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SBSライブラリー vol.9

東北大学病院

東北大学病院 総合外科 下部消化管グループ 病院講師
渡辺 和宏 先生

東北大学病院 総合外科 下部消化管グループは、潰瘍性大腸炎やクローン病などの炎症性腸疾患治療の先駆けとして、腸管機能の温存とQOL向上を目指した手術治療に取り組み、東北地方における炎症性腸疾患治療の中心的役割を担ってきた。そうしたなか、短腸症候群(Short Bowel Syndrome:SBS)へと至った患者さんに対しても、多職種協働による包括的なチーム医療を実践し、患者さんそれぞれの生活スタイルや価値観も大切にしながら、長期にわたる療養を支えている。
そこで今回、渡辺先生に東北大学病院における成人SBS患者さんに対する治療の特徴や、腸管不全を伴うSBSにおけるマネジメントの要点、今後の展望などについてお話を伺った。

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取材:2022年2月3日(木)

東北大学病院におけるSBS治療の特徴について教えてください

東北大学病院の成人SBS治療の歴史と体制

東北大学病院 総合外科 下部消化管グループは、クローン病をはじめとした炎症性腸疾患の手術治療に積極的に取り組んできた歴史があり、腸管機能の温存や再手術を予防する術式・縫合法の検討など、患者さんのQOL改善に向けた研究も進めてきました。その一方で、2000年前後には、短腸症候群(Short Bowel Syndrome:SBS)として管理の必要なケースが増加していたこともあって、その頃に入局した私もSBS治療に携わるようになりました。その後、他院での勤務を経て東北大学病院に戻ってからも、引き続き成人SBS患者さんの治療にあたっています。

渡辺 和宏 先生

当院では手術治療のみならず、栄養サポートチーム(Nutrition Support Team:NST)やWOCセンターストーマ外来など、クローン病やSBSの治療をそれぞれ専門的な立場から支える仕組みが整っており、東北各県から多くの患者さんを受け入れてきました。現在、SBSの診療チームは、小児外科、消化器外科、消化器内科の医師、看護師、薬剤師、管理栄養士、メディカルソーシャルワーカーによって構成されており、カンファレンスでの症例検討などを通じて、情報の共有と治療の最適化を図っています。そうしたなかで、私たち消化器外科医は、成人のSBS患者さんを定期的に診察する立場にあるため、SBS治療に関することのみならず、患者さんの生活上の問題点などを拾い上げる役割も担っており、これらの情報をSBSの診療チームにフィードバックしながら対応を検討しています。
また、SBS治療にあたっては、高額な医療費の負担や福祉サービスの利用にかかわる身体障害認定に関しても確認が必要となるため、当院でもメディカルソーシャルワーカーによる支援を行っています。特に成人SBSの場合、原疾患がクローン病であれば指定難病の医療費助成制度が受けられる一方で、こうした助成の対象外となる疾患では医療費の負担が異なるため、この点にも配慮しながら治療を考えなくてはなりません。

※WOCセンター:褥瘡や人工肛門・人工膀胱、失禁などの問題に関する各診療科の医療情報を統合し、より専門性の高い医療を提供する部門。WOCはWound(創傷)、Ostomy(ストーマ)、Continence(失禁)の頭文字より。

成人SBSはクローン病を原疾患とする患者さんが中心

現在、当院で治療を行っている成人SBS患者さんは30名ほどです。原疾患はクローン病が中心となりますが、慢性偽性腸閉塞症などのほか、少数ではあるものの放射性腸炎も含まれます。また、クローン病は20歳前後で発症し、その後、手術を繰り返して40歳前後でSBSへと至ることが一般的であるため、当院の患者さんも40代以降の方が多いのですが、なかにはSBS発症から40年以上治療を続けている70代のSBS患者さんもいます。
なお、当院における成人SBSの増加傾向は、近年はやや緩やかになっています。その背景にはクローン病における再手術率の低下があり、たとえば国内10施設のクローン病患者1,871例を対象としたコホート研究では、初回手術を2002年4月以前に行った患者さんの再手術率は、5年で29.4%、10年で54.9%であったのに対し、2002年4月以降に初回手術を受けた場合の再手術率は、5年で18.5%、10年で40.9%と低下傾向を認めることが報告されています(p<0.001、log-rank検定)1)。なお、この研究では、再手術のリスク低下に寄与する因子として、初回手術後の免疫調節剤や抗TNF-α抗体製剤の使用が同定されており1)、当院におけるSBS患者さん増加の鈍化についても、クローン病に対する内科的治療の進歩に伴う疾患コントロールの向上が関係していると考えています。

成人のSBS治療ではどのようなことが求められますか

成人SBS治療のゴールは“合併症なく患者さんの生活を維持すること”

成人SBS治療のゴールは、カテーテル関連血流感染症などの合併症をきたすことなく、患者さんのQOLを大切にしながら、それぞれの生活を維持していくことだと考えています。また、SBS治療は長期にわたることから、チームとして多面的に関わりながら、患者さんが気負うことなく続けられる管理方法をみつけていく必要もあります。
当院では、患者さんの「もっと仕事を頑張りたい」「好きなものを食べられるようになりたい」といった声を受け止め、それぞれの患者さんの状態や生活スタイル、価値観などに合わせた治療・栄養摂取の方法を、SBSの診療チームで検討しています。そうした関わりが、患者さんの“SBSになっても、自分らしく生きることができる”という希望と、“不安や心配事があっても、SBSの診療チームによる支援がいつでも受けられる”という安心感にもつながっていると考えています。

日常生活への影響が大きい脱水に伴う体調不良

成人SBSの多くは、安定していれば厳格な食事制限を必要としないため、日々の食事については、患者さん自身が好みに合わせて調節しています。栄養の不足が認められるときには、補助的な栄養剤の処方や外来で脂肪乳剤の点滴を行うことで、おおむね対応が可能です。
その一方で、成人SBS患者さんの日常生活において支障となりやすいのは、脱水に伴う体調不良です。特にクローン病を原疾患とするSBSは大腸が切除されて小腸ストーマであることが多く、体調の変化でストーマ排液が増加しやすくなるため、大腸が残存する上腸間膜動脈塞栓症などに起因したSBSよりも脱水のリスクが高いと考えられます。また、心疾患合併例や高齢者などでは、脱水に対してより慎重に評価する必要もあります。
成人のSBSの場合、患者さんが“体調が悪いな、少し脱水気味だな”と感じれば、中心静脈栄養(Total Parenteral Nutrition:TPN)の点滴を追加するなど、脱水の解消に向けた対処は可能です。しかし、それでも強い脱水がある場合には脱力感や倦怠感により仕事などを休みがちになりやすく、フルタイムで勤務する患者さんは多くありません。そのため、主治医としては、SBSによる脱水のリスクや、事務などの室内での業務が望ましいこと、時に自宅療養が必要であることを記載した診断書を発行し、職場での理解が得られるよう努めています。日常診療では仕事中の状況なども聴取しながら支援を検討しています。また最近は、薬物治療の併用によって栄養状態が改善し、脱水を起こしにくくなったことで、「欠勤することが減って助かっている」という声もあがっており、患者さんのニーズを踏まえて治療内容の調節も検討すべきだと思います。

繰り返すカテーテル関連血流感染症では再指導などで原因究明を

SBS治療では長期にわたる中心静脈カテーテルの留置が必要となることから、カテーテル関連血流感染症を繰り返しやすく、平均すると1~2年に1回、多い方では半年に1回程度の頻度で発症している印象があります。当院では、カテーテル関連血流感染症予防の一環として、予防的エタノールロック療法を用いるなどの対策も講じていますが、SBSにおける標準的な感染予防法は確立されていないこともあり、すべてを防ぐことは難しいのが現状です。さらに、頻回のカテーテル交換は残存中心静脈の本数減少も招くことから、より効果的な感染予防法についても検討が必要だと考えています。
また、カテーテル関連血流感染症は、介入が遅れれば命を落とすこともあるため、患者さんに対して十分な教育を行い、カテーテルの管理法や体調不良時の迅速な対応の重要性について理解してもらうことも不可欠です。当院ではTPNの導入時に、カテーテル管理に関する患者指導を行っていますが、長期にわたる治療のなかでは、患者さんの思い込みや誤った知識によって、消毒が不十分になってしまっていることもあるようです。そのため、カテーテルの感染や閉塞などを繰り返す場合などは再指導を行って、その原因を明らかにしています。さらに、患者さんのなかには、家庭の事情などもあって、発熱していても無理をしてしまうようなケースも散見されます。合併症の重大性については、ご家族にも十分に理解してもらい、発熱時には時間外であっても病院に連絡することなど、具体的な対応策を共有しておくことも重要です。

QOLへの影響が大きいTPNに関連した不眠

成人SBS患者さんの多くは、TPNの点滴を就寝中に行っていますが、夜間に大量の水分を摂取するため、患者さんは途中覚醒してトイレに行ったり、ストーマのパウチを交換したりしなければならないなど、その負担は小さくありません。こうした背景から、SBS患者さんはしばしば不眠を訴え、なかにはうつ症状を認めることもあるなど、夜間の点滴がQOLに与える影響は大きいと感じています。
このような不眠症に対しては、これまで眠剤や抗うつ剤を処方しながら対応してきました。しかしながら、この問題の根本的な解決に向けては、夜間の点滴量を減らすことが欠かせません。たとえば、薬物治療によって栄養吸収を高め、点滴量の減少を目指すことも、QOL向上の手段の一つになるのではないかと考えています。

SBS治療について今後の課題・展望についてお聞かせください

増加が予想される高齢SBS患者さんへの対応

渡辺 和宏 先生

クローン病やSBSの治療が進歩したことによって、今後はより高齢のSBS患者さんも増加すると考えられます。成人SBSの長期にわたる治療では、肝機能や腎機能の低下、胆石や血栓イベントの発症リスクも高いことから、栄養バランスの調節なども含め、SBSの診療チームによる全身管理が求められるところです。
また、クローン病はSBSに至る前から、大学病院などの専門施設で治療を行う患者さんが多く、SBSへ進展後もチームによる包括的な治療が行われているのに対して、高齢で発症しやすい上腸間膜動脈塞栓症などによってSBSとなった場合は、一般病院で管理を継続しているケースもあるようです。今後は、必要に応じて当院での専門的な治療やケアを受けられるような連携を検討する必要もあるかもしれません。

SBS治療・マネジメントの標準化に向けて

現在のSBS治療では、治療内容や管理方法を患者さんごとに手探りで調整しながら、最善の方法を決めていかなければならない部分も大きく、長期的な予後への影響の評価も十分ではありません。より安全かつ効果的なSBS治療を実現するためには、まずは治療方法や感染管理などのマネジメントを標準化する必要がありますが、まだ日本全体での取り組みは進んでいないのが実情です。
そこで当院では、小児・成人SBSのデータベースを作成し、検査項目や治療内容、使用する点滴ポート・カテーテルの種類などを評価しながら、治療・マネジメントの標準化に向けた検討を始めています。標準化が実現すれば、院内におけるSBS治療の安全性向上のみならず、専門的なチームのない医療機関でSBS治療を継続できるようになる可能性もあり、地域におけるSBS診療の底上げにもつながるのではないかと期待しています。

変化するSBS治療戦略のこれから

SBSに対する治療戦略は、昨年、初の治療薬が登場したことで、栄養療法と外科的治療が中心を担っていたものから変化しつつあります。もちろん、SBS患者さんにとっては、TPNからの完全な離脱が理想的ですが、そこに至ることができなくても、薬物治療を組み合わせて点滴量を減らすことができれば、カテーテル関連血流感染症などの合併症リスクも低減し、より安全な治療に近づくと考えています。
さらに、海外で数多く行われている小腸移植についても、日本での実施件数は限られており、当院での実績も成人・小児合わせて13例に留まります(2021年3月時点)。腸管不全に伴う重度の臓器機能障害に苦しむ患者さんや、度重なるカテーテル交換によって残存中心静脈が失われつつある患者さんにとって、小腸移植は最後の砦となる重要な治療法です。こういった患者さんをスムーズに移植へとつなぐことができるよう、SBSの診療チームで連携をとりながら、今後も検討を重ねていきたいと考えています。

1)Shinagawa T, et al. Clin Gastroenterol Hepatol. 2020; 18(4): 898-907.e5.

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