をするようにしています。
患者さんの中には、会社で発達障害を疑われて受診に至るケースがありますが、こうしたケースでは、診断することで会社内においてレッテルを貼られてしまい、患者さん本人にデメリットが生じることがあります。発達障害の診断は本人にとってメリットがある場合に行う意義があると考えますので、周囲の認識や患者さんの会社内での立ち位置などにも注意を払うようにしています。
正確な情報に基づく一致度の高い診断や治療の選択肢が今後の課題
ー 成人の発達障害診療における課題についてどのようにお考えですか。
医療側の課題としては、診断の一致度が不十分で、医療機関や医師ごとにばらつきが生じやすいこと、発達障害と診断された後の治療オプションが十分でないことが挙げられます。ADHDの場合は、薬物療法がありますが、成人のASD治療で主軸となるデイケアは提供できる医療機関が限られているのが現状です。
患者さん側の課題としては、困り事を発達障害と結びつけて安心したいという方が一定数いることです。こうした気持ちを否定するつもりはありませんが、正確な情報が集められないとなると診断の妥当性に影響します。また、発達障害の程度が重度であるほど、受診が遅れやすくなることも課題の一つです。引きこもってしまって受診が難しかったり、対人関係のトラブルなどがあったりしても本人が認識できていないケースです。より受診することが望ましい方が受診できていない状況を変えていく必要があると思います。本人の主体的な受診は難しいので、家族や保健師の方など周囲の人が発達障害の疑いを持って受診へのサポートができるかが課題解決のポイントになると考えます。
手探りの中で見えてきた「発達障害像」患者さんの自己理解や行動変化が励みに
ー 最後に、発達障害の診療を行っている先生方や、これから発達障害の診療を行おうと考えられている先生方へのメッセージをお願いいたします。
発達障害を診ていても診断に悩むケースがあるのが実情です。完璧を求めて発達障害診療への取り組みを躊躇するよりも、判断に迷う場合には、暫定的な診断をしたうえで、継続的に患者さんの状態を観察し、時には薬物治療も試みて、正しい診断に近づけていくことが重要だと考えます。
私が専門外来を担当し始めた当初は、それまで発達障害の患者さんを診た経験もなく、また、成人対象の発達障害外来ということもあって、本当に手探りでのスタートでした。上手くいかないこともありましたが、診療を続けているうちに自分なりの「発達障害像」のようなものが見えてきた気がしています。経験を重ねることが重要だと思います。
また、発達障害の患者さんは、純粋な方が多いという印象もあります。さまざまな問題行動を生じやすいものの、いずれの行動も障害特性に基づくもので、本人も困っています。一緒に困り事への対処を考えていく中で、患者さんの自己理解が深まっていく様子や、行動に変化があらわれる様子が見られると、診療のモチベーションも高まります。発達障害は治らないものと一刀両断にして入口を閉ざすのではなく、患者さんの成長を助けるという観点で継続的に付き合ってみてはいかがでしょうか。
太田先生お薦め
成人期の発達障害の診療に役立つ書籍
大人のADHD-もっとも身近な発達障害
(岩波 明、ちくま新書、2015)
あの人はなぜ相手の気持ちがわからないのか もしかしてアスペルガー症候群!?
(加藤 進昌、PHP文庫、2011)
大人のADHDやASDを本邦で先駆的に取り上げて解説している2冊です。