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SBS:Short Bowel Syndrome(短腸症候群)

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SBSライブラリー vol.11

北海道立子ども総合医療・療育センター

北海道立子ども総合医療・療育センター 小児外科 外科部長
縫 明大 先生

北海道立子ども総合医療・療育センターは、北海道における小児短腸症候群(Short Bowel Syndrome:SBS)診療の中心を担い、高度医療と療育の両面から患児や家族を支えている。多様な病状や成長をみせる小児SBSでは、個別性の高い対応が求められるが、当センターでは小児に特化した専門職による支援が可能で、保護者が自信をもって在宅治療へと移行できるよう、きめ細やかな指導やトレーニングを実施してきた。
そこで今回は、小児外科 外科部長である縫 明大先生に、北海道立子ども総合医療・療育センターにおけるSBS患者や治療の特徴、在宅治療への移行や就学支援のポイント、今後の展望などについてお話を伺った。

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取材日:2022年10月5日(水)

北海道立子ども総合医療・療育センターにおけるSBS治療の特徴を教えてください

SBS患者さんの特徴:遠方から通院するケースも

縫 明大 先生

北海道立子ども総合医療・療育センターは、小児に対する高度医療と療育を総合的に提供する専門医療機関であり、これまでSBS治療にも長く携わってきました。現在、当センターでは1歳から32歳まで計16名のSBS患者さんを治療しています。SBSの原因疾患は、腸回転異常症に伴う中腸軸捻転が最も多く、その他、腹壁破裂、ヒルシュスプルング病やその類縁疾患である慢性特発性偽性腸閉塞症(Chronic Idiopathic Intestinal Pseudo-obstruction Syndrome:CIIPS)、先天性の短腸症などとなっており、新生児期の発症が大半を占めます。なお、重症心身障害児の3名が、絞扼性イレウスや抗好中球細胞質抗体(Anti-Neutrophil Cytoplasmic Antibody:ANCA)関連血管炎の腸管病変を原因とするSBSによって、中心静脈栄養(Total Parenteral Nutrition:TPN)管理を行っています。
また、北海道は拠点病院へのアクセスが限られる地域も多いことから、札幌医療圏に立地する当センターには、岩見沢や千歳、苫小牧、室蘭などのほか、函館近郊や帯広といった遠方から片道3~4時間をかけて通院する患者さんもいらっしゃいます。患者さんの居住地域にある拠点病院との連携を考慮することもありますが、小児SBSの治療や栄養管理は特殊性が高く、それに対応できる医療機関や調剤薬局が限られるのに加え、そもそも患者さんの自宅から地域拠点病院へのアクセスが良好でないこともあるため、当センターへの定期的な通院が基本となっています。なお、カテーテルの閉塞・抜去といったトラブルの初期対応や、脂肪乳剤の定期的な投与などについては、各地域の医療機関で対応していただくこともあります。

医療部門と療育部門の両輪で取り組むSBS診療

当センターでは、私たち小児外科をはじめとした医療部門が中心となってSBS診療を行っています。しかしながら、新生児期に発症することの多いSBSでは、栄養管理が軌道に乗るまでに時間を要するため、それが多少なりとも患児の成長に影響を及ぼします。そのため、在宅治療への移行や就学といった患児の社会生活能力の獲得に向けては、成長・発達に対する支援も不可欠です。そこで当センターでは、成長・発達を専門とする療育部門のリハビリテーション医や理学療法士・言語聴覚士などの専門職と有機的な連携を図りながら、幼少期からの継続的なリハビリテーションにも取り組んできました。ここでは、主に身体の発育を促すトレーニングが行われますが、経口摂取が進まない患児に対しては、言語聴覚士による摂食嚥下リハビリテーションなども実施しています。
なお、当センターのSBS患者数はそれほど多くないことから、現在のところ、固定のSBS診療チームは設置しておらず、必要な支援の内容に応じて多職種によるカンファレンスを実施しながら、個別性の高い介入を行っています。

小児SBS治療において、どのようなことを大切にしていらっしゃいますか

保護者にとって不安の大きな在宅治療への移行

新生児期に発症したSBSの場合、1歳~1歳半には急性期治療が終わり、そのころになれば栄養管理も落ち着いてきますが、当センターでは、あえて2~3歳まで入院で管理をしています。これは自宅に戻った後も順調に治療を続けていくためには、十分な準備期間が必要だと考えているためです。
たとえば、在宅中心静脈栄養(Home Parenteral Nutrition:HPN)では、患児が輸液を背負って生活する必要があるため、患児の成長・発達を十分に促し、在宅での生活に必要な基礎体力を養わなければなりません。当センターでは、患児が1歳を過ぎて歩き始めると、看護師や保育士が見守るなか、おもりを入れたリュックサックを背負って院内を歩き回るといったトレーニングを始めるなど、自宅に戻った後の生活を視野にリハビリテーションを行っています。
また、入院期間中には、保護者はSBSという疾患や治療に関して理解や受容が進んでいくのですが、その一方で、在宅での治療に対して大きな不安を抱えています。HPNで必要となるカテーテルのルートのつくりかたや、ガーゼ交換の方法、輸液の調整方法などについては、指導によってほとんどの保護者が手技を習得することができます。しかしながら、自宅に戻り、さまざまな予想外のトラブルに直面しながら、保護者のみでケアを続けていくことは、私たち医療者の想像以上に負担の大きいことであり、在宅治療への移行に際しては、それを念頭に置いた準備が求められます。

在宅治療に向けた多職種支援と念入りなトレーニング

そこで当センターでは、退院が視野に入った段階で、医師や病棟・外来の看護師、理学療法士、言語聴覚士、薬剤師、メディカルソーシャルワーカーなどの多職種による在宅支援会議を開催し、各患児・家族の課題や対策を協議しながら、多岐にわたる調整を行ってきました。たとえば、遠方に居住する患者さんであれば、緊急時対応のための医療機関との連携、輸液の調製が可能なクリーンベンチを備えた調剤薬局の確保、共働きの両親でケアを十分に行うことが難しい場合などには、訪問看護などのサービスの利用といった環境面での整備を行うとともに、在宅治療に向けたトレーニングも念入りに行っています。
たとえば、HPNへの移行については、①保護者に対する院内でのHPNガイダンス、②院内で保護者にすべてのHPN手技を行ってもらう、③当センターに隣接する滞在施設(ドナルド・マクドナルド・ハウス)での外泊練習、④自宅での短期外泊(1~2日)、⑤1週間程度の外泊というように段階を踏みながら進めています。この過程で現われる「ガイダンスでは大丈夫だと思っていたけれど、実際に自宅でやるとなったら大変だ」という保護者の気持ちを傾聴し、具体的な不安や疑問点を拾い上げながら解決策を一緒に検討していくことで、保護者が自信をもって在宅治療に移ることができるよう心がけています。

保護者の自信は治療や養育にも好影響を与える

保護者が在宅治療に対して自信を持つということは、単に「HPNを実施できる」ということ以上に大きな意味があります。たとえば、患児の最も近くにいる保護者が、医療者とコミュニケーションをとりながら治療に前向きにかかわることで、やがて「うちの子の場合、テープはこのように貼ったほうがよい」といったように、患児の個別性に合わせた対応もできるようになるからです。
また、保護者の自信は養育にもよい影響を与えると感じています。たとえば、「もっと栄養状態をよくしてあげたい」「普通学級に通学させてあげたい」など、患児の成長に対して前向きな目標をもつことができ、それらを実現するための保護者の原動力にもなるようです。私たち医療者も、そうした希望を叶えられるよう最大限サポートしていきたいと考えています。

患児の成長から就学、自立に向けて、どのような支援が求められますか

小児SBSの就学・就職の状況

縫 明大 先生

これまでの経験から考えて、疾患のコントロールが順調であれば、SBS患児の幼稚園への入園に関しては、それほど垣根は高くありません。必要に応じて幼稚園の先生と面談し、生活上の注意点などをお話しすることもありますが、なにより院内で輸液の入ったリュックサックを背負って元気に走り回る子どもの様子を見ると、「これなら大丈夫そうだ」と感じる先生も多いようです。
また、幼稚園に通うことができた患児であれば、小学校についても普通学級への通学は可能だと思います。ただし、その受け入れについては、各小学校や地域教育委員会の判断に委ねられている部分も多く、就学前健診や病歴、医療的ケアなどを踏まえた事前の検討の結果、なかには特別支援学級への通学を勧められるケースもあるようです。保護者が普通学級への通学を希望し、私たち医療者も可能だと考える場合には、小学校の校長・教頭との面談や教育委員会との交渉などにも全面的に協力しています。
また、小学校へ入学した後は、中学校までは問題なく通学できるケースがほとんどですが、高校になると個人差も大きくなります。健康な生徒と同じ土俵で高校・大学へと進学した後に、一般企業へと就職する子もいれば、高校から特別支援学校へと進み、卒業後は障害者雇用促進法の制度を利用して就職する子もいるなど、その選択肢は多様です。当センターのSBS患者さんのうち、すでに6名が社会人として働いていますが、市役所勤務や自動車の整備工など、幅広い領域で活躍しています。

患児の「やってみたい」を受け止め実現していく

また、患児とのかかわりにおいても、必要時には医療や福祉の力を借りながら、自分自身で人生を切り開いていくことのできる力を身につけられるよう支援しています。たとえば、小学校高学年の患児に対して、短期入院でカテーテルの操作・管理方法を指導し、自分自身でできるようになってもらうというのも、自立に向けた取り組みの1つです。
さらに、患児の「これをやってみたい」という気持ちを受け止め、その実現に向けて一緒に考えていくことも大切にしています。私たち医療者は、SBSの特性や治療による制限を考えると、新しいことへの挑戦に対して「何か大変な事態に陥ったらどうしよう」と消極的になりがちです。しかしながら、患児が自身の希望を叶えていくことは、人生のさまざまなイベントを乗り越えていく大きな力になると考えており、私たちも可能な限りチャレンジできるように支援してきました。なかには、中学~高校のクラブ活動で卓球に挑戦し、充実した学生生活を送っていた子もおり、SBSであっても充実した人生経験を積みながら、自分らしい目標を見つけてもらいたいと願っています。

SBS治療について今後の課題・展望についてお聞かせください

患者さんの価値観に合わせた治療選択に向けて

近年、STEP法(serial transverse enteroplasty)などの腸管延長術による残存小腸の腸管順応促進や、病期に合わせた腸管リハビリテーションの実践、薬物治療による栄養状態の改善などによってSBSの予後は改善し、今後も新たな治療選択肢の開発も期待されます。そうしたなか、これからのSBS治療においては、疾患のコントロールに加えて、患者さんの生活スタイルや考え方を踏まえた治療選択も、より重要になると思います。患者さんや家族に対して新たな治療選択肢を示すことに加えて、患者さんの「できるだけHPNの手間を少なくしながら生活したい」「少しでも輸液量を減らして、自由な時間を増やしたい」といった希望や価値観を引き出しながら、一緒に治療を考えていくことが求められるでしょう。

スムーズなトランジションに求められる体制づくり

幸いなことに、当センターのSBS患児の多くは成長曲線に沿って大きくなり、日常生活において多少のトラブルはありながらも、患者さんや保護者が望む就学・就職を叶えることもできるようになりました。
しかしながら、他の小児疾患と同じく、小児を専門とする当センターから、成人を対象とする他の医療機関へのトランジションはあまり進んでおらず、その解決は目下の課題となっています。患者さんのなかには、就職後に他の地域へ転勤となり、それに伴い成人を対象とした医療機関に転院したケースはあるものの、現在のところ、明確なトランジションの基準はありません。将来的には、クローン病などのTPN管理を実施している医療機関への転院を検討しなければならないのですが、受け入れ先の体制などを考えると、その選択肢は限られているのが現状です。また、新生児期から長期にわたって当センターに通院してきた患者さんや家族にとって、まったく異なる治療環境へと移ることは不安が大きいものです。今後は、成人SBSへの対応が可能な拠点病院などと連携しながら、スムーズなトランジションへの体制づくりにも取り組みたいと考えています。

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