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SBSライブラリー vol.8

九州大学病院

九州大学病院 小児外科 講師
永田 公二 先生

短腸症候群(Short Bowel Syndrome:SBS)の治療を求めて、九州各地からだけでなく中国地方など遠方からも多くの小児患者さんが訪れる九州大学病院小児外科では、多職種から成るチームによって患者の栄養管理が行われている。新生児輸液代謝栄養グループで、患者さんが在宅治療に移行できるよう日々ご尽力されている永田 公二先生に、小児のSBS治療での栄養管理の重要性や、ご家族に指導する際の注意点、地域の薬局や学校を含めた社会的なサポートへの働きかけについてお話を伺った。

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取材:2022年1月24日(月)

九州大学病院で診ている小児SBS患者さんと治療体制について教えてください

永田 公二 先生

現在、当院の小児外科で私が担当している短腸症候群(Short Bowel Syndrome:SBS)患者さんは10名程度です。突然腸がねじれてしまう中腸軸捻転のために小腸の大量切除を行った患者さんや、腸管が突然壊死する壊死性腸炎、腸管の神経節細胞の移動が小腸で止まってしまうヒルシュスプルング病の小腸型、上腸間膜動脈閉塞症などを原疾患とする患者さんがいます。SBSだけではなく、慢性特発性偽性腸閉塞症や腸管神経節細胞僅少症といった腸管機能不全の患者さんも含めると、20名程度を外来で診療しています。
当院ではSBSに対して、私が所属する新生児輸液代謝栄養グループ2名、小腸だけでなく肝移植なども行う移植グループ2名の計4名に合わせて、さらに4名ほどのレジデントや医員がチームになって治療を行っています。また、SBSの治療では栄養管理が重要であることから、薬剤師や管理栄養士、リンクナースなどの多職種からなる栄養サポートチーム(Nutrition Support Team:NST)が、SBSなど栄養障害のある小児患者さんの治療方針について、2週間に1度話し合いながら、治療を行っています。

小児SBS患者さんの治療のポイントを教えてください

急性期と慢性期によって異なる治療

SBS治療では、患者さんの状態によって異なる対応が必要です。中腸軸捻転などを発症し、救急外来を通して来られる急性期の患者さんに対しては、すぐに手術を行い、術後に栄養管理を行います。
また、当院では九州圏内だけではなく、山口県や広島県など遠方からも紹介されて来られる患者さんもいます。その中には、地域の治療で栄養管理が難しくなったり残存中心静脈の本数が減ったりしている慢性期の患者さんも少なくありません。そのような患者さんに対しては、場合によっては小腸移植も念頭において栄養管理を行います。

急性期と慢性期の患者さんの栄養管理

急性期のSBS患者さんの場合、術直後の腸管が蠕動亢進するintestinal hurryという時期には、なかなか経腸栄養(Enteral Nutrition:EN)が進まないことがあります。腸管が安定する時期までは、中心静脈栄養(Total Parenteral Nutrition:TPN)と緩やかなENによって、患者さんの状態に応じた細かい栄養管理を行うことが重要です。
慢性期のSBS患者さんでは、長期にわたるTPNの管理が必要となりますので、残存中心静脈をなるべく多く温存できるように注意して栄養管理を行っています。また、TPNが長期に及ぶことによって、腸管不全関連肝機能障害(Intestinal Failure Associated Liver Disease:IFALD)や静脈栄養関連胆汁うっ滞(Parenteral Nutrition Associated Cholestasis:PNAC)などの肝障害が生じることがあります。
そのため、小児のSBS患者さんでは肝障害を避けながら、成長・発達を担保していくことは重要な課題です。

残存中心静脈を温存するためのポイント

小腸移植に至る患者さんの多くは、残存中心静脈の本数が少なくなっています。これは、長期にわたってTPNを行っているなかでカテーテル関連血流感染症を起こしたために、カテーテルが抜去された部位が閉塞してしまうためです。当院では残存中心静脈の本数をできるだけ残すという治療方針のもと、一度感染したとしても同じ部位から新しいカテーテルを入れ直す方法をとっています。
また、成人ではポートタイプのカテーテルを使用することが多いのですが、小児はブロビアックカテーテルというシリコン製の長期留置型中心静脈カテーテルを挿入することが多いです。ブロビアックカテーテルにはダクロンカフという組織に適合して皮下で接着しやすい素材が使用されているため、カテーテルの事故抜去を予防できます。また、サイズが豊富であらゆる年齢層に対応できることと、血管に対する刺激が少なく血管を温存できることなどもメリットとして挙げられます。

自宅で栄養療法を行う小児のSBS患者さんとそのご家族に対してどのようなサポートを行っていますか

在宅医療連携室を介した患者さんへのサポート

少なくとも九州地域では、小児の在宅中心静脈栄養(Home Parenteral Nutrition:HPN)を容易に行える環境とは言い難い状況です。成人と違って小児の場合、TPNはオーダーメイドのメニューで行っており、無菌調剤が可能な薬局で混注して患者さんの自宅に届ける必要がありますが、対応できる地域が限られます。場合によっては、地域の中核病院で無菌調剤を行い、患者さんの自宅に届けていただくこともあります。
当院には在宅医療連携室があり、無菌調剤が可能な薬局や地域の中核病院の薬剤部を調べて、無菌調剤をお願いできないか直接ご相談することもあります。最近のことですが、無菌調剤が可能な薬局がない遠方の地域にお住まいの患者さんがおられました。在宅医療連携室で調べたところ、その地域でクリーンベンチの導入を検討しているという薬局が見つかったため、無菌調剤に対応していただけるよう薬剤師さんに直接交渉を行い、クリーンベンチの導入に至ったということがありました。このように地域の医療資源も考慮しながら、SBS患者さんが地域で治療を受けることができるよう努めています。

HPNを始める際のご家族への指導

小児のSBS患者さんの場合、治療の説明や治療方針の検討をするうえで、ご家族とのコミュニケーションがとても大切です。特にHPNを始めるときには、ご家族への指導が欠かせません。当院では、HPNに移行する患者さんやそのご家族に向けたパンフレットを作成し、無菌の管理や点滴に関する清潔操作について、図を用いて説明しています。また、カテーテル関連血流感染症を予防するために、コネクターの接続の際の消毒の仕方やドレッシング剤の交換の頻度など、カテーテル管理方法も指導しています。このようにパンフレットなどを用いながら、患者さんやご家族にわかりやすく何回も説明することが大切だと思っています。
ご家族への指導のタイミングは、例えば新生児集中治療室(Neonatal Intensive Care Unit:NICU)や新生児回復期治療室(Growing Care Unit:GCU)などで長期間治療を行った小さいお子さんの場合、ご家族への指導は退院する1ヵ月程度前からNICUやGCUのスタッフが行い、お子さんも交えた直接の指導は小児病棟に移ってから1~2週間程度かけて行います。
また、ご家族からは、毎日の食事について相談を受けることが多いです。小さいお子さんの場合は、離乳食を段階的に進めていきますが、食べさせてもいいもの、注意するべきものなどについて、NSTの管理栄養士も加わって食事指導を行います。最近、外来NSTを設けたこともあり、個別の栄養相談や食事指導は外来でも対応しています。

就学時における学校との連携

小児のSBS患者さんの場合には、幼稚園や保育園への入園、小学校への入学などのライフイベントがあります。カテーテル管理やHPNによる栄養管理をしている場合、お子さんが支援学級と普通学級のどちらに入るのがよいのか、小学校入学の前年に教育委員会が判断することがあります。私も医師の立場として、どのように学校生活を送るのがお子さんのためになるのか一緒に考えます。また、担任の先生や支援学級の先生に直接病院に来ていただいて、学校生活を送るうえでの注意点などをお話しすることもあります。
HPNを行っている患者さんは、基本的に24時間のカテーテル管理が必要となります。成人ではカテーテル管理を常時行うためのベストやバッグなどがありますが、残念ながら小児用はありません。そのため、点滴が納まるリュックをご家族の方が手作りされ、それを背負って学校生活を送る患者さんもいます。学校に通っている間、点滴チューブが引っ張られて抜けることがないよう注意もしていただく必要がありますので、学校側にもこういった注意点をお伝えしています。

SBSに対する外科的治療の現状について教えてください

腸管延長術を含めた治療戦略

永田 公二 先生

SBSに対しては栄養療法のほかに外科的治療である小腸移植や、小腸移植の前に行う腸管延長術があります。当院には、腸管運動障害によるSBSの患者さんと同じ割合で、中腸軸捻転などによって壊死した腸管を切除してSBSになった患者さんがいます。後者の場合は、小腸が短くなったあとにある程度伸びることがあります。伸びた段階で腸管径も太くなるため、太くなった腸管に互い違いに切れ込みを入れて短冊状にするSTEP(Serial Transverse Enteroplasty Procedure)と呼ばれる腸管延長術を行います。
SBSの重症度にもよりますが、残存小腸が20cmに満たない患者さんには腸管延長術が必要です。当院では、現在までにSTEPによる腸管延長術を5名の患者さんに6回にわたって行っています。
残存小腸が20cm未満の患者さんでは、急性期に治療介入が始まった場合、長期の入院が必要となります。乳幼児期からの入院では、長期の母子分離により家族が分断したような状況にもなりがちです。そのため、少なくとも1年以内には、腸管延長術も含めてある程度治療を完結して、在宅での栄養管理に移行できるよう治療戦略を立てています。

わが国の小腸移植の現状

小腸移植については、わが国では、2020年12月末までに31名に対して35例に実施されています1)。小腸移植の全体的な成績としては、5年生存率は71%、移植した小腸の5年グラフト生着率は62%です1)
小腸移植は確立した治療ですが、小児の場合には、体が小さいとドナーの小腸を体内に入れることができないため、移植前に十分に体が成長している必要があります。そのため、われわれ小児外科医やNSTチームの役割の一つは、適切な栄養管理と腸管延長術を行って小児のSBS患者さんの成長を促すことを手助けし、移植医に託すことだと考えています。

今後のSBS治療について教えてください

SBSの新しい治療薬も出てきており、今後さらに研究が進むことを期待しています。一方で、これらの治療によって患者さんの栄養状態が保たれたまま成長・発達が可能なのかを、臨床の現場で注意深く観察していく必要があると考えています。小児のSBS治療では、成長・発達を考慮して栄養管理を行うことが重要です。治療効果と同時に、患者さんの栄養状態も評価しながら、これからも栄養管理を進めていきたいと思っています。

1) 日本腸管リハビリテーション・小腸移植研究会. 移植. 2021; 56(3): 265-271.

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