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- Interview -
尾崎紀夫先生|成人期の神経発達症 生きづらさとの向き合い方
長所を生かし短所を長所で補う
患者さんの特性を踏まえた個別化対応が重要
監修 尾崎 紀夫 先生 名古屋大学 大学院医学系研究科 精神医学・親と子どもの心療学分野 教授

近年、成人期における神経発達症は、社会的にも注目を集めています。わが国では、小児期から成人期にわたって継続した神経発達症の医療支援体制が整っていないことや、正しい理解がなされていないことなどが課題とされています。名古屋大学大学院医学系研究科 精神医学・親と子どもの心療学分野教授 尾崎紀夫先生に、成人の神経発達症の鑑別診断のポイントや基本的な対応などについてうかがいました。
成人でも親の来院や通信簿などで
幼小児期の情報を確認することが必要
― 神経発達症というと小児のイメージがありますが、成人の神経発達症はどのようにとらえられているのでしょうか。
 米国精神医学会が2013年に発行した「精神疾患の診断・統計マニュアル 第5版(DSM-5)」では、発達障害は「神経発達症」として分類されていますので、以降はその名称を使います。神経発達症には自閉スペクトラム症(Autism Spectrum Disorder; ASD)や、注意欠如・多動症(Attention-Deficit/Hyperactivity Disorder; ADHD)が主に含まれます。
 多くの精神障害は若年期に発症します。およそ半分の人は生涯のどこかで精神疾患を起こし、その4分の3が24歳までに発症するという、米国の疫学調査の結果もあります 1)
 ASD、ADHDにおいても、それぞれ「発達早期」、「12歳未満」に症状が見られることがDSM-5の診断基準に位置付けられていますが、これら「神経発達症」の場合は、「発症」というより「顕在化」といったほうがよいと思います。子どもの頃からASDやADHDの特性をある程度持っていて、その結果、社会生活に支障を来した段階で顕在化する(診断基準を満たす)と考えられるからです。また、わが国では2011年の障害者基本法の改正で“発達障害”を含めることが明記されましたが、その時点で、専門的な医療や適切な支援の体制が十分整っていなかったため、これらの「整備が求められる」と記載されました。しかし現在も整備は不十分で、医療や支援を提供できる人材育成等が不可欠です。
― 成人の神経発達症では、診断においてどのようなことに留意すべきでしょうか。
 成人、例えば40歳など年齢を重ねた方では、その時点の横断的診断だけでは、生まれた段階で神経発達症の特性を持っていたのか、その後のどこかの時期で、特性と類似の症状が発症したのかはなかなか区別がつきません。しかし、その区別をしなければ、治療方針を見誤ってしまう可能性があるので、そこが一番のポイントになります。
 その基本的な手段は、可能な限り発達歴や養育環境など、幼小児期の情報を集めることです。ご本人の話だけではわからないことも多いので、ご家族に来ていただく、母子手帳や小学校の通信簿を持ってきていただくなどの対応が求められます。
 また、神経発達症に限ったことではありませんが、きちんと手順を踏んで診断をすることが必要です。はじめに、脳やその他の身体の疾患など身体的基盤のある「一般身体疾患による精神障害」をきちんと評価し鑑別しなければなりません。例えば、「注意欠如」を呈して、「ADHDではないか」と受診された中に、てんかんや若年性アルツハイマー病による「注意欠如」の方もおられました。この鑑別診断は今も昔も変わらず重要で、検査が必要な場合は、大学病院等に紹介していただければと思います。
「診断は治療の“侍女”であって主人ではない」
患者さんへの対応は個別化が必要
― 神経発達症が疑われるような症状で、鑑別診断の結果、他疾患が原因だとわかった実例を教えてください。
 私の外来に、染色体微細欠失による「22q11.2欠失症候群」の20歳代の患者さんが紹介されてきたことがあります。22q11.2欠失症候群は、先天性心疾患や口唇口蓋裂など身体的問題に加えて、知的能力障害、ASD、ADHDといった多様な神経発達症を呈し、統合失調症の大きなリスク因子でもあります。
 その患者さんは、前年の春頃からイライラして落ち着かず、多動と思える行動が見られていましたが、20歳を超えて現れた症状なので、担当していた小児循環器科ではADHDではなく統合失調症を疑っていました。22q11.2欠失症候群だと紹介状に書かれていたので、まず甲状腺ホルモンをチェックしたところ、一過性の甲状腺機能亢進症であることが判明しました。薬物治療は行わず、入院で経過観察するのみとなりました。
 結果的に同じような症状を呈するものの、病因や病態が異なる疾患は多いので、それらを混同しないようにきちんと鑑別することが必要です。それと合わせて、たとえ同じ疾患と診断されても、症状には個別性があることにも留意していただきたいですね。
 先ほどの22q11.2欠失症候群はASDのリスクも高いのですが、ASDに起因する社会的コミュニケーションの障害とは別に、胸腺の問題から中耳炎を頻回に起こした結果生じた聴力の低下や口唇口蓋裂による発語が明瞭ではないといった要因から、二次的にコミュニケーションの問題が起こる場合もあります。また、22q11.2欠失症候群では多様な精神障害が各年齢で発現するため、ご家族から「同じ病気の人たちでも随分と特性が異なるように見える」と言われることも少なくありません。
 元東京大学教授の臺(うてな)弘先生は、「診断は治療の侍女であって主人ではない」2)と題し、印象に残った症例について記しています。診断はその人の特性を明確化する第一歩ですが、それで対応が決まるわけではありません。臺(うてな)先生は、診断や評価は「患者個人についての理解を構造的に組み立てたうえで役立てるのでないならば、何のために診断し評価しているのか意味をなさない」とも述べていますが、診断で治療を画一化するのではなく、患者さんの個々の問題への対応は個別化されるべきだと考えます。
DSM-5の診断基準変更の影響と
成人ADHD診断の留意点
― 続いて、成人のADHDについてうかがいたいのですが、貴院では成人で初めて受診される方は増えているのでしょうか。
 「自分はADHDではないか」などと来られる、成人の初診患者さんは増えています。特に、インターネットで自己診断したという方が多いですね。ただ、診察してみると、ADHDでない方のほうが多いです。
 ADHDと同様の症状を呈する「一般身体疾患による精神障害」を鑑別する重要性を前述しましたが、先日は、子どもの頃から授業中にぼんやりしていて今も大学の講義に集中できず、眠気が強いと訴える成人の患者さんが受診されました。高度の肥満があったので睡眠ポリグラフ検査をしたところ無呼吸が頻発していました。睡眠時無呼吸症候群の外科的治療により、注意欠如の症状も軽快しました。
 ADHDについてはDSM-5への改訂で診断基準が変更され、従来7歳未満とされていた発症年齢が12歳未満に引き上げられたほか、診断で必要な項目数について「17歳未満6項目、17歳以上5項目」とされ、成人を含む例示が追加されました(表13)。これにより、成人のADHDの診断の増加が予想されています。加えて、DSM-Ⅳ-TRでは認められていなかったASDとの併存も認められたことで、ADHDとASDの併存診断も増えることが考えられます。
 こうした診断基準の変更が、成人のADHDの過剰診断につながるのではないかとの懸念もあります。欧州では、ADHDの診断や治療薬の初回処方は専門医が行うなどの制限を行っている国もありますが、投薬前にしっかりと評価、診断することが基本だと考えます。  ADHDとはっきり診断がついてから処方を開始し、その後も再評価、例えば、ADHDに睡眠時無呼吸症候群が合併して、注意欠如を強めている可能性がないかなどを検討することも大切です。

衝動性や注意散漫の鑑別診断も
基本は身体疾患などの除外から
― 成人のADHDの鑑別診断のポイントを教えていただけますか。
 やはり基本は、先ほどお話ししたように、まず「一般身体疾患による精神障害」を考えるという流れになります。
 ADHDの特性である「衝動性・情動制御困難」や「注意散漫」の症状については、DSM-5の鑑別診断のフローチャート(図1、図24,5)が参考になります。どちらの症状についても、最初に医薬品や身体疾患による影響を、次に他の精神病性の障害を鑑別したうえでADHDと診断する流れになっています。薬物療法の前にしっかりと評価することが重要であり、自院で検査や評価が難しい場合は専門医に紹介していただきたいと思います。
― DSM-5で、ADHDとASDの併存が認められたことで留意すべき点はありますか。
 ADHDとASDの併存が容認されたことで、ASDの人の示す不注意症状が「だらしない」などと誤解されなくなるなど、特性として位置付けられたのは利点です。その反面、ASDの特性として理解されるべき行動が、ADHDと誤解されるといったことも起こり得ます。共通する症状でも、背景にあるメカニズムが違う可能性はあります。それらの症状をしっかりと評価することが適切な治療につながると考えます。
 ただ、現在の診断基準は、症状と経過に基づくものなので、病因が違っても症状が同じであれば区別しにくいのが現状です。そのため、病因病態の根源を明らかにしようと、ゲノム医学領域からのアプローチも進められています。しかし、先ほどの22q11.2欠失症候群の例のように、病因が同じでも症状のばらつきはあり、症状・経過、ゲノム医療の両面から考えていく必要があるでしょう。
 どの精神疾患でもそうですが、とにかく診断と評価に尽きるのです。診断を治療の“主人”にしてはなりません。


ある特性は場所や状況によって
長所にも短所にもなる
― 神経発達症の非薬物療法では、どのような対応が基本になるのでしょうか。
 全ての患者さんやご家族にお伝えしているのは、「ある特性は場所や状況によって長所にも短所にもなる」ということです。
「大らか」と言えば長所ですが「ルーズ」と言えば短所ですし、「きちんとしている」という長所は「細かいところにこだわる」という短所にもなります。ASDの「スペクトラム」は、その特性が連続性や幅を持つことを意味しますが、その所以でもあります。ですから、「長所を生かす方法を考えよう」と提案しています。
 その方の特性のためにできる部分、できない部分を明確化し、できる部分はご本人にやってもらい、できない部分をできる部分で補う方法を考えるわけです。私は字が下手なのですが、今はパソコンを利用してほとんど字を書かずに済ませています。「字は書かない。代わりに、パソコンをきちんと使えるようにする」というのと同様です。
 なお、子どもの頃の特性は、成人になると変わる場合もあります。非常に強い特性はそのままであることが多いのですが、子どもの頃にこだわったことが、いつの間にかさほど気にならなくなっていることもあります。
 大切なことは、できる部分とできない部分をしっかり確認していくことです。例えば、左手の中指1本が使えないだけなのに、左手全体を使わないようにしていたら、他の4本の指の力も落ちてしまいます。それは最も避けたいことなので、「これは少し苦手かもしれないけれど、それは大丈夫なので、それを利用しよう」などと、個別に対応を考えていきます。
 神経発達症ではもともとの考え方は変わりにくいので、ある程度行動から入らざるを得ないのは確かです。しかし、その前にこうした対応を行うことが基本です。
― 成人の神経発達症についても考え方は同じでしょうか。
 同様に考えてよいと思います。ただし成人では二次障害が起こり、不安症やうつ病が併存したり、一過性の統合失調様の精神症状が出現することもあります。そうした場合には、今起きていてその人の生活で大きな問題になっていることから対応します。
― 治療において、生活上の課題も含め、継続的かつ総合的に患者さんやご家族を支えていくことも重要な要素になるわけですね。
 そうですね。統合失調症でもうつ病でも精神疾患の診断基準では、症状だけではなく、本人の生活に支障が起きていることが要件とされています。
 国立研究開発法人 日本医療研究開発機構(AMED)では、「Life」という言葉の日本語訳には、「生命」「生活」「人生」の3つの意味があり、「これらの“3つのLife”を支えることを目指す研究開発を支援する」としていますが、診療においてもその通りなのです。精神科では初診の患者さんに、症状のほか、家族背景やこれまでの生活などについても聞きます。他科ではあまりそうした質問はしないですよね。生活やご家族の話を聞く中で、統合失調症など他の疾患との鑑別を行うという理由もあるのですが、それは同時にその方の生活や人生を考えていかなければいけないということでもあります。
    参考文献
    1)Kessler RC et al.: Arch Gen Psychiatry. 2005, 62, 593-602.
    2)臺弘. 精神科診断学. 1992, 3, 401-403.
    3)齊藤卓弥, ほか. 精神経誌. 2014, 116, 332-338.
    4)First MB(高橋三郎 監訳). DSM-5 鑑別診断ハンドブック. 医学書院, 2015, 115-117.
    5)First MB(高橋三郎 監訳). DSM-5 鑑別診断ハンドブック. 医学書院, 2015, 31-32.

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