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循環器いろは

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「ニモカカワラズ」を変える!Hypertensiton Paradoxへの挑戦

vol.25No.11

高血圧治療ガイドラインは普及した…
ニモカカワラズ

梅村 敏 先生
横浜労災病院

2000年に初めて発行された後、3回の改訂を経て今では最も発行部数の多いガイドラインとして広く普及している高血圧治療ガイドラインですが、ガイドラインが提唱する治療はどの程度実践されているのでしょうか。
わが国の臨床医1,253名を対象にしたアンケート調査では、『高血圧治療ガイドライン2014 (JSH2014)』を知っていると答えた割合は94.0%、また「大変有用」または「有用」と回答した割合は90.5%で、多くの医師がJSH2014を活用していることがわかっています(1)。また、現在の高血圧治療に対する評価は他の疾患に比べ非常に高く、内科医における治療満足度は98.9%とされています2)。しかしながら、わが国の高血圧治療率、および管理率は世界的にみて決して高くはないというのが現状です3)。現在、約4,300万人の高血圧患者のうち、降圧目標に到達しているのは約1,200万人との推定もあります。高血圧治療を受けている方の約半数が管理不良ということですから、実際にこれらの患者さんに対しガイドラインどおりの治療が実践されているとは言い難い状況であると思われます。
図.1,253 名の日本人医師からのJSH2014 に関するアンケート調査の結果
わが国におけるHypertension Paradoxの原因の一つとして、ガイドラインどおりの治療がおこなわれていないという背景があるのですね。ガイドライン自体の普及と、ガイドラインが提唱する治療の普及に乖離があるのはなぜでしょうか。
単にガイドラインで降圧目標値を提唱するだけではなく、それを実臨床に落とし込むための方策が必要ということではないでしょうか。Hypertension Paradoxは世界的にも重要な課題ですがACC/AHA高血圧ガイドライン20174)やESC/ESH高血圧ガイドライン20185)においては、患者のアドヒアランスの改善や治療の質の向上など、高血圧管理率向上のための提言に多くのページが割かれています。
さらに、より具体的な方策としてACC/AHA2017では血圧分類自体が改定されました。高血圧の定義がこれまでの「≧140/90mmHg」から「≧130/80mmHg」に変更されることで、米国では高血圧と診断される患者が約1.4倍に増加し6)、とりわけ45歳未満の若年層では従来の2~3倍に達するとされますが、指導や治療介入を受ける患者が増加すれば国民全体でみた血圧値は低下することでしょう。
また、高血圧の薬物治療においては単剤より多剤併用療法の方が効率の良い降圧が得られること、かつ薬剤数は少ない方が服薬アドヒアランスは良好であることが広く知られています。しかし、単剤治療から開始した例では降圧目標未達成でも薬剤追加などの治療強化が適切におこなわれないケースが多かったため、ESC/ESH2018では配合剤を用いた複数降圧薬の併用がファーストラインとして提唱されました。
しかし、わが国では配合剤を第一選択とすることは現在の保険診療では許容されていません。
さらに、わが国では降圧目標達成に関して医療者側の明確なインセンティブがないことも問題かもしれません。主に民間保険会社が医療費を担う米国では、CVD発症リスクの抑制が保険者の生涯医療費の低減に繋がるため積極降圧が後押しされます。また、家庭医が国家公務員である英国では、診療している患者の降圧目標達成率や血糖管理が良好だと医師の給料に反映される制度があるようです。しかし、わが国にはこのような医師のモチベーションを高める仕組みがないため、過降圧で患者さんの具合が悪くなるリスクを負ってまで、積極的に治療強化をおこなわないというケースは少なくないでしょう。
このように、高血圧管理率の向上においては単にガイドラインを整備すれば良いわけではなく、その背景となる医療制度も重要なファクターとして検討する必要があります。
では、わが国の医療制度の枠組みの中で、今後高血圧管理率を向上させていくにはどのような方策が可能でしょうか。JSH2019で検討されている変更点について教えてください。
2018年9月の日本高血圧学会総会でお示ししたJSH2019の草案では、高血圧の基準値は現在の「≧140/90mmHg」から変更なしとしています。しかし、現在のガイドラインにおける「正常血圧:120-129/80-84mmHg」、および「正常高値血圧:130-139/85-89mmHg」の区分が、「正常高値血圧:120-129/80mmHg未満」と「高値血圧:130-139/80-89mmHg」に変更される見込みです。現在の「正常高値血圧」は決して「正常」ではなく、あくまで「高値」なのだと印象付けることにより、早期からの生活習慣改善などを促すことを目的としています。
また、高血圧の基準値は変わらないものの、合併症のない75歳未満の成人患者における降圧目標値を「<130/80mmHg」とし(ただし、① 降圧薬治療の開始は原則、診察室血圧140/90mmHg以上とし、② 未治療で診察室血圧130‒139/80‒89mmHgの症例では、生活習慣の修正を強化する)、いくつかの合併症や病態を有する症例での降圧目標値も引き下げられる見込みです。これまで以上に厳格な管理目標値を設定することで、積極的な降圧に繋げたいと考えています。目標値の厳格化によって降圧目標達成率は低下するかもしれませんが、国民全体の血圧の絶対値は確実に下がり、やがて20年後、30年後の心血管イベント発症率の低下として結実すると考えます。これらの降圧目標引き下げの考えは、米国、欧州とも一致します。
なお、本年度には既存の主要降圧薬のほとんどで後発医薬品が利用可能となりましたので、費用対効果もより良くなってくると思います。
新しいガイドラインを通してHypertension Paradoxの解決を目指すには、JSH2019を多くの先生に周知することに加え、ガイドラインが提唱する治療を実践いただく必要があると思います。どのような取り組みが考えられるでしょうか。
幸いなことに、わが国では家庭血圧計が広く普及していますのでこれを活かさない手はありません。自らの血圧値を毎日意識することによって、自分で血圧を管理しようという主体性を持つことができますので、家庭血圧測定をおこなっている方はそうでない方に比べて血圧コントロールが良好であるとされています。ちなみに米国では以前、ラジオで「血圧を測りましたか」という放送が流れるのを聞きました。このような効果的なリマインドをわが国でも実施できないかと考えています。
また、こちらも米国の面白い研究ですが、床屋さんに薬剤師を派遣して高血圧管理に関する指導をおこなったところ、おこなわなかった群と比較して、より降圧が得られたとの報告があります7)。わが国でも糖尿病に関して、薬局での薬剤師による指導が血糖コントロールにどのような影響を与えるかが検討されています8)。このような、医師以外のスタッフとの効果的な協働も今後の重要な課題です。ESC/ESH2018では、患者さんの服薬アドヒアランス向上には看護師や薬剤師といったパラメディカルを巻き込んだチームで取り組むことの重要性が強調されています。また、約1,500万人以上いるともいわれる未治療高血圧患者さんを治療に導くためには、どうしても診察室の外の力を借りることが必要です。
わが国において、高血圧は喫煙に次ぐ最大の死亡リスク因子です9)。このように非常に重要な疾患であるにもかかわらず、国としての対策は他疾患に比べ遅れていると言わざるを得ません。学会として、国への働きかけを続けていくことも重要と考えます。また現在、高血圧学会では2022年の国際高血圧学会国内開催に臨み、中長期的な目標を策定中です。JSH2019は来年の公開を目指し、これから22の関連学会とのリエゾンやパブリックコメントの実施を経て最終の調整がおこなわれる予定ですが、公開の暁にはこの大きな目標達成に向けて広く活用されることを願っています。
  • 文献
  • 1) 斎藤重幸ほか:血圧25:893,2015
  • 2) 公益財団法人ヒューマンサイエンス振興財団:平成26 年度(2014 年度)国内基盤技術調査報告書「60 疾患の医療ニーズ調査と新たな医療ニーズ」,2015
  • 3) Kario K, Wang JG:Hypertension 71:979, 2018
  • 4) Whelton PK et alHypertension 71e13, 2018
  • 5) Williams B et alEur Heart J 39:3021, 2018
  • 6) Muntner P et alCirculation 137:109, 2018
  • 7) Victor RG et alN Engl J Med 378:1291, 2018
  • 8) Okada H et alParmacology & Pharmacy 7:124, 2016
  • 9) Ikeda N et alPLos Med 9:e1001160, 2012
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