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HAEの治療

監修:福岡市民病院 院長 堀内 孝彦先生

HAE治療の概要

遺伝性血管性浮腫(HAE)と診断がつかず、苦しまれている患者さんの中には、最適でない薬物治療や不要な開腹手術が行われてしまうケースもあります。しかし、HAEはきちんと診断がつけば有効な治療を受けることができる疾患です。 HAEの治療は、各ガイドラインに沿って大きく次の3つに分けられます1,2)

  • 急性発作に対するオンデマンド(要時)治療
  • 短期予防:歯科治療、分娩、小外科手術などの実施前に行い、血管性浮腫の出現を防ぐ治療
  • 長期予防:確定診断されたHAE患者が定期的に薬剤を使用し、血管性浮腫の出現を防ぐ治療

急性発作に対するオンデマンド(要時)治療

HAEの血管性浮腫はアレルギー性やアナフィラキシー性の血管性浮腫と違い、抗ヒスタミン薬やステロイド薬は効果がありません。エピネフリンも多くの場合無効とされています。現在、HAEの急性発作治療薬として国内で承認されている薬剤は、選択的ブラジキニンB2受容体ブロッカーとC1-INH製剤の2種類のみです。急性発作で、喉頭浮腫、顔や頸部の浮腫または腹部症状が認められる場合は、このいずれかが選択されます。

各薬剤の主な特徴は次の通りです。

薬剤 特徴
選択的
ブラジキニン
B2受容体
ブロッカー3-5)
  • HAEの急性発作治療薬として、国内では28年ぶりに承認された新しい作用機序の薬剤
  • HAEの急性発作の原因であるブラジキニンの作用を直接的に阻害する治療薬
  • ブラジキニンのブラジキニンB2受容体への結合を選択的かつ競合的に阻害し、血管拡張や血管透過性亢進を抑制する皮下投与製剤
  • 非タンパク質性アミノ酸を含む合成デカペプチド製剤
  • HAE治療薬として皮下投与による自己注射が可能なプレフィルドシリンジ製剤である。
  • 重大な副作用は、重篤な過敏症(頻度不明)
C1-INH製剤6-7)
  • HAEの急性発作治療薬として、国内で最初に承認された薬剤
  • C1-INH欠損/機能不全を補うための補充療法として使用する静脈内投与製剤
  • C1-INH製剤は特定生物由来製品(ヒト血液を原料として製剤化したもの)であるため、十分なインフォームドコンセントが必要(感染症のリスク)
  • 重大な副作用は、ショック、アナフィラキシー(頻度不明)
  • 医療機関での投与が必要
  • 凍結乾燥製剤であり、溶解液で用時溶解が必要

安全性については最新の添付文書をご確認ください。

喉頭浮腫を含むあらゆるHAEの発作に対しては、C1-INH製剤または選択的ブラジキニンB2受容体ブロッカーの投与が基本であると、WAO/EAACIによるHAEガイドライン2017では推奨されています5,6)。喉頭浮腫により、かすれ声や呼吸困難などの症状を認めた場合は、必要に応じて、まず気道確保を行ったのちこれらの製剤を投与します。既述の通り、抗ヒスタミン薬、ステロイド薬、エピネフリンは効果がありません。

妊婦および小児に対する治療7-10)

C1-INH製剤、選択的ブラジキニンB2受容体ブロッカーともに、妊婦に対する安全性は確立されていないため、治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみ投与することとされています。また、低出生体重児、新生児、乳児、幼児又は小児については、安全性は確立されていません(詳細は各製剤の添付文書、インタビューフォームをご参照ください)。

短期予防7),9-10)

2021年9月現在、短期予防に使用可能な薬剤として、国内で承認されているのはC1-INH製剤です。
ただし、歯科治療、出産、手術など侵襲を伴う処置による急性発作の発症抑制の場合に限られます。

長期予防9-10)

2022年3月現在、長期予防に使用可能な薬剤として国内で承認されている薬剤は、モノクローナル抗体と血漿カリクレイン阻害剤の2種類のみです。1ヵ月に1回以上あるいは1ヵ月に5日以上の発作がある場合、または喉頭浮腫の既往がある場合1)は、このいずれかが選択されます。

薬剤 特徴
完全ヒト型抗ヒト血漿カリクレインモノクローナル抗体11)
  • HAEの長期予防薬として、国内では2番目に承認された薬剤
  • HAEの長期予防的治療薬
  • ヒト血漿カリクレインに対する遺伝子組換えヒトIgG1モノクローナル抗体
  • 活性化された血漿カリクレインに対する阻害薬であり、血漿カリクレイン活性を持続的に制御することにより、急性発作の原因となるブラジキニンの過剰な放出を抑制する
  • プレフィルドシリンジ製剤で、2週間間隔で皮下投与する
  • 重大な副作用は、アナフィラキシー(頻度不明)
血漿カリクレイン阻害剤12)
  • HAEの長期予防薬として、国内で最初に承認された薬剤
  • HAEの急性発作の発症抑制薬で、血漿カリクレイン阻害剤としてはじめての経口薬
  • 血漿カリクレインの選択的な阻害剤
  • 血漿カリクレイン活性を低下させることで血管性浮腫の発作の原因となるブラジキニンの産生を抑制する
  • 患者自身による1日1回の経口投与が可能なカプセル製剤
  • 重大な副作用は、肝機能障害(3.8%)、QT延長(頻度不明)

安全性については最新の添付文書をご確認ください。

タグザイロ®の医療関係者向け情報サイトはこちら タグザイロ®の医療関係者向け情報サイトはこちら

※タクザイロの効能効果は「急性発作の発症抑制」です。

1)
日本補体学会遺伝性血管性浮腫(HAE) ガイドライン改訂2019年版(2019年発行)
2)
The international WAO/EAACI guideline for the management of hereditary angioedema – the 2017 revision and update
(遺伝性血管性浮腫診療のためのWAO/EAACI国際ガイドライン– 2017年改訂・更新版)
3)
秀 道広ら. アレルギー. 2018; 67: 139-47
4)
Maurer M, et al. PLoS One. 2013; 8: e53773
5)
Maurer M, et al: World Allergy Organ J. 2018; 11(5): 1-20
6)
Maurer M, et al: Allergy. 2018; 73(8); 1579-1608
7)
ベリナート®P注静注用500 添付文書
8)
フィラジル®皮下注30mgシリンジ添付文書
9)
堀内孝彦ら. 補体.2020; 57(1): 3-22.
10)
大澤 勲 編,難病 遺伝性血管性浮腫HAE,医薬ジャーナル社,2016,p59-65
11)
タクザイロ®皮下注300mgシリンジインタビューフォーム
12)
オラデオ®カプセル150mgインタビューフォーム