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循環器いろは

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「ニモカカワラズ」を変える!Hypertensiton Paradoxへの挑戦

vol.25No.9

高血圧患者の約半数は治療を受けている…
ニモカカワラズ

伊藤 裕 先生
慶應義塾大学 内科学教室 腎臓内分泌代謝内科

わが国の高血圧患者のうち約半数は医療機関で治療を受けているにもかかわらず、そのうち降圧目標を達成できているのは約3~4割に過ぎないと言われています1)。現在の治療水準でなぜ、ここまで目標達成率が低いのでしょうか?
受診患者の降圧目標達成率が依然として低値である原因は「中途半端な治療では我々が期待するほどの厳格降圧は得られない」ということに尽きます。もちろん、「そこまで厳格に下げる必要があるのか」というようなClinical Inertia(治療惰性)が少なからず医師側にあったことは否定できないでしょう。しかし、昨今の大規模臨床試験の結果や、各国の高血圧治療ガイドラインはより厳格な降圧を支持する傾向にシフトしており、今日では「しっかり下げたほうが良いのだ」という意識をかなりの医師がお持ちだと思います。
しかし、厳格降圧の実践はそう簡単ではありません。その背景には肥満、食塩過剰摂取、睡眠時無呼吸症候群などを併せ持った治療抵抗性高血圧患者の増加があります。降圧目標達成に難渋するこのような例に対し、厳格降圧の重要性を認識してはいても「できることはやった」、「このくらいでも良いだろう」という後付の妥協が医師側に生じてしまうことが、降圧目標未達成の大きな原因となっているのです。これは高血圧が、放置してもすぐさま命の危険に直結するわけではない、いわゆるSilent Killerたる疾患であるためです。
治療抵抗性高血圧は統計的には決して少なくないとされていますが、その一方で、現在の高血圧治療の水準であれば9 割以上の患者さんが降圧目標達成可能という指摘もあります。実際のところ、治療抵抗性高血圧についてどのように考えればよいのでしょうか?
確かに、降圧薬を3 剤使用しても管理の難しい治療抵抗性高血圧患者さんは少なくありませんが、どう治療しても血圧が下がらず、原因も不明な方はそのうちの数パーセントに過ぎません。残りの治療抵抗性高血圧患者さんについては① 肥満や② アドヒアランス不良、③ 薬剤選択のミスマッチといった原因が必ずあり、逆にいえば介入の手立てもあるのです。
具体的にみていきましょう。まず① 肥満については高血圧を診ておられる先生方が、肥満やメタボリックシンドロームを中心とした病態に関する運動や食事などの非薬物療法を確実に実施いただくことが不可欠です。血圧管理や減塩に関してはしっかり指導をされていても、肥満は守備範囲外という先生は少なくないと思います。高血圧はさまざまなリスクファクターが関連する複合的な疾患であり、また肥満をベースとした疾患の一つですから、栄養およびエネルギー代謝の観点が欠けては片手落ちになってしまいます。患者さんの食事療法、運動療法のモチベーションを高める技術は高血圧治療の基本として身に着けるべきであり、また患者指導には高血圧・循環器病予防療養指導士や看護師などのメディカルスタッフの力を活用することも重要です。
では、②アドヒアランス不良についてはどのような介入が必要でしょうか?
併用薬を合剤に切り替えることで、血圧のコントロールが良くなった経験をお持ちの先生は少なくないと思います。これはポリファーマシーがどれだけアドヒアランスに悪影響を与えているかの証左と言えるでしょう。アドヒアランスの向上を通して高血圧治療の効率を上げるためには、患者さんがどれだけの薬剤を本当に飲んでいるのか、これだけの薬剤をこの患者さんは本当に飲めるのか、など医師が十分に考慮する必要があります。
例えば降圧薬3剤併用で血圧を管理する場合、その患者さんが飲む薬剤の総数はどれほどになるでしょうか。とくに複数の診療科にかかっている患者さんでは、どこで何が処方されたのか不明なケースも少なくありません。薬剤数が多ければ多いほど怠薬傾向は強まります。したがって、高血圧を診る医師は患者さんが飲んでいる薬剤の全容を把握し、本当に必要な薬剤に絞って極力薬剤数を減らしていく必要があります。「これとこれは大切な薬なので必ず飲んでください」と言い切れる医師になるためには、ある程度、他の疾患のことを知ったうえで、全体のコーディネーションをおこなえる素養が求められます。
薬剤選択のミスマッチについてはいかがでしょうか。JSH2014では臓器合併症に応じた推奨薬が示されていますが。
現在のガイドラインは第一選択薬の幅が広いため、医師の選択に委ねられている部分が大きいですが、一方で治療選択のための検討材料は蛋白尿の有無、CKDの有無、糖尿病の有無程度しかありません。その患者さんに合った治療が何なのかを測るバイオマーカーがないため、個別化医療がなされていないというのが現在の高血圧治療における問題点の一つであり、今後の課題でもあります。
私は内分泌が専門ですので、受診された高血圧患者さんには二次性高血圧のスクリーニングも兼ねていくつかのホルモンを調べ、そのプロフィールを一つのバイオマーカーとしてみることでその方に合った治療を選択するようにしています。このように患者さんから得た多くの情報をもとに、患者さん個々人に合った治療選択―例えばCa拮抗薬から開始するのか、RA系阻害薬を中心にするのかというような個別化がおこなわれることが望ましいと考えています。
わが国の高血圧患者全体の降圧目標達成率を押し上げ、Hypertension Paradoxを解消していくためには、高血圧治療はどう変わっていくべきでしょうか。ISH2022の開催実行委員長であられる伊藤先生の、今後の展望をお聞かせください。
日本高血圧学会ではISH2022を一つの契機として、今後10年単位のスパンにおける長期的なアクションプラン、「5ヵ年計画」を検討しています。これは「日本における高血圧の制圧」を大目標とする計画で、そのプロセスとしての具体的な目標値も今年中には出せる見込みです。
「高血圧の制圧」というのは非常に大きな目標設定ですが、この高いハードルを越えるためにはわれわれも大きな「山」を築く必要があると考えます。「山」の大きさはその高さと、裾野の広さという2つの側面から規定されるものですが、この山の高さとはすなわち高血圧治療における技術的な精度の向上であり、裾野の広さとはより幅広い分野の方にこの問題に関わっていただくことを示します。多職種、多領域にわたって行政や民間企業をも巻き込み、さらに新たなバイオマーカーやAI技術といった幅広いテクノロジーを取り入れながら高血圧制圧を目指す大きな活動にしていければと考えています。
また、他学会との協力体制をこれまで以上に堅固にすることも重要です。患者の約半数が高血圧を合併している糖尿病や、その進展に高血圧が深く関与している腎臓病、そして先述の肥満など、各学会との連携を深めながらそれぞれの領域における技術や知識の共有を通して、よりお互いの水準を高めていくことが求められます。やがては「高血圧の制圧」という高みに至る、大きく裾野の広い山を高血圧学会として築いていければと考えています。
  • 文献
  • 1)厚生労働省:平成27 年 国民健康・栄養調査報告,2017
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